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意思による楽観のための読書日記

金春屋ゴメス 西條奈加 **

この物語は「設定の面白さ」に尽きる。江戸時代のお江戸の街を、近未来の日本の中に作ってしまった、というもの。最初はお金持ちの日本人がテーマパークでも作るような勢いで古き花のお江戸を再現しようと東北の一部に土地を取得して始まった江戸の再現。賛同者が相次いで、面積を広げ、本当に小さなお江戸が出現、日本国の中で独立を宣言、鎖国までしてしまう。江戸への出入りは江戸湊一箇所に制限され、船でしか出入りはできない。

「逝きし世の面影」という渡辺京二の名著があったが、江戸時代の日本では、そこに暮らす人々が幸せに暮らしていたことが見事に描写されていた。時間に追われず、金儲けに走らず、武士も威張らず、農民も飢えることなく、商人たちも慎ましく暮らしていた。病気を治す現代医学はないので疫病や眼病、感染症などで多くの命は失われたが、そこに暮らす人たちは幸せだった。本作品を読みながら「逝きし世の面影」を思い出した。

日本から江戸の街に入るには倍率300倍の抽選があるのでちょっとやそっとでは江戸にはいけない。その抽選に当たったのが辰次郎、身請け先となったのが金春屋ゴメスと呼ばれる長崎奉行がいる金春屋という仕出し屋。幼い日に江戸で過ごした辰次郎だが、致死的な病気に罹って母親が現代医療が受けられる日本行きを決意したのだが、江戸湊を出るときには病気は寛解。その当時、その病気は鬼赤痢と呼ばれ致死率100%、なぜ辰次郎は生き残れたのか、江戸湊でなにがあったのか、この謎を解くために辰次郎は呼び戻されたのだった。

辰次郎は鬼赤痢の正体の謎解きを任される。すったもんだの末、江戸の薬問屋が仕組んだ自作自演の流行り病だということが判明し、一件落着となる。ストーリーはともかく、物語の設定が面白くて、現代社会のつまらなさや、田舎暮らしに憧れる都会人の気持ち、老後は農業でもやりたい、というサラリーマンの感情を掻き立てる仕組みになっている。日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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