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意思による楽観のための読書日記

ハート型の雲 高橋三千綱 ***

戦後すぐに生まれた菱川恵美子の家は大きくはないが塗料問屋として戦後成功し成長してきた浅草にある小企業だった。父の貞次郎は息子の貞夫と恵美子を可愛がったが、特に恵美子は小学校からお嬢さん学校に入れて、車で送り迎えするほどの可愛がりようであった。母の敏江は恵美子の服を松坂屋で注文し、習い事をさせて全て自分の思い通りに育ててきた。

貞夫は慶応大学を卒業し、証券会社などいくつかの企業勤務を経験した後に菱川塗料に勤めるようになる。貞夫は塗料の卸だけでは発展性はないと考え、消化器販売やシーリング剤の事業を手がけるように社長である父に働きかけるが、古くからいる専務の大番頭が新規事業には反対する。自分の思いを実現するためには別会社を立ち上げるしかないと考えた貞夫は自己資金、運転資金をなんとかかき集めてアイアンコーポレーションという会社を立ち上げる。

恵美子は「お嬢さん」で育ってきたため、母の敏江には逆らえない。それでも世の中を知りたいと思い、両親には秘密で一般企業に就職する。驚いたのは敏江、しかし、1年そこそこで母に退職することを迫られ、菱川塗料の仕事を手伝うことになってしまう。このままでは母の思うがままにしか生きられないと思った恵美子は、次から次へと母が持ち込む縁談を断り続け、交際することには母も賛成していた兄の親友である今村と結婚することを決める。

しかし敏江はその結婚には大反対、先方には姑、大姑、大舅がいて大変だから、という理由だが、結婚に関して母の言うことを聞かなかったことが大きな原因だった。父の貞次郎はなんとか母をなだめようとするが母の大反対はエスカレートするばかり。一年がかりで説得しても母の反対は収まらなないので、子供を作ってしまい、強引に結婚することに。今村は都庁に勤める東大出の真面目人間で、実業家の兄とは正反対だったが恵美子は幸せだった。

兄は新規事業に成功して事業拡大を進めるが、信頼していたビジネスパートナーに裏切られたり、はたまた新規事業や新製品開発に成功したりと、禍福は糾える縄の如し、を地で行くような人生をたどる。貞夫は最初の妻と離婚した後に悠子さんと再婚、子供も生まれるが、こちらも母の敏江は大反対。結局、父の支えで貞夫も恵美子も何度も訪れた難局を乗り越える。

物語の中にはペンキ職人の息子だった北野たけしが登場したり、バブル崩壊があったり、現実社会の出来事もストーリーに取り込まれてくる。昭和の30年ころから始まり、最後はバブル崩壊から一気に平成30年まで飛んで、それらの出来事が一冊の物語の中に押し込められているので、一気に読み終えると恵美子の一生を終えたときの走馬灯を見るような思いにふけってしまう、そんな「昭和禍福如糾縄物語」である。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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