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意思による楽観のための読書日記

オーディンの鴉 福田和代 ***

現代社会では、個人の情報はどこまでデジタル化されアクセス可能となっているのかを深く考えさせられる小説。携帯やスマホからはGPSや電波による現在位置情報が知られ、Webにアクセスすればアクセス履歴が取られる。家から出て街を歩けば防犯用のカメラに動きが捉えられる。駅から電車にのるときにもSUICAなどの電子パスで乗車情報が吸い上げられ、クレジットカードからは利用履歴がわかり、銀行ATMでお金を下ろせばカメラと口座情報から本人確認と持ち金が推理される。そうした情報はしっかりと各ビジネスを司る会社のサーバで適切に管理されていると信じたいが、一度漏れてしまった個人情報はWeb上で拡散し取り返しがつかないことになる。デジタル情報はコピーされ、さらに級数的に複製され続ける。

物語のきっかけは東京地検特捜部検事の湯浅が捜査していた衆議院議員矢島の自殺からだった。矢島の個人情報がプライベートな付き合いも含めてWeb上に拡散されていたのである。そしてその自殺の背景におかしな動きがありそうだと感じた湯浅が同僚の安原と自殺の原因を探るうちに、その安原も殺される。安原はオーディンの鴉と呼ばれる組織の核心に迫ったようなのだ。その結果殺されたのではないか、と推測する湯浅。

湯浅はこれらの事件の裏側にはWeb上の情報を操作している組織的な犯罪集団の存在を嗅ぎとる。入院している湯浅の子供、そして妻を家から避難させる。理由は言えないが、捜査の問題から、自分の居場所がわかるような行動を取らないように妻に告げる。不審に思う妻にもその理由を説明できない湯浅は葛藤するが、自分の動きもWeb上でモニターされていると考えると下手な動きがとれない。そして、有名な右翼で裏の世界に力を持っているという噂の絶えない瓶子(へいし)の捜査を始める。そしてその瓶子から呼び出しを受けた。呼び出しに応じたら相手の思うつぼだと考えた湯浅は自分の気配を消すように務める。

そして、その瓶子が呼び出しに指定されたその場所で死体で発見される。そして湯浅はまた呼び出される。警察や検察はどちらも信用出来ないと考えた湯浅は、妻子を民間でプロの護衛組織に守ってもらう契約をした後に、殺された安原がこっそり相談していたWebオタクに相談し、PCのカメラでリアルタイム映像をストリーミング配信しながら、自分と呼び出した相手の会話を録音配信する仕掛けを作り、呼び出しに応じる。

その相手は検察の上司だった。湯浅の仕掛けはまんまと相手の裏をかくことになり、検察の上司は自殺に追い込まれるが、湯浅には、瓶子殺害の疑いがかけられていたために、検察にそのまま残ることは難しくなる。湯浅は無事だった妻子と再会し、しばらくはこの現代社会から距離を置きたいと考える。

最近、犯罪が起きると防犯カメラの映像やカードの利用履歴、残された血液や髪の毛からのDNA鑑定など、10年前には考えられなかったような情報から捜査が絞りこまれていく。どこまでいくのだろうか、心配にならないか。楽天やAmazonで買い物をした情報、好みの本の傾向、最近の健康診断や人間ドックの結果、住民情報や税金情報、固定資産や銀行口座、購読する新聞、ブログ内容、FBやTW、gmailのメール履歴、クレジットカード情報、これらが全部明らかになればプライバシーなどどうなるのか。エシュロンの問題が言われたのはもう10年以上前のこと、いまではどこまで行っているのか。法律を作っても多分防止はできないだろう、デジタル社会は便利なだけではない、先が思いやられ暗澹たる思いになるではないか。


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