年末になり、2016年に向かいながら多少なりとも思索に耽ると、ふとアルゼンチンのボルヘスの「平安を誇る」という詩を思い出した。
その詩の中で「憤怒」という言葉から生じる衝撃、「人間性とは、同じ貧困から生じる声がぼくらであると感じることだ」の共感、「時間こそがこのぼくを生きている」深遠さ、そこから「あてもなく足を運ぶ旅人のように、ぼくはゆっくりと歩いてゆく」旅へと結実してゆく。
詩のイメージやビジョンが旅先で出会った人物たちとの記憶と錯綜しながら、今でも胸のなかによぎるから・・・
平 安 を 誇 る
JACTANCIA DE QUIETUD
流星よりも明るく煌めく光の文字が暗闇を襲う。
平原にのしかかるのは、天上にある未知の都市。
ぼくは自分の生と死に満足しながら、野心に燃える
世間の人びとを眺め、理解しようと努力する。
彼らの昼は、宙を飛んでいく投げ縄のように貪婪(どんらん)だし、
彼らの夜は、まさに切りつけようとする憤怒の刃のつかの間の休息だ。
彼らは人間性についてしきりに語るが、
人間性とは、同じ貧困から生じる声がぼくらであると感じることだ。
彼らは祖国についてしきりに語るが、
祖国とは、ギターの調べ、数枚の肖像、ひと振りの古い剣、
薄暮の柳の原でまざまざと聞く祈りの声だ。
時間こそがこのぼくを生きている。
影よりもひっそりと、ぼくは欲望に駆られる群衆を越えてゆく。
ぼくはおよそ平凡で、詰まらない人間だ。
あてもなく足を運ぶ旅人のように、ぼくはゆっくりと歩いてゆく。
Escrituras de luz embisten la sombra, más prodigiosas que meteoros.
La alta ciudad inconocible arrecia sobre el campo.
Seguro de mi vida y de mi muerte, miro los ambiciosos y quisiera entenderlos.
Su día es ávido como el lazo en el aire.
Su noche es tregua de la ira en el hierro, pronto en acometer.
Hablan de humanidad.
Mi humanidad está en sentir que somos voces de una misma penuria.
Hablan de patria.
Mi patria es un latido de guitarra, unos retratos y una vieja espada,
la oración evidente del sauzal en los atardeceres.
El tiempo está viviéndome.
Más silencioso que mi sombra, cruzo el tropel de su levantada codicia.
Ellos son imprescindibles, únicos, merecedores del mañana.
Mi nombre es alguien y cualquiera.
Paso con lentitud, como quien viene de tan lejos que no espera llegar
ボルヘス Jorge Luis Borges
アルゼンチンへと足を運んだのは、たしかボルヘスの生誕100年祭の年だった。「平和への新千年紀」というタイトルの英詩を、アルゼンチンのロサリオで開かれた詩祭で知り合った友人のマルセロがスペイン語に訳して送ってくれた。
アルゼンチンからチリに向かう途中、バリローチェ湖畔で知り合った男性は別れ際、Hasta siempre(アスタ・シエンプレ)と繰り返した。
当時は、その言葉は、「単なる別れ際の挨拶」に過ぎないと考えていた。
しかし、帰国後、後々になっても、なぜだかHasta siempre(アスタ・シエンプレ)の言葉かとても気になり、さらに調べてみると、単なる「さようなら」の意味よりも「意味深長な別れの挨拶」であることに気づいた。
つまり、Hasta siempre(アスタ・シエンプレ)は、多分その人にもう会うことはないけれど、「いつでも戻ってまた会いたい」と思っているときに使われる。すべての場面でその意味かは定かではないのだが、Hasta siempre(アスタ・シエンプレ)「また会いに戻ってくるよ(こいよ)」という感じが、今では染々と感じられるのだ。
さらに、その別れの言葉がHasta siempre「永遠に」とチェ・ゲバラを讃える曲にもあり、世界各地のミュージシャンによって歌われているHasta siempre(アスタ・シエンプレ)というタイトルがあることを知り、この曲も、ある意味で関係しているのだと気づいた。
この曲は、1965年にキューバのトロバドール(吟遊詩人)であるカルロス・プエブラが作詞作曲したものです。
1965年(昭和40年)といえば、今年でちょうど半世紀前(50年前)にゲバラがキューバを去った年なのだ。ゲバラの「*別れの手紙」に着想を得て、プエブラはこの曲を作ったそうです。
http://hastasiempre.blog104.fc2.com/blog-entry-57.html(ゲバラの「*別れの手紙」の参考ブログ)
そして、チェのフィデル・カストロへの「別れの手紙」には、最後に”“hasta la victoria siempre patria o muerte!”(永遠の勝利の日まで 祖国か死か)という有名な一節がありますが、その言葉からHasta siempreという曲が生まれたそうなのだ。
以下、スペイン語での原詞
Hasta siempre Comandante.
Aprendimos a quererte
desde la histórica altura
donde el sol de tu bravura
le puso un cerco a la muerte.
Aquí se queda la clara,
la entrañable transparencia,
de tu querida presencia
Comandante Che Guevara.
Tu mano gloriosa y fuerte
sobre la historia dispara
cuando todo Santa Clara
se despierta para verte.
Vienes quemando la brisa
con soles de primavera
para plantar la bandera
con la luz de tu sonrisa.
Tu amor revolucionario
te conduce a nueva empresa
donde esperan la firmeza
de tu brazo libertario.
Seguiremos adelante
como junto a ti seguimos
y con Fidel te decimos:
!Hasta siempre, Comandante!
貴方にも Hasta siempre(アスタ・シエンプレ)と別れ際に伝える旅人たちからの言葉(メッセージ)が心に届いたでしょうか?
"Until forever, Commander!"
We learned to love you
from the historical heights
where the sun of your bravery
laid siege to death
Chorus:
Here lies the clear,
the dear transparency
of your beloved presence,
Commander Che Guevara
Your glorious and strong hand
over History it shoots
when all of Santa Clara
awakens to see you
[Chorus]
You come burning the breeze
with springtime suns
to plant the flag
with the light of your smile
[Chorus]
Your revolutionary love
leads you to new undertaking
where they are waiting for the firmness
of your liberating arm
[Chorus]
We will carry on
as we followed you then
and with Fidel we say to you:
"Until forever, Commander!"
余談だが、松岡正剛氏の千夜千冊の2000年末には、エルネスト・チェ・ゲバラの「ゲバラ日記」で締め括られていた。
http://1000ya.isis.ne.jp/0202.html
1999年が本当の世紀末だったのか、はたまた2000年だったのかは気になるところなのだが、かつての「2000年問題」は遥か昔の感がある。
流れゆく情報にではなく、「心ある言葉」にしばし立ち止まりながら、心身ともに「健康」でありたい。
「平安」を誇り、また世界の平和を祈りたい。