歌人・辰巳泰子の公式ブログ

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片付けてしまふは惜しき鰯雲  松木靖夫(松木千樹)

2024-03-03 10:21:13 | 月鞠の会
たずねびと、松木靖夫さまの、ご家族さまからご近況を伺うことができました。
深く深く感謝申し上げます。

靖夫さまには、亡母がたいへんお世話になりました。
兵庫県立篠山鳳鳴高校時代から、五十年余の長年にわたる温かきお励ましと、
亡母の晩年には、亡母の句作をご指導くださいました。

表題の俳句は、靖夫さまが、拙ブログの連歌の記録をお読みになられて、そのなかで連衆の詠んだ「どこからかたづけようか鰯雲」の句に、着想を得られたのではないかと拝察した次第です。

「鰯雲人に告ぐべきことならず」という、楸邨の有名な句が、世の中には先行します。
楸邨の句に、「鰯雲」、すなわち取るに足りないものの意を汲むのであれば、「人に告ぐべきことならず」と下句がつづくのは同義反復であり、なぜこの句が名句とされたのか、それはおそらく、軍国時代を背景にもつからでしょう。

そして、靖夫さんの、「片付けてしまふは惜しき鰯雲」の句は、時代を代表する句としても、内容のうえでも、楸邨の句それ以上です。

靖夫さんの句は、「鰯雲」に取るに足りないものの意を汲みながらも、天空一面に広がる実際の景色とともに、このいまの眺めがさらに、未来につながる可能性を示唆しているのです。

靖夫さんの築かれた時代の自由がここには象徴されています。
私ども子の世代は、その恩恵に浴しました。
この句は、さらにそのうえ、子々孫々に未来の広がることを、片付けてしまうには惜しい、一つ一つの生命のつながりを、示してくれているのです。

この記は、さしあたっての雑記であり、ここに示したものを基調に、「月鞠」第21号では、靖夫さん句について、ささやかながら、筆を執らせていただきます。

未来を描いて見せてくれる作品を、私も、多くの人に見せたくなりました。




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