本日は通好みのギタリスト、サル・サルヴァドールをご紹介します。ジャケットの容貌やスペイン語風の名前からして中南米出身のような気がしますが、マサチューセッツ州生まれのアメリカ人で本名をシルヴィオ・スミラリアと言い、おそらくイタリア系と思われます。スタイル的にもラテン要素は全然なく、チャーリー・クリスチャンの系譜を受け継ぐ純粋なバップ・ギタリストです。最初に有名になったのは1950年代前半にスタン・ケントン楽団に在籍した時で、コンテ・カンドリ、メイナード・ファーガソン、リー・コニッツ、フランク・ロソリーノら有名な"ケントニアン"達に交じって主に西海岸でプレイしていました。リーダー作としてはケントン楽団在籍時にキャピトルから”ケントン・プレゼンツ”シリーズで1枚、あとは草創期のブルーノートにも1枚アルバムを残しています。その後は西海岸から東海岸に戻り、ベツレヘムに3枚のリーダー作を発表。そのうちの1枚が今日ご紹介する「シェイズ・オヴ・サル・サルヴァドール」で、個人的にはこれが最高傑作だと思います。
セッションは3つに分かれており、1956年10月のセッションがサル、エディ・コスタ(ピアノ)、ビル・クロウ(ベース)、ジョー・モレロ(ドラム)から成るカルテット編成。同年12月のセッションがフィル・ウッズ(アルト)をフロントに迎え、ラルフ・マーティン(ピアノ)、ダンテ・マルトゥッチ(ベース)、モレロ(ドラム)がリズムセクションを務めるクインテット。そして1957年1月のセッションが引き続きウッズを起用し、さらにエディ・バート(トロンボーン)、エディ・コスタ(ヴァイブ)、ジョン・ウィリアムズ(ピアノ)、ソニー・ダラス(ベース)、ジミー・キャンベル(ドラム)を加えたセプテット編成です。おそらく全員が東海岸でプレイしていた白人ジャズマンですが、なかなかイキのいいバピッシュな演奏を聴かせてくれます。
全11曲。曲順とセッションの時系列が一致しておらず、ややこしいのでセッション毎に解説します。まず、オープニングトラックはセプテット編成の”Delighted”。サル自身が作曲した明るくスインギーな名曲で、サル→フィル・ウッズ→エディ・コスタ→エディ・バートの順で軽快にソロをリレーします。主役は当然サルのギター!と言いたいところですが、より耳につくのはフィル・ウッズのアルトですね。この頃のウッズは少し前に亡くなったチャーリー・パーカーの後継者として注目を集めていた頃。11曲中7曲に参加して、素晴らしいアルトを聴かせてくれます。ピアニストとして有名なエディ・コスタの涼しげなヴァイブも良いですね。6曲目"I've Got A Feelin' You're Feelin'"も素晴らしいです。あまり他では聞かない歌モノスタンダードですが、ドライブ感に溢れたアップテンポの演奏で、サル→バート→ウッズ→コスタがソロを回した後、ジョン・ウィリアムズのピアノソロ、ジミー・キャンベルのドラムソロも挟まれます。この2曲は本作でもハイライトと言って良い名演だと思います。セプテットではもう1曲、ラストトラックの"Took The Spook"がウッズの自作曲で、どこかで聞いたことがあるようなマイナーキーのバップナンバーです。
ウッズ入りのセッションとしてはクインテット編成の4曲もまずまず。こちらは全て歌モノスタンダードで5曲目”Carioca”、7曲目”I Hadn’t Anyone 'TIl You"、9曲目"I Got It Bad And That Ain't Bad"、10曲目"You're Driving Me Crazy"と言った曲を取り上げています。ウッズは相変わらずどの曲も好調ですが、とりわけ"I Got It Bad And That Ain't Bad"でのバラード演奏が絶品ですね。リーダーのサルのギターももちろん良いですし、無名の白人ピアニスト、ラルフ・マーティンのピアノソロも悪くないです。
ここまでサルよりウッズのプレイに注目しがちですが、残りの4曲はホーンなしのカルテット編成でサルのギターをじっくり味わえます。2曲目”Two Sleepy People”はホーギー・カーマイケル作曲のスタンダードで、サルがバラードをしっとり聞かせます。3曲目”Joe And Me”はジョージ・ルーマニスと言う白人ベーシストの曲。本作には参加していませんがサルの前作「フリヴァラス・サル」に参加していたそうです。ここでのJoeはジョー・モレロのことで、サルの速弾きの後、モレロがドラムソロをたっぷり聴かせます。4曲"Flamingo"と8曲目"They Say It's Wonderful"はどちらもスタンダードで通常はバラードで演奏されますが、本作ではミディアムファストで演奏され、サル→コスタと軽快にソロをリレーします。以上、サル、ウッズ、コスタをはじめとして東海岸の白人ジャズマン達の隠れた実力を知ることのできる1枚だと思います。
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