意思による楽観のための読書日記

プリオン説はほんとうか? 福岡伸一 ****

狂牛病の原因となるのは、遺伝子を持たないタンパク質が感染・増殖するというのがプリオン説、米国の生化学者、S・B・プルシナーが1982年に証明したとされ、1997年にノーベル賞を受賞しているのでもうこれは証明済み、とも言われるが著者はそれに疑問を持った。事の真偽もさることながら、なぜ疑問を持ったのか、立証されたこととされていないことはどう分類して整理できるのかという、理科系的分析が非常に読者に受けるのだと思う。

プリオン説では、異常型プリオンタンパク質が病原体であることは直接的には証明した実験結果は提示されていない。また、病原性と異常型プリオンタンパク質の挙動が一致しているという状況証拠が多く、試験管内で感染性を持つ異常型プリオンタンパク質は作り出せておらず、コッホの三原則と言われる病原体確認の基準を満たしていない。三原則とは、1.その病気にかかった患者の病巣から病原体が検出される。2.単離精製された病原体を健康な個体に接種すると病気にかかる。3.病気になったその個体から再び同じ病原体が検出できる。プリオン説は第一条件は満たされているが、第二条件は満たされているとは言えず、第三条件も満足されていないと筆者は指摘する。

日本では2004年から2005年にかけて牛の全頭検査の見直し議論が行われ、政府は月齢20か月以内の若い牛は検査から除外する方針を決定したが、これは米国からの圧力が影響しているという。しかし20か月以下のの若い牛からの狂牛病発症事例が少ないからと言って異常型プリオンタンパク質の蓄積が20か月以下の牛では検出できないという根拠はない。早期発見のためには末梢リンパ組織の検査を行うべきだと指摘する。全頭検査を緩和することは感染源特定のための情報収集に漏れを作るだけである。

そしてウイルス説を示唆するデータが数多く見つかっている。感染実験を繰り返すと三世代目までは潜伏期間が短縮される。これは、病原体がウイルスのように可変的な変異を起こすものだと示唆、プリオン説ではうまく説明できない。ウイルス説以外にも、レセプター説があり、真の病原体は未知のウイルスであり、正常型プリオンタンパク質が感染レセプターとして機能、異常型プリオンタンパク質の出現は感染の結果だとする。

狂牛病とは伝達性スポンジ状脳症であり、その特徴としては1.放射線、熱、殺菌剤に強い抵抗性を示す。2.放射線照射実験から推計される既知のウイルスよりもずっと小さい。3.核酸分解酵素の処理によっても病原体を不活性化できない。4.感染後の免疫反応が確認できない。これらの特徴をすべて説明できる実験結果が提示できていない、というのが現状である。脳炎と呼ばれないのは、免疫反応がないから。つまり抗原抗体反応がおきるなら、病原体の正体は分からなくても患者の血液中から見つかる抗体から実験的に病原体を捉えることも可能となり、場合によっては治療法ともなりうる。そこがこの病気の厄介なところ。本書の記述はここまで。

本書は2005年11月の発刊であるが、プリオン説の是非は現在も議論が継続している。なにより、定説に対しても本書のような疑問を持つことや論理的アプローチによる真実の探求が科学の発展には不可欠であること、深く感じる。理科系的アプローチを示す教科書として良書だと思う。

プリオン説はほんとうか?―タンパク質病原体説をめぐるミステリー (ブルーバックス)


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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