鶴巻温泉病院/回復期リハビリテーション病院で画期的なチーム医療を実現していると評判の澤田石順先生(「日本の論点」への寄稿などもしている医師の方です)から、下のようなメールをいただきました。ぜひ!!読んでみてください。
病院に行ってみたい。。。
澤田石先生のブログは
こちら
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メールありがとうございました。澤田石です。
■当院での状況について
▼認知症認定ナース活躍
認知症で対応に苦慮する患者さんがいると、病棟のナースが
医師の指示も許可も必要なくコンサルトできる体制になりました。
もちろん担当医には一言かけることが推奨されてますが、医師は
否定的なことがあるので、どこも医師には相談無しのこともかなり
あるようです。私は医師に相談することを原則とする必要すらないと
思います。
Mさんはコンサルト依頼があると、本人とじっくりと話をし
さらに家族に長時間かけてインタビューして、生活歴や個人的嗜好
など把握します。で、「こうしましょう」と具体的な提案をして
くれます。Alzheimer病かいなかの判定には、さすがに医師の「同意」
が必要。アリセプトを処方するにあたり診断がないといけないから
です。
認知症認定看護師のMさんは大活躍しておりまして、現実に成果が積み重ね
られてきており、最近は医師が積極的にコンサルトするようになって
きました。Mさんは看護部長室専従でフリーの立場、つまり病棟業務を
してないので能力を発揮できる時間が十分にあるからできるのだと
思います。
▼感染症認定看護師
リスクマネージメント部門専従でAさんが大活躍してます。感染対策
委員会の長は今でも医師ですが、実務のほとんどはAさんがしており
医師はAさんを支援するだけ。
昨年度、患者さんのインフルエンザ罹患がゼロとなりました。感染症認定看護師が専従になったからの成果だと思います。
▼褥瘡(pressure ulcer)対策委員会
この委員会も長は医師ですが、国内で研修・講習を受けたナースが
専従ではありませんが実務を主導しており、院内発生のPU発生が
ほとんどゼロとなり、持ち込みのPUは短期間で治癒にいたるように
なりました。
▼リスクマネージメント
この部門が独立し、長はナースです。転倒、転落、薬剤の誤投与
などの報告システムがしっかりとし、システムエラーをなくする
ための具体的取組が飛躍的に増加しました。
▼私がいる病棟での実践
1)排尿と排便の問題
ブログに書いたように、過活動膀胱に代表される排尿の問題、
便秘や下痢の問題について、ナースと勉強を重ねてきてまして
今ではナースが検査や治療をどしどし提案するようになり、
特に夜間頻尿という深刻な問題が解決(改善)することが多くなり
ました。昔は医者が気づかないとそのまんま。夜間頻尿のために
自宅に戻れないことが少なくなかったのですが。
2)栄養管理と嚥下障害について
5年前、自分がいる病棟で開始しました。栄養カンファレンス
(ナースと医師)、嚥下カンファレンス(ナース、ST、医師、歯科衛生士)
を週一回。勉強会もしつつ。低栄養が見過ごされることがほとんど
なくなり、経管栄養から経口への以降が早まり、肺炎の発生が
50床の病棟で年に5例未満に激減しました。栄養管理や嚥下障害
へのアプローチには保険点数がつくようになり、栄養カンファは
全病棟で実施されるようになりましたが、嚥下カンファは残念な
がら私の病棟のみ(自分の病棟の経口摂取移行率が最高なのですが)。
>そして誇りを持って受け持っているという感じなのでしょうか?
