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意思による楽観のための読書日記

リバランス 米中衝突に日本はどう対するか エズラ・F・ヴォーゲル *****

2019年89歳になるヴォーゲル博士に対して、加藤嘉一がインタビュー(対談)で聞き出した内容をまとめた一冊。現在の日本の立ち位置が客観視できて大変参考になる。ヴォーゲル博士は「ジャパン・アズ・ナンバーワン(1979年)」で有名なハーバード大学教授である。ハーバード大学でPhDを取得後、1958年に奨学生として来日、2年間滞在して日本文化とホームステイで日本家庭についても実体験した。1960年に帰国後中国についても研究し、文化大革命の最中に中国にも足を踏み入れた。2000年にハーバード大学を退職後、「現代中国の父ー鄧小平」を執筆ベストセラーになった。いずれの著作も、米国人に向けて、日本と中国の成功の原因について両国をより理解することにより、米国のさらなる発展の切っ掛けにすることが目的だという。

急成長する中国の現在の状況を、習近平による統制と監視による過度の緊張状態にあると表現、本来は鄧小平が掲げた改革開放路線の延長線上にあるはずの政策を実現するプロセスで、習近平は国内の対抗勢力との争いのために批判勢力に対して抑圧的になりすぎていると分析。これからの中国の課題は経済的な持続成長と自由であると指摘。習近平はゴルバチョフ政権時代に旧ソ連で起きた政権崩壊が中国で起きることを懸念するあまり、国民と政敵にたいする監視に力を入れすぎていて、このままでは政権崩壊もありうるという。1989年の天安門事件を直視せず正当化し続けている現状では中国の国際的評価は上がらないし、信頼もされないと評価。

日本と日本人への評価は「良い国、良い人たち」ではあるが、国際的な場で日本人の意見を聞いてみようとは思われていないと指摘。もっと自信を持ち、反対の場合には意見を表明し、果敢に行動することだと激励する。ハーバード大学に留学してくる日本の若者、エリートたちに共通するのはお利口さんばかりで、大局的な視座をもった人物が少ないことが日本の課題だという。稚拙な言動と外交がめだつトランプ政権が続いているこの4年の間は、日本にとって自立と自由貿易に向けての意思を表明するチャンスだと捉える。憲法に関しては現状憲法を維持することのほうが国際的には理解されるし日本の発展にも寄与できるという。

アメリカ人は今自信を失っているし祖国に失望さえしている。イラクとシリアに軍事介入したのが大失敗、アメリカ人は軍事的な圧力では何も解決しないことを学ぶ必要がある。昨今の移民政策で失敗したのはアメリカ、ドイツ、そしてイギリスである。日本は国際的に移民受け入れに消極的と非難されていると思っているかもしれないが、移民政策がもたらす欧米の問題の多い現状から見て、日本の消極的な移民政策が破綻的な結末を招いていないことが逆に評価できると思う。

日中関係に関しては、2008年の北京五輪が一つの分水嶺だった。それ以降中国は傲慢さが目立ち始め、日本から何かを学ぼうとする姿勢が消えて、大国としてアメリカに対抗する、「中国の夢」という曖昧な目標に向けて国民を鼓舞するような政策とプロパガンダが目立つ。日本は1895年までは中国から学ぶ姿勢を持っていたが、日清戦争での勝利以降は中国が日本から学ぶ姿勢を100年もの間持ち続けてきたことを理解する必要がある。日本はこれからの数十年間は中国から何が学び取れるのかを改めて考える時である。米中関係が競争的かつ衝突が生じている状況から中国が日本に融和的になっている現状を日本としても理解し、日本が米中の間に立って果たせる役割を見出す必要がある。

米中貿易戦争では、中国は1980年代に日米貿易摩擦があってその後日本がとった戦略、つまり米国内に多くの日本企業を移転させ、米国民に理解と雇用を提供したことに学ぶ必要がある。中国企業が合法的にかつ米国民の理解を得ながら米国進出して行くことにより、対等な競争関係が築けるはずである。米中ともに自分の意見に相手を従わせようとすることや相手を変えさせることは出来ないということを認識し、違いを理解した上で両国民のためになる着地点を目指す必要がある。

日本、中国、アメリカ、いずれの国にもうまく身を処しながら知恵が働く小人物はいると思うが「政治家としての大人物」が少なくなってきている。日本で言えば吉田茂、中曽根康弘は大人物だった。中国では鄧小平、胡耀邦、アメリカではオルブライトやキッシンジャーである。大人物は育成しなかれば生まれてこない。日本では林芳正、河野太郎、小泉進次郎などが成長の機会を得て伸びていくことに期待している。本書内容はココまで。

加藤嘉一はヴォーゲル博士をリスペクトしながら、議論を展開し、うまく本音を引き出していると思う。ヴォーゲル博士は日中の両国民を理解した上で温かい眼差しを注ぎながら現状を憂い、その上で未来に向けての期待を述べている。日本では名前の出ているような政治家に本書内容を知ってほしいものである。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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