goo blog サービス終了のお知らせ 

意思による楽観のための読書日記

超・格差社会アメリカの真実 小林由美 ****

読んでいて、「そうそう」とウナヅクことしきり、アメリカ西海岸のVC(ベンチャー投資家)や東海岸のビジネスパースンと話をして感じていたことが、シッカリとその歴史観や宗教観も踏まえて解説されている。そしてアメリカで行われる多くの選挙で発表される候補者の考え方に必ず含まれる「中絶可否、ガン所持、同性愛、家族観」などが何故人々の関心を引くのかが説明される。留学経験者や家族同伴での居住経験者ならなおのこと納得感が得られるだろう。

まずは20世紀の中盤にはアメリカ人世帯の7割はいたと言われる中産階級がいなくなったと指摘、今は新たな4つの階級に分かれてしまったという。一番上は特権階級で純資産1億ドル以上持つ5000世帯ほどの特権的富裕層で、ウォール街の人脈などを通して政治家に影響力を行使する。司法、行政、立法の人事権を持つ政治家達は選挙資金をまとまって提供してくれるこうした特権階級の人々への配慮を怠らない。そのため、税制、裁判などで大きな恩恵をこうむるという。次の階層がプロフェッショナル階級で純資産200万ドルで年収20万ドル以上、大学教授や不動産ブローカー、広告代理店、弁護士、医師などである。社会の最下層は年間世帯所得が23100ドル以下の貧困ラインを下回る落ちこぼれ階級、難民や違法移民、ネイティブアメリカン、都市のスラム住民、黒人、ヒスパニックなどの人たちで、健康保険にも入れない階層の人々である。そして、20世紀に中産階級であった人たちの多くは、米国製造業の没落と雇用の海外流出から職を失い、リタイヤ組と一部プロフェッショナル階級へのステップアップ組を除けば貧困層とも言えるクレジットカードと借金生活で苦しむ階級に没落していったというのだ。

アメリカ総人口の15%にあたる4500万人は医療保険が全くない。子どもや老人対象の医療費補助枠外の18-64歳の成人に限れば19%でもなる。5人に一人は無保険ということになる。こどもには公立学校の教育しか受けさせられないため、給料が低い公立学校の先生たちの授業を受ける。公立学校卒業後はローカルカレッジに行くか、生活のために低賃金で働くしかなく、スポーツで名を挙げる以外には高給が取れる職業につくのは非常に難しいのが現実である。

資産の保有率を見ると、トップ1%が33.4%、2-5%が25.8%と上位5%の人たちが全米世帯の6割の富を所有する。トップ20%まで入れると85%となる。資産を多くの人たちが所有する自宅、不動産を含まない金融資産に絞ると更に顕著である。トップ1%が39.7%、2-5%が27.8%で5%の人たちが3分の2を所有、20%まで含めると91.3%。金融資産から年金や生命保険も除くと残りは金融証券であるが、この場合にはトップ1%が58.0%、トップ10%で88.6%である。つまりウォール街としてはトップ1%の人たちをハッピーにすれば全米金融資産の6割を押さえることになる。アメリカ大統領が次の選挙のために集めたい選挙資金は10億ドルと言われ、100万ドル単位で寄付してくれる高額資産保有者の要望に答えることが再選出の最も近道となる。

クリントン政権以降のアメリカの大型景気は、財政赤字削減のための低金利政策がきっかけとなったが、ITの進歩がもたらした金融取引の電子化が大きな原因となった。金融情報収集が容易となり、リスクヘッジ、レバレッジの手法が開発され、デリバティブ、インデックス、リスクアービトレージなどの商品が開発された。そして資産の証券化が進み、アメリカ産業界全体が証券化されたとも言える。投資の対象とならなかった事業や資産が証券化され小口化されて販売されたため、市場流動性が備えられたのだ。これにより小金持ちでも投資に参加できるようになり、大口投資家よりも控えめな期待金利でも市場から投資資金を吸い上げることに成功した。本来は投資家も事業の推進者の立場になり、事業拡大や利益拡大の努力をすることで健全な資本市場が拡大するはずなのだが、金融商品の持ち主が分散されその代理人は手数料と委託料収入の最大化を図ることを目的とするため投資された事業の内容には関心がない。問題会社のCEOになった人が、人員削減と設備投資削減で利益を出して会社のPLとBSを美しくお化粧直しをしたら100万ドル単位のボーナスやストックオプションを得て次の会社に移るのと同じ構図である。企業の利益が増えても社員は職を失い、顧客はサービスや商品供給を絶たれる。インターネット発達は、関連ソフトやサービス産業を生み出し、TVや新聞などの既存メディアが新しいインターネットメディアと相互乗入する新しい巨大メディア企業を生み出した。90年代後半の好景気は失業率を下げたが多くの中間層は職を失い、新たに生み出された労働は単純作業的低賃金で、生産性向上は米国人の賃金上昇をもたらさなかった。

