伊豆の寺田歯科

趣味(船釣など)と仕事の独り言

ついに実現しました 「口から覗くこどもの体とこころ」

2007年03月06日 | 歯科医療

2月24日土曜日、三島グランドホテルで、横浜市で小児歯科開業の元開冨士雄先生を講師にお招きし、『口から覗く子どものからだとこころ』というテーマの講演会を開催しました。歯科医師だけでなく子どもの口の発達にかかわる様々な職種のかた、幼稚園や保育園、一般からの参加もあり、関心の高さが感じられました。

講演内容は、口の成長発達について生物学的、系統発生学的、心理学的、社会的な背景と、診療室での子どもたちありさまや治療経過の臨床例を示しながら解説され、臨床家ならではの説得力のあるお話でした。その内容は膨大で、限られた紙面に表すのは難しいので、印象的な部分を紹介いたします。

子どもが育つ力は生物学的に備わっているにもかかわらず、子どもの口の中に手を入れられないなど、母親の育てる能力に問題があるケースが増えている。(自分が子どもの時に愛されたことがない、だからどうしていいのかわからない親、思い通りにならないと虐待がはじまる)

 子どもを育てるとは、命の継続のために自立させることであり、基本的生活習慣を獲得することで、口を育てる第一歩として「食べる」ことがすべての礎になる。私たち歯科医師は口を診ることでこれを支援してゆくことができる大切な立場にある。

哺乳の口から咀嚼の口へ。スコップ状の舌形態から舌の平坦化、側縁の厚みの減少、舌尖の形成、舌の挙上。口唇形態の変化、吸盤のような口唇から伸展性のある口唇へ。舌小帯の役割、哺乳時は舌を固定するための太くて短いから感覚情報入力しやすい薄く平坦で可動性に富む形に(小帯は、退縮性の器官である)。吸うための口から食べるためへと、機能と構造の変化がうまく進んでゆく。

様々なものを口に入れたり、舐めまわしたりする行動は、乳首しか触れたことのない口腔の過敏な状態を慣らしていくことを意味する(脱感作)。体性筋由来の舌にとっては感覚入力と運動の統合学習過程として大切な行為であることを理解して欲しい。また、生えてきたばかりの歯に対していきなり歯ブラシは不適切で、ガーゼなど刺激の弱いものからゆっくりと慣らしてゆくべきであることが理解できる。

唾液の分泌量が増えて主食に対するの分解酵素が増えてきたときが消化の場への変革、離乳の時期である。

手づかみ食べは、口唇で食物を捕らえる練習で、哺乳類のついばみ食べから食物の性状など手からの情報収集とほかの感覚が統合されてゆく。手のひら食べから指先食べに移行することで、指の微細な運動の練習にもなっている。この時期に口腔機能として重要な口唇閉鎖が獲得される。唇をうまく使えないと食べこぼしが減らない。

以下、項目を簡単に記載する。

生活リズムを確立することの大切さ:子供の寝る時間が世界一遅い

すぐに疲れるこども:身体に入ってくる情報をうまく処理できず、目に頼りすぎている。外遊びが少なく、感覚―運動調整機能の獲得、5感の統合による行動発達の問題

言語障害:摂食機能はプレスピーチといわれ、うまく食べられない、口の構造に問題があるのにうまく発音できるわけがない

正常嚥下と幼児型嚥下:頤が動くかどうか

歯列形態や咬合:口唇形態や舌機能など軟組織に影響されること。食べるのが下手、発音が不明瞭など、上顎前突、過蓋咬合の機能的問題について詳しく解説された。

ブラキシズムは筋肉のフラストレーション:咬耗は邪魔なところを削り倒した結果。

下顎骨は平衡器としてはたらく:片側噛みなど全身の中では姿勢の問題と関連づけられる。

指しゃぶり:神経生理学的に解説され、口唇閉鎖が確立されていれば問題ない。

口腔とこころの発達では、触覚防御反応の過敏な状態といじめ、育てにくい子ども、スキンシップの大切さが強調された。

3時間に及ぶ長い講演時間でしたが休憩を取ることなく、元開先生の巧みなお話や、身振り手振りなど全身を使って、時には歯ブラシを使ってのパーフォォーマンスに魅了されていたようです。目前の患者さんの壊れた口を診て、どうしたらいいのかばかり考えるのではなく、さまざまな背景を洞察することで名医になれるかもしれません。


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