ふんわりノート☆

ジャズシンガー平良亜矢子(たいらあやこ)のブログ。
日頃の“ふんわり”な出来事や音楽の覚え書き。

'09,1,27 カナユニ

2009-01-27 00:00:00 | Weblog
with 川久保典彦(P)

久しぶりのカナユニ と言ってもたぶん半年ぶり位なんだけど、このお店はいつでも時が止まっているようで、前に来たのは数ヶ月前だったか、それとも数年は経つのか判らないような感覚に落ち入るのです

火曜日の19時。階段を降りてフロアを見渡すと、既に満席。沢山の笑顔とテーブルを彩る美味しそうなお料理の数々、慌てずでもスムーズに行き来するベテラン・ウェイター達。世の中が不況だと言われている事も、今日が平日だと言う事も全部忘れてしまいそうな風景。着物の女性のすました表情、髪をアップにして耳元に大きな黒い石のイヤリングをゆったり揺らすドレスの女性の無邪気な笑み、一番端の席で向かい合うまだ若い恋人同士のはにかんだ微笑み、カウンターを陣取っているワインでご機嫌なおじさま達の豪快な笑顔・・・そんな人々の顔が一遍に私の目の中に入って来て、そして今度は逆に自分の体がその風景に溶け込んでいき、急に「誰かではなくここにいる全ての人の幸せをもう1ずつ増やす為に歌いに来た」のだと思えて来た

少しでも多くの方々の傍らで歌いたくて、自然とマイクのシールドを引っ張りながらフロアのあちこちを歩き回りたくなる。動く度に、柱の影からまた別の笑顔と視線が合ったりして、今至福の時を過ごしているその方と出会えた幸せを感じる。ここは、私にとっては遊園地 

2ndセットが始まる頃、予約が入っていた奥の半個室の席にお客様が到着した。一方の女性は確かTVで拝見した事がある・・・と思いながら歌っていたけど誰だったか思い出せない。それよりも、フロアの方を向くと半個室の席に背中を向ける事になってしまうので、上手くどちらも見渡せる角度で歌う事に気がいった。
2ndの演奏が終って、ピアノの川久保さんに「あの女性、政治家だっけ?女優さんかな?よく知ってるお顔だけど・・・」と尋ねても判らない様子。ん~、思い出せないと気になるな~。

3rdセット。空いてはすぐに埋まっていたお席に少しだけ余裕が出来、お食事が済んでワインやウィスキーを傾けながら談笑しているお客様も多い。私が歌い始めると、体を少しこちらに向けて音楽を楽しんだり、リクエストを下さる方もいて、先程までとはまた少し違うゆったりした雰囲気で楽しい このお店はいつもそうなのだけど、今日も誕生日のお客様がいらしたのでハッピーバースデーを歌うと周りの皆さんも御一緒に歌い始め、カナユニ独特の、お客様皆で幸せを共有する空間が出来上がる ところで奥のお席。その席だけは離れ過ぎていてバースデーソングなどを一緒に楽しめないので、3rd最後の曲は多少フロアにお尻を向ける事にはなるけれど、奥のお客様メインで歌う事にした。速いテンポで「Lover come back to me」。それまで話し込んでいた女性は数メートル間近に寄って来た私に気付いて嬉しそうにこちらに振り向き、歌を楽しんで下さっている様子。ピアノソロになると川久保さんを満面の笑みで見つめながらリズムに乗って体を揺らし、また歌に戻ると今度は歌詞を御一緒に口ずさみながらノリノリでお聴きになって、曲が終ると何度も会釈して下さった。私は彼女が何物かなんてもうどうでもよく、とにかくあんなに楽しんで下さって良かったと心から思っていた。

店内もかなり落ち着き、私が4thセットを歌い始めてふと振り向くと、地上に続く階段の下で彼女はコートを羽織っているところだった。普通なら帰る客は皆カウンターにいるベテラン・バーテンさんなどに挨拶をして行くのですぐ判る。でも彼女は静かに席を立ち目立たないように帰ろうとしていたのか、一歩もフロアの方に寄ろうとはせず、気付いた私に、また満面の素敵な笑顔で何度も小さく手を振って下さった。私ももちろん、歌いながらなので片手だったけど、手を振り返して御挨拶をした。

久しぶりのカナユニは、20曲+リクエストも数曲頂いたので忙しかったけど、心はとても充実 言葉を交わしたわけではないけど、人々と出会い音楽で気持ちが通じ合う事程素晴らしい時間は無いような気がする。
帰り際、ホールを仕切っているベテランスタッフのAさんにお礼を言われた。「奥にいらしたお客様が、今日は本当に楽しかったと何度もお礼を言われて、ミュージシャンさんにもお伝え下さいとおっしゃってお帰りになりましたよ。こんな事本来はあまり言う事ではないけど、あの方は○○宮○子妃でしたが、気付いてた?」

・・・あのお顔、知ってるハズだ。彼女はいつも、ジャズとスポーツ(特にサッカー)が大好きだった故○○親王の様々な総裁職を引き継ぎ、天皇杯やJリーグの表彰式では必ず優勝カップを渡すプレゼンターをなさっている。でもきっとこの場合、判らなかったのは仕方ない。だって、まさかそんな方が目の前にいるとは普通は思わないもの

彼女がTVで拝見する以上に素敵な方だった事の嬉しさと、カナユニの尽きぬ奥深さへの感銘と、まるで友達にバイバイするかのように片手で手を振ってしまった自分を思い返しつつ・・・、帰宅の路に着いたのでありました~