1620年にメイフラワー号でアメリカ大陸に降り立った開拓農民に渡航資金を融資したのはロンドンのマーチャント階級だった。そしてアメリカ大陸での開拓が金になるとみたヨーロッパバンカー達は商業資本、軍事資本を投入した。こうした資本を投入した最大のバンカーがマイヤー・ロスチャイルド、5人の子供をドイツ、イギリス、フランス、オーストリア、イタリアに駐在させ各国の王室にファイナンスして儲けた資本をアメリカに投入したのだ。そして独立戦争が始まる。独立戦争の敗者はイギリスの資本家、勝者はイギリス商船を略奪する免許を得て3000隻以上の商船を略奪した船主だった。アメリカの市場資本主義はアダム・スミスの国富論が基本理念として採用された。キリスト教が人間の物質欲を根源悪としたのに対し、市場という見えざる手で売れる賞品を提供する行為は社会の幸福に寄与しうると指摘、従来の重商主義下での免許制度からレッセ・フェールでの自由競争が見えざる手により有益な結果をもたらすとされた。個人の過度な欲張り行為は社会から非難されるはずであったが、移民国家アメリカにはそうした社会は形成されず、強欲な拝金主義によりお金儲けをすることが尊ばれる社会へとつながっていく。

アメリカ社会での学校教育では、知識よりも信仰を重んじる伝統がある。多くの日本人ビジネスマンが仕事を通して付き合うのはアメリカの北東部と西海岸の人たち。しかし、それ以外のアメリカ人は高等教育を受けた人たちへの反感があり、本からの知識や理屈による結論よりも伝統的開拓者の価値観に基づく直感的判断を重んじる傾向がある。この背後には開拓時代に普及したエバンジェリカル(福音主義)の教えがある。強い信仰を持った人は正しい判断を下せるが、逆に高等教育を受けた人は信用出来ないと考える。大統領選挙で、候補者は東部エスタブリッシュメントであることを宣伝せず、出身地を表に出したり、家族愛、自助努力などがキーワードに使われる。戦争で英雄的活躍をしたことは重要視され、アメリカが世界で果たす役割は、民主主義の伝導であり正しい行為であることが共有されている。開拓者精神と自立、アメリカの正義を信じるエバンジェリカルはこうした中部アメリカの半数以上を占め、それ以外はメソジスト、大学教育にも力を入れるプレスビテリアン、そして投資行為に関心が深いエピスカパリアンという4大宗派が生まれた。世帯収入と教育は相関があり、受けた教育レベルと家計所得にも相関がある。つまり階級は教育によってさらに固定化されるというわけである。

シリコンバレー(SV)に行ったことがある、住んだことがある人は、その地の素晴らしさを知っている。SVでは起業がしやすい環境がある。創業に必要な人脈とVCがそこにはあるので、効率的に手早く会社設立にこぎつけられる。無駄な時間は創業の可能性を低下させるからである。失敗も多いが、また何回も創業にチャレンジすることは普通に行われるため、そこでの振る舞い、倫理観は重要である。口コミが人脈ないでは重要であり、悪い評判はたちまち伝わり二度と創業の声掛かりりがなくなるからである。各人が持つノウハウや創造力、独立性の強さも創業の後押しをする。これもアメリカの一面であり、強欲な拝金主義者もエバンジェリカルもアメリカである。

日本はどうだろうか。経済成長は実質的にゼロになり、国際競争でも行き詰まる。チャレンジして失敗するとコストが高くつく社会のため新しいことに真剣に挑戦する人が減ってしまう。今より悪くならないことが安定だと認識される社会に大きな進歩はない。選択肢は徐々に悪くなるか、それとも新しい世界を切り開くことかであると、筆者は指摘する。多様な価値観やライフスタイルを受け入れる寛容さと相互の思いやり、ストレートなコミュニケーション、専門能力を生かしたチームワーク、新しい環境に適合できる基礎能力が幸せな環境を作り出すのには必要だという主張である。まことに同感である。


読書日記 ブログランキングへ

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「読書」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事