意思による楽観のための読書日記

不平等社会日本 さよなら中流 佐藤俊樹 **

2000年に発刊された本、読み返してみた。当時は実績主義や社会での自由競争を促進する議論が戦わされ、小泉首相は構造改革、競争社会にむけての転換を推進していた。企業では成果主義へのシフトが進み、努力より実績が重視された。そうしたなかで、本当にそうした「実績」は本人の力によるものなのかを社会調査を踏まえて検証したのがこの本である。結論は、知識エリートの階層であるホワイトカラーの被雇用者の管理職層の子供たちはその階層を相続する傾向が戦前以上に強まっているという結果を得たという。これはイギリスやインドのような階級社会化であり。企業や学校でのやる気や責任感の喪失に繋がっているのではないかと主張している。

自営業では引き継いだ資産の有無や好不況など、本人の力の及ばないさまざまな要因が成果に関わっている。それに対してホワイトカラーの被雇用者の地位は年功序列があるにしても自分の力で勝ち取ったはずである。努力すれば学歴を得て管理職につくという出世ができるはずであったが、調査によれば父親の学歴と本人の学歴には明らかな相関があり、その中でも「努力主義」を信じる人よりも「実績主義」を信じる人ほどその傾向が強い結果も出た。現実は実績主義だが理想的には努力主義、というのが成果志向の意識である。この意識は父親の学歴とも傾向が相関しており、中卒、高卒、大卒という方向で理想の資源配分において実績主義の重みが増加するのである。

筆者は情報リテラシーをPCの所有と父親の学歴の相関をとって考察する。(調査は95年)結果は本人の現在職業、本人学歴、そして父親の職業がもっとも影響している。本人の職業は自分の力としても学歴は父親の職業と相関し、父親の職業は本人とは関係がない、とすると、情報リテラシーにまで階層は影響している。そして情報リテラシーの高さが情報社会では入手できる情報量と質を決定するのである。しかし著者も述べているが、この結果は20年後にしか分からない。情報社会はこの調査後16年で激しく進んだ。携帯所有と父親の職業が相関するとは現在はあまり思えない。情報社会が機会平等を進めるか不平等を拡大するか、まだ結論は出ていない。しかし、機会不平等があるとしたら、これは軽減する方向が望まれる。政策、予算、人々の意識、風潮など、今は行き過ぎた成果主義の揺り戻しがあり、日本経済停滞によりどうしたら不況やデフレを抜け出し、成長軌道に乗れるのか、という議論に変化してきている。平等になりすぎて若者の競争心や世界との競争に叶わないと考えるようでは問題である。日本経済の状況が社会科学には大きな影響を与えていると感じる。
不平等社会日本―さよなら総中流 (中公新書)
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