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意思による楽観のための読書日記

天皇陵の謎 矢澤高太郎 ****

読売新聞で古代史を担当して古墳取材を続けてきた筆者による古代史と古墳被葬者解明に向けた情熱の1冊。日本にある宮内庁管轄の天皇陵、陵墓は896もあるが、立入禁止、発掘禁止であり、古代史研究者の現在の見解からすると、その9割の被葬者は宮内庁主張の被葬者とは別人だという。古代史専門家の森浩一によると、第9代開化天皇から42代文武天皇までの32基の陵墓の被葬者を評価、被葬者に疑問がないのは天武・持統合同陵と天智天皇陵の2つのみ。他の研究者がほぼ妥当と評価する用明、推古、舒明の各陵を含めても被葬者の疑いのない陵墓は5/32となる。森浩一の評価には実在しないとされる初代から8代目は除外されており、それも含めれば40基の宮内庁管理天皇陵のなかで、被葬者が宮内庁の主張どおりなのは5基のみということになる。陵墓には天皇陵以外にも皇后、皇太后なども含まれ、皇子、皇女、複数陵を持つ事例もあり、考古学の対象となるものは240基だとのこと。

筆者による取材によれば、発掘、立ち入りを認めていない宮内庁の言い分は次の通り。
1.陵墓は皇室の祖先の墓であり神聖な場所であり祭祀が継続しているため。
2.中世から江戸時代までは放置されていたとされるが、祭祀は継続していた。
3.被葬者が疑わしいものが多いとの指摘には、「疑わしい」のであり「違う」とはされていないのだから、確固とした証明ができない限りは想定されている被葬者を変更する考えはない。
4.被葬者と古墳の考古学的年代の相違に関しては、遺骨と墓の時代の違いはよくあることであり、礼拝する場所としての問題とはならない。

こうした主張に対する筆者の姿勢は次の通り。
1.考古学的発掘には大変な準備と労力が必要であり、大仙陵調査だけを見ても数十年規模の準備と調査期間が必要となるため、大変な覚悟と予算確保が必要。
2.宮内庁管理の墳墓以外にも多くの天皇陵と考えられる古墳が発見されており、宮内庁がそうした墳墓に無関心なのは問題。
3.神聖なご先祖の墓所をまもるというなら、盗掘や住宅開発などで荒廃が進む天皇陵の改装が喫緊の急務。
4.発掘され、その後の管理が杜撰だったため壁画剥落、石室崩壊に至った高松塚古墳や壁画剥ぎ取りを迫られたキトラ古墳など、宮内庁の杜撰な管理は予算と人員不足も原因、改善が急務。
5.「予算がついたから発掘してみよう」などという姿勢は逆に問題。長期的な取り組みと天皇陵管理に関する国民的合意が必要。

筆者の提案は次の通り。
1.宮内庁自身による陵墓の被葬者解明。
2.被葬者が明確になっている継体陵、崇峻陵、斉明陵、文武陵を宮内庁管理対象とすること。
3.考古学的な発掘には時間をかけ、一定の範囲で一部公開すること。
本書内容は以上。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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