ふんわりノート☆

ジャズシンガー平良亜矢子(たいらあやこ)のブログ。
日頃の“ふんわり”な出来事や音楽の覚え書き。

'08,2,25 カナユニ

2008-02-26 22:58:51 | Weblog
with 加藤泉(G)

カナユニには、記念日のディナーに
いらっしゃるお客様が多い
学生時代の後輩も昔、
お父さんの退職記念に家族で食事に来たと言ってたナ。

今回は出足が遅く、8時少し前にいらした
御予約のご家族連れが最初のお客様でした。
御両親と娘さんお2人。
私達は柱の陰になるその奥まった席からなるべく演奏の様子が
見えるポジションに立ち、すぐに演奏を始めました。
楽しそうにお食事を召し上がりながら
時折こちらを御覧になっては耳を傾け、皆さん笑顔。
2曲目が終わった頃、娘さんのお一人がリクエストの紙を持って
私の所へいらっしゃいました。
でも、残念ながらその曲は私のレパートリーではなく、
せっかくのご要望にお答え出来ず、申し訳なく思ったまま、
その後も数曲演奏し、1st setを終えました。

他にも数組のお客様が来店しお店も少し賑わって来た2nd set。
まずはギターの加藤さんのソロでお楽しみ頂いていた時、
オーナーの横田さんがやって来て、
「Bewitchedは君のレパートリーかな?」と尋ねられたので、
「はい歌ってます。リクエストですか?」と答えると、
「今、加藤君が弾いているのはMistyだよね・・・。
 あの席の奥様がBewithedをお好きらしいから。お願いね」
と最初にいらしたご家族連れの方を見ながらおっしゃいました。
少し意味が判らなかったけど、すぐに歌の出番となったので、
取り敢えず言われた通りBewithedを歌い始めた私。
その奥様はすぐに気付き、満面の笑顔。
歌詞も御存知のようで、私と共に口ずさんでいらっしゃいます。
そんな御様子を見ていると私も嬉しくなって、
“思い出の曲か何かなのかな?さっきの横田さんの言葉の意味を
もっとちゃんと訊いておけば良かった”と気になって来ました。
やはり曲が終わってしまう前にもう一度確認しようと思い立ち、
間奏の間に厨房入口に居る横田さんの元へ。

「この曲は、あの奥様がリクエストなさったんですよね?」
「いや、リクエストという訳じゃないんだけど、
 さっき加藤君がソロで弾いた曲を聴いて、
 “私、この曲好きなんです。Bewithedですよね”
 とおっしゃってね。」
横田さんは、彼女の言葉を否定はせず、ただ微笑んで頷き、
そのままの足で私の所へやって来たという事でした。

何だか、力が抜けました。
私は、あのご家族が御来店なさった時から
“さっきケーキが運ばれたけど誕生日でもなさそうだし、
何のお祝いかな~。”と考えたり、
さっきも “思い出の曲かな?”って考えたり、
何か理由を見付けようとしていた。
あのご家族の今日の日がより素敵なものになりますように、
気持ちだけでもお手伝いできれば、と。

そう思う事がいけないとは思わない。
でも、勝手に想像してある程度の枠で捉えてしまえる程、
人々の人生は簡単で判り易いものではないという気がしました。

ギターのソロ演奏というのは、
曲の間中コードをかき鳴らずわけではないし、
ふと一部分を聴いただけでは何の曲か判り辛い。
横田さんは彼女に「この曲はMistyですよ」とは言わなかった。
それよりも本当のBewithedを楽しんで頂く方が大事だから。
「あ、好きな曲だ」と嬉しく思った方にとっては、
Mistyだって時にはBewithedでいい。。。
「今度は歌付きで演奏してくれた!」と
幸せも2倍になれるかもしれない。
・・・ケーキだって、お祝いの理由がなきゃ
ローソクを灯して食べちゃいけない決まりはない。

だから私も、理由なんて教えられるまでは知らなくていい。
本当の事だけが “幸せの素”なのではない。
ただ自由に喜びを感じて頂ける空間を心がければいい。
間奏が終わる直前にマイクの元へ戻った私は、
さっきより“ふんわり”した気持ちで続きを歌っていました。

開店から42年間お客様を迎え続けている
ベテランサービスマンに、とても大事な事を教えてもらった日