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意思による楽観のための読書日記

徴税権力 国税庁の研究 落合博実 ****

筆者は元朝日新聞社記者で大蔵省と国税庁担当をしていた。2003年にフリーになり現在にいたる。野球のO氏とは一字違いの同姓同音名。国税庁や検察庁に記者として入り込み、多くの特ダネをものにした。国税庁や検察庁の公務員がなぜ守秘義務を犯してまで極秘資料を記者に渡すのか、それは捜査を進める際に世論を味方にしたい時があるから。記者としても自らのプレスコードを課してきたという。国税庁はあくまでも徴税機関であり世直し機関ではない。税務調査の結果を単純に正義と位置付けて記事にはしないこと。企業の申告漏れでも悪質なケース以外は記事にはしない。本書は2004-2006年に週刊文春と文芸春秋に掲載した記事から文庫化したもの。

1992年の東京佐川事件の処理を東京地検がわずか20万円の罰金で矛を収めたことに世論が大反発した。検察庁前の庁名板に黄色いペンキがぶちまけられた事件である。当時の検察の大甘の違法献金対応に危機感を持ったのは国税庁調査査察部長の野村、金丸代議士への政治献金5億円は所得なのではないかとの調査をはじめ、これを立件する。政治家対応では国税庁や検察庁は相当慎重になる。相手がその後自分の省庁のトップとしてアサインされたらどんな目に合うのかがわかっているから。しかしこの時の国税庁は骨があった。長官は土田正顕、次長は瀧川哲男、そして野村。当時の大蔵次官の尾崎護に相談、検察庁は東京地検特捜部長が五十嵐紀男、最高検の財務担当検事は石川達紘、こうしたメンバーがそろって初めて政界の当時のドンである金丸信を所得税法違反で逮捕するまでにこぎつけた。その後政治資金規正法が改正され政治家個人への企業献金が制限されるようになる。

国税庁の活動に介入してくる政治家がいる。本書では実名を挙げてその手口を紹介する。竹下昇、小泉純一郎、渡辺美智雄、橋本龍太郎、田中真紀子、亀井静香とそうそうたるメンバーが実名入りでその手口と介入内容を紹介されている。本人への取材では知らんぷりをするのだが、記者としては証拠をしっかりと押さえているので確かな話である。

有名芸能人への調査は東京国税局資料調査課の担当。1979年当時マークされ、証拠が挙げられた芸能人とその脱税額が次の通り。森進一2.14億円、石坂浩二1.53億円、若尾文子0.99億円、大原麗子1.22億円、浅丘ルリ子0.86億円など。手口は経費水増しと架空計上で、指南した税理士が同じだという。

大企業への対応では1982年当時マークされていたのが大洋漁業不正所得17.3億円、三菱商事3.4億円、日商岩井17.7億円、住友商事8.2億円、伊藤忠商事10億円、日本鋼管9.8億円など。その後2002年以降は企業の海外との取引に着目、追徴課税したのがホンダ117億円、京セラ127億円、船井電機165億円、武田薬品570億円、ソニー324億円、マツダ76億円、三菱商事22億円、三井物産25億円など。課税されたのはほとんどが移転価格税制で、日本での利益を海外子会社やペーパーカンパニーに移転するもの。

最後は創価学会、90年代には調査に入った国税だが、自民党との共同与党になってからは完全に腰が引けたという。創価学会は公称信者827万世帯、収入は3つあって収益事業会計、墓苑公益会計、公益事業会計である。課税対象は収益事業会計だけで、その額は2004年で163億円。第二位の明治神宮は17億円とその10分の1、創価学会の経済規模は宗教団体としては断トツなのである。827万世帯の墓苑事業を一手に取り扱う墓苑事業、墓地の永代使用料と墓石で100万円程度、区画数は40万とすると2000億円程度の経済規模になる。最大収入は一般会計、会員からの寄付金で、定説では2000-3000億円と言われる。これらが非課税となっているのだが、果たして所得税などとして扱える部分はないのかどうかがポイントである。また出版事業や物販、駐車場、全国に2000か所と言われる土地への固定資産税など、国税庁として確認調査が必要な対象は多いはず。課税の公平性は保たれているのだろうか、というのが筆者の指摘である。

一読して「凄い本だ」という感想。すべて実名、すべて根拠資料を提示した暴露本的著作である。田中金脈を追求した立花隆の下で働いたこともあるという筆者、まだまだ書ける資料をお持ちではないかと思う。


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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