>理学療法士や栄養士の方がと比べると、その責任に対する態度とは
>どのように違いがある/ないでしょうか?そのへんをも少しぜひ伺
>えればと思います。
最初の頃は「そんなのは医者の仕事だ」という姿勢でした。「便秘
です。どうしましょうか。なんとかしてください」と単純に指示待ち
ということです。「私は医者なので30人担当してて、細かいことは
わかりません。ナースは8人担当してます。だから細かいところを
みてます。便秘や頻尿の患者さんがいたら何をチェックして、チェック
の結果で必要な検査、検査の結果により必要な治療手段は何かという
ことは書物に書いてます。一緒に勉強しましょう。医者にどうしたら
いいかと尋ねると楽でしょうが、医者ってのは便秘や頻尿のことなど
実はあまり勉強してません。ナースが検査と治療を提案するように
なれば必ず患者さんにとって利益になります。医者任せではダメです。
自分は便秘や排尿問題について相当勉強してきましたので、どうしたら
いいのと言われたら、いろいろと質問して検査や治療を主導できますが
それじゃだめなんです。医者なんてのはしょっちゅう変わるし、
やる気がある医師とそうでない医師の差が激しい。だから、ナースが
主役にならないといけません」
こんなふうに語り、勉強会をしたりして、とうとうナースが
検査や治療を提案するようになってきました。院内で研究発表
したり、学会・研究会で過活動膀胱への取り組みを発表する
などナースは誇りをもって問題に取り組むようになったとの印象
です。
>理学療法士や栄養士
のことですが。昔の療法士は独自の世界にとじこもってましたが
リハビリ医療はチーム医療という理念が浸透してきて、ナースと
療法士や栄養士との話し合いが日常的に実施されるようになり
隔世の感があります。口から食べるためには一に離床、二に離床
三に口腔ケア、四番目が嚥下リハということが全職種に理解され
るようになりました。昔は経口摂取はSTの仕事という姿勢が
強かったです。
>処方できればしてみたいという看護師さんの率はすごく低いという調査
でしょうね。NPが制度化されるまでは、処方そのものは医師がする
しかないのですね。重要なことはナースが目標志向(例えば夜間頻尿
の解決)で仕事をするようになること。救急病院から私がいる
病院に来たナースは医学的知識はそこそこありますが、医師の指示待ち
症候群で「何をしたらいいかわからない」という方が多いです。
そのようなナースに対して発想の転換をしてもらうためにいろいろと
工夫してます。医者をセンセイと呼ぶなというところから初めて
「指示を求めるのではなく、何をしたいか、何をするべきか提案
してください。医者は患者の問題のごく一部しかわからない。
医者は道具であり頭脳ではない、リーダーはナースだ」と日々
言葉と態度でさとしていきます。
私がいる療養病院に来る医師は急性期医療に疲弊して「撤退」
してきた人がほとんどですので、プライドばかりでやる気がない
医師が多く、一年以内に大多数が辞めていきます。チーム医療の
楽しさと効果を実感するまでにいたらないから、辞めてしまう。
常に医師不足です。で、医師を基本的に私は信頼できません。
チーム医療の素晴らしさに目覚めた少数の医師のみが継続して
勤務します。チーム医療を実践する医師は常にごく小数
ですから、ナースの役割は極めて重要なのです。
療養病院に関しては、医者は50人に一人でもいい、NPが
50人に対して二人いたらいいと私は思います。
療養病棟という慢性期医療の現場においてNPの必要性は極めて
高いと思います。エクランドさんのような救急医療においても、
慢性期医療においてもNPがいて欲しいってホント思います。
私はナイチンゲールを統計学者、疫学者、かつナースとみて
おり尊敬しております。ナイチンゲールは医師らの間に
EBMの理念すらない時代に、EBMを実践した偉大な先覚者だと
みております。医師は疾患そのものについてのややこしい
理屈については詳しい。人としての患者さん、そして
患者さんの環境(衛生・清潔という純粋な環境[横]、そして家族、
生活歴[縦])をトータルに捉えることができるのはナースですね。
長々と思いつくままに書いてきました。日本国は衆議院選挙の
結果により、医療政策が変わるかも知れません。今のところ
諸政党はNP/PAに関しての政策をほとんど明らかにしてません。
日本のプロ野球選手が躊躇することなく米国の大リーグに
挑戦するようになっています。残念ながら大リーグで活躍した
日本人が日本のプロ野球に戻ることは少ないです。
米国で活躍している日本人(国籍)NP/PAが日本に戻っても
今の法制度では活躍することは困難だと思います。日本国に
NP/PA制度ができれば、日本国内でNP/PA資格を取得するナースが
医療を変えていくことでしょう。米国でNPの資格を取得して
活躍したナースが日本に戻ってきて、日本の医療水準を
高めることもできることでしょう。
緒方さん、今後ともよろしく御願い申し上げます。
P.S.
細田満和子先生の「チーム医療の理念と現実」、おそらく既に
お読みかと推察しますが、もしもまだでしたら是非とも。
リハビリテーションの学会・研究会や専門誌ではチーム医療
という用語がますます頻繁に用いられるようになっています。
在宅医療においてもそうです。
私が勤務している病院の法人は訪問看護ステーションと
高齢者住宅の複合体を有しております。あじさいの里と
いう名称ですが、先月「あじさい祭り」というのがあり
参加しました。チームの構成員が、医療人と患者・家族
だけではなく地域のボランティア、地元商店街、町内会、市会議員、地元
出身の演歌歌手などに広がっているのです。
あじさい祭りにはホントに衝撃を受けました。日本国はまだまだ
すてたもんじゃない!! 「人と人とが結びつくことは善であり美、
人と人とが離反することは悪であり醜」というトルストイ翁の言葉は
真だと確認できました。
澤田石 順