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意思による楽観のための読書日記

吉田茂とその時代(下) ジョン・ダワー ****

歴史上の人物だった吉田茂がよく分かった。イギリスびいきの現実主義者で天皇崇拝者。戦前は中国、イギリス駐在の外交官として日本が戦争に突入しようとするのをなんとか食い止めようとしていたが、一外交官の立場では無力であった。太平洋戦争中はこれ以上の被害を避けて、ましな条件で終戦させようと協力者を募ったが、これが特高の目に留まり1945年4月には逮捕、これが反戦主義者と解釈され戦後の政権奪取につながった

マッカーサー改革の第一歩であった新たな日本国憲法は、吉田にとっては「とんでもない」存在であったが、天皇自身がアメリカ案を支持することで、吉田もこれを受け入れることに同意したという。新憲法案は幣原内閣から吉田第一次内閣に引き継がれ、日本政府案として国会に提出された。吉田としては「国体の護持」が最重要であったので、マッカーサー案の「天皇制維持なるも、憲法の制限内に置かれ、国民の究極の意志に従うこと。戦争の否定と封建制度の廃止」という内容は維持されていた。憲法の制定は、その直後に予定されていた戦勝11ヵ国による極東委員会における天皇の犯罪検討を待たずして天皇制維持を確定するものとして1946年5月に行われた。この時に憲法に組み込まれたもう一つの重要項目「戦争放棄」は、サンフランシスコ講和条約を見据えた時、日米条約との組み合わせによって、日本の独立をアメリカの監視下に置くことを意味し、その他の条約締結国の納得を得るためのものでもあった。

吉田としては英米との協力が日本の平和と繁栄につながるという信念があった。理想は1902-1922年の日英同盟だったが、戦後はこの伝統外交の新版として日米同盟を歓迎することになった。いずれもロシアを対象とした安全保障条約だったが、日米同盟では反共主義が鮮明になった。占領直後の「マッカーサー改革」は経済非軍事化と民主化だったが、アメリカの政策は日本資本主義に関しては自立、そして日米経済協力、そして軍事同盟強化、アジア戦略との統合へと進展し、旧財閥寡占復活と軍事関係の再生産、再軍事化への動きへとつながった。この体制は見方を変えれば、皮肉なことにアメリカと東南アジアを加えた「大東亜共栄圏」とも思える構想でもあった。

マッカーサーの五大改革の中で、地方自治に関しても、昭和29年には戦前の中央権力による官僚機構は復活し、税金、補助金、行政改革などマッカーサーが試みた改革はすっかり骨抜きにされていた。

1952年4月占領が終わった時、アメリカ政府が日本に期待することは次のような内容だった。1.アジアの非共産国の経済安定にとって重要な商品とサービスの提供。2.アジアの原料資源開発におけるアメリカとの協力。3.低原価の軍事物資の大量生産。4.アメリカ太平洋戦略のなかで対共産圏防衛の盾となり、アメリカ兵力の再配備を可能にする、日本自身の軍事力拡充。これに対して吉田茂がアメリカ政府に示した日本の方針は次の通り。1.自国の労働力と未利用工業能力活用による増産。2.日本の生活水準向上と自衛力の漸次強化。3.増産の隘路となる電力不足を補うため、アメリカ資金援助を得て電力供給を増加する。

警察予備隊、保安隊と実質的な再軍備を進めてきた日本政府は、アメリカから軍事力強化目標として示された陸上部隊35万人に対して、18万人を示した。日本としては憲法を楯にとって、経済成長を担保する方針であり、アメリカ政府としても憲法改正は日本国内問題であるとしてこれを認めた。しかしその後ニクソンは副大統領として日本を訪問、日米協議会主催の昼食会席上700人の来賓を前に「憲法9条は誤りであった」と述べた。吉田は、外交上の方針として護憲の立場をとり、再軍備にかんしても漸次的に対応する立場をとったが、党内別勢力であった鳩山一郎からの「憲法改正調査会」の設置要求にこたえ、これを設置、のちに首相となる岸信介を調査会会長に任命した。これが自由民主党の改憲の動きの始まりとなった。

吉田茂の戦後の最大の貢献は、上記対応を踏まえた上でのサンフランシスコ条約体制を進めたこと、同時に漸進的、断片的再軍備の形を設定したことであった。しかしその置き土産は現在の日本にも残存することになっている。1.安保条約とアメリカ軍の駐留。2.台湾を中国とする。(これは後に逆転された)3.漸進的再軍備は憲法範囲内という解釈。

ここまでが本書の内容。現在進められようとしている憲法改正論議においては、こうした歴史と自らの歴史解釈をもう一度国民の前に示したうえで、改正ポイント案を示すこととしてほしいと考える。


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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