美麗島まで (ちくま文庫)
東京生まれの沖縄人二世が母の残した言葉を頼りに家族の歴史をたどる。
その旅が実は日本、台湾、アメリカのあいだで揺れた沖縄史をたどる旅にもなっている。
ほとんど素性がわからなかった祖母が実は沖縄初の舞台女優だったこと。
母も沖縄初のプロ女子アナだったこと。
郷土史としてもほとんど記録されておらず取材がなければ埋もれて消えていく運命だった事実を掘り起こして形にしている。
この本がおもしろいのはその取材がものすごい偶然の出会いによって成立してるところ。
特に印象的なのが数ヶ月に一度、30分しかそこで出会う可能性のない者との出会いによって祖父と母が暮らした数十年前の台湾の家を発見する場面。
紀行文としてもおもしろいので時間をおいてちょくちょく読み返したい。
ナツコ 沖縄密貿易の女王 (文春文庫)
戦後1946~51頃の沖縄で、陸上戦の残骸や占領米軍の倉庫からの様々な盗品「戦果」を
台湾香港に大儲けしていた「大密貿易時代」という活気に満ちた時代があって、
その時代に闇商売の親分と呼ばれその存在を知らない者はいない、しかし存在を示す資料は
ほとんどなく人々の記憶の中だけにかすかに残っているナツコという女傑がいた。
本当に全ての歴史が記録されるべきなのか?人間の忘れるという機能ってけっこう大事じゃない?
なんて1TBのHDDが1万で買えちゃう最近ふと考えることもあるが、
それはそれとして、この本が掘り起こした歴史は文句なくおもしろい。
才覚しだいで笑いがとまらぬほど儲けることができた夢の時代。
戦場にされ、負け、占領された、という現実をつきつけられた自分の住む土地で、
しなやかにしたたかに、その状況を利用してサヴァイヴしていた人々がいて、
しかもそのトップを走っていたのが女性だったっていうのは痛快そのもの。
「沖縄のためさ。何が悪い?」と逮捕されても語っているように、物がなくて困ってる沖縄に、砂糖を持ってきて何が悪い?
薬を持ってきて何がいけない?というまっとうな感覚。
政治犯の疑いで逮捕されたり、当時タブーだった沖縄の日本復帰を主張する政治家とのつながりがあったり、
また、流出した米軍の燃料や薬莢が中国共産党に流れていた密貿易の性格からして、
また資料の少なさからも彼女本人に主義主張があったかは否定できない部分があるが、
総じていえば「生まれ育った土地のため」というまっとうな動機からくる反骨精神が大部分だったのではと読める。
こうやって描いていると宮崎駿の主人公になりそうな人物だな。
けっこう衝撃なのは、文庫版のあとがき。
単行本取材時は
「あくまで商売上の人間を密航させてただけ」と証言してた者が
「共産党員も混ざってたかもね?あの時言わなかったけど」となったり
密貿易を手伝ってた者が「しょせんあぶく銭。いまはひっそりとパン屋をして暮らしてます」
といってたのに後日周りに聞くとパン工場の社長で豪邸に住んでることがわかったり。
ナツコから今にしたら億単位の金を借りて密貿易をしてた者がずっと資産を隠し持ってて
後にゴルフ場やホテルをたてたり(失敗したらしいけど)。
したたかですな。
沖縄社会には外部から簡単に溶け込めるものじゃなさそうだと思ってしまった。
密貿易は戦後のある一瞬だけ輝いた幻の時代なんかじゃなく
今の沖縄社会に影で影響を与え続けてるんじゃないかと邪推してみると
ゾッとしたりワクワクしたりしてしまう。
文春のサイトのレビュー「国敗れて女海賊現る」