意思による楽観のための読書日記

ルポ貧困大国アメリカII  堤未果 ****

オバマ大統領で”change”とするはずだったアメリカがリーマンショックの後遺症を引きずり、なおも悪くなっていた。筆者は実録インタビューを中心に、教育ローン問題、社会保障の崩壊、医療保険問題、刑務所問題を取り上げた。オバマ大統領政権下で実際に実行された施策、「テロとの戦い」グアンタナモ収容所とアブグレイブ刑務所の閉鎖を宣言した大統領だったが現実は世界中にあるアメリカの収容所で罪もなくテロの容疑者として拘束された人たちが無期限に尋問にあい拘束し続けられている。「愛国者法」では一般市民に対して電話の盗聴、電子メールの傍受がFBIに許されている。「落ちこぼれ防止法」では教育予算削減と学費高騰で学生を苦しめている。返済が滞ると金融機関から返済を迫られ不良債権化が進んでいる。

教育ローン問題。奨学金制度を初めとする公的教育予算は12%から6%へと半減したのはレーガン政権時代、奨学金は政府直接ローンプログラム(FDLP)から1995年には民営化されたサリーメイにシェア移行を始め、2006年にはFDLPのシェアは19%に、サリーメイがローンから債権回収機構、学資ローンなどに業務を拡大した。この結果民間学資ローンを借りる学生の割合は急増、90年代には1%以下だったのが2008年には14%にも達した。サリーメイは学資ローンという性格から債務を抱えた学生が返済をしない場合にも債権放棄ができない仕組みになっているという。また、金利が引き上げられても学生はすぐ返済しなければ対応する手だてがなく、学資ローンで経済的に破綻する学生が2006年以降急増し、問題となっている。2009年時点で不良債権化している学資ローンの数は500万、金額換算で400億ドルに達する。一方のFDLPは審査が厳しく借りられる枠が少ないために結局サリーメイなどの民間学資ローンに頼らざるを得ないという。親の世代には学費のほとんどを奨学金で賄えたアメリカが、中流以下の大学生は学費のほとんどをローンで賄うしかない、これが今の現実である。

社会保障の崩壊。医療費用が高く、定年後も医療保険のお世話にならなければならないアメリカでは老後20年を夫婦で暮らすには50万ドルが必要だと言われている。年金は企業年金か個人年金しか頼れるものがなく、GMのように信頼していた大企業が破綻すると年金生活者は大変な目に遭う。企業年金に加入せず、公的年金だけの国民の月収は平均930ドル、夫婦で1532ドル、未亡人は896ドル、貯蓄する人がほとんどいないアメリカでは企業年金破綻は即座に生活の困窮を意味する。高齢者の2割は年金だけが収入であり、現労働者の32%は貯蓄がゼロだという。

医療の仕組み。アメリカでの問題の根底には医療保険を民間ビジネスに委託してしまったこと。高齢者向けのメディケアと貧困者向けのメディケイドがありこの二つが公的保険。それ以外は全て民間の保険会社が国民と医師や病院との間に介在する。日本や欧州各国では国民皆保険制度であり、国民と医師の間には公的医療保険が介在する単一皆保険制度であり、米国でもこの制度導入をクリントン政権が目指したが、保険業界の反対で成立しなかった。オバマ政権に国民は期待したが、これも実現しそうにないという。

アメリカでの医療問題の第一にはプライマリーケアの医師不足が上げられる。プライマリーケアとはかかりつけ医師のこと、家庭医、小児科医、内科医である。民間保険があり医療費が高騰するなかで医師が不足しているアメリカ、解消のためには国家的な医療の仕組みの財政問題を解決することが必要となる。

アメリカでよく見られるOTC薬、薬局で市民が購入できる薬である、これが子供達の健康を害しているとも言われている。服用方法を間違って体を悪くする児童が毎年7000人過剰服用や副作用でERに運ばれて来るという。

刑務所問題。刑務所を労働市場として利用する動きが激しいという。その結果、囚人達は罪を犯し服役を終えると借金が増えた状態で退所する。そうするとお金のために再び犯罪を犯して逆戻り、刑務所は収容人数が不足している現状だという。刑務所も民営化されているため、費用は切りつめられ環境は劣化の一途を辿っているらしい。非正規社員からアジア労働市場に向かったその次に向かったのが刑務所服役者であり、コールセンター、組み立て器具、防具、家具などは刑務者によるシェアが35%以上、組み立て器具は98%にも達している。刑務所の設置にはREITが設定され、それ自体がビジネス化している。ウォール街の金融機関にとっては刑務所REITほどリスクの少ない投資はないという現状、なにしろ囚人は減ることはないからだという。

このように実録で知らされると、日本では報道されないアメリカのオバマ政権の政策が、現場では”Change"を期待した国民を裏切るような形で実行されていると言うこと、これでは支持率が下がるのは致し方ないことである。アメリカの問題は一人の素晴らしいリーダーでは解決できないほど根が深い。小さい政府と個人の自立、という理想だけでは前に進めないのが現実のようだ。

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)
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コメント一覧

むらちゃん
http://muratyan.cocolog-nifty.com/book/
はじめまして。詳細かつ質の高い書評に敬服いたしました。私も同書を読みましたのでさきほどTBさせていただきました。

また、別の記事に間違ってTBしてしまいましたので、そちらは削除いただければ幸いです。お手数をおかけして申し訳ありません。
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