在宅医療に携わる医師 真紀の視点から語られる死への想いの物語。小さい頃に母は入水自殺、残された姉と父に育てられるが、その姉は12歳の時、父に蹴られたことが原因で頭を打ち翌朝死んでしまう。そのとき真紀は小学二年生、姉の早紀が死んでいたことに一晩中気がつかず看病をしていた記憶がある。父親は裁判で故意の殺人ではなく過失であり無罪を主張、真紀は養父母に養育された。死を見つめ死を考えて育った真紀は、死を自分で管理できると考えた医師を目指す。養父母も医師、跡継ぎの思いからの医師志望かと思ってくれるが、真紀にとってはそうではない。真紀が勤めるのは在宅医療を専門とするホスピスで死を見つめる毎日、院長の長瀬と婚約している。そこに7年前分かれた元恋人ヒデが脳腫瘍患者として現れる、余命は2ー3ヶ月。ピアニストを目指し7年前にオランダに向かうため真紀と分かれたヒデ、真紀もそのとき医師となる道を選びヒデを見送った。そのヒデがホスピスで余命を全うしない安楽死を望む。医師である真紀はまたしても死と向き合う、今回は安楽死。ヒデは一緒にオランダに行ってほしいと真紀に頼む。モルヒネを持って一緒にいってほしいといわれた真紀は頼みを受け入れる。安楽死を30年前から法制化している国、オランダでヒデはなにをしたいのか、アムステルダムで4年一緒に暮らした女性がいたともいう。結局ヒデは宿泊中のホテルから失踪する。アムステルダムでは、楽器店の主人からヒデがコンサート中、脳腫瘍の症状がでたのか、突然演奏を中断して舞台から去り、戻ってこなかったのだ、最後まで聞きたかった、という話を聞く。1枚だけでていたCDを買った真紀は帰途につき、成田には心配して迎えにきていた長瀬と出会う。形としてはハッピーエンドであるが、真紀とヒデは人生の陰の部分を歩く同類、養母や長瀬は日向を歩く異人種である、と真紀は感じている。これからも死を見つめ日陰から日向の夫、長瀬を見ながら暮らすことになる真紀、長い時間をかけた安楽死とも思えるし、モルヒネを打ったつもりになってヒデを想いながら暮らすのか。100ccのモルヒネは死につながるが、適量のモルヒネは痛みを和らげたり、気持ちを静めたりする。真紀は残りの人生というには長すぎるこれからの結婚生活を、モルヒネの適量を試行錯誤しながら生きていくのだろうか。 モルヒネ (祥伝社文庫)