本日はスタン・ゲッツ「ウェスト・コースト・ジャズ」です。ヴァーヴお抱えの名物画家デイヴィッド・ストーン・マーティンによるイラストが何とも印象的なこの1枚。名盤揃いの50年代のゲッツの中でも代表作の一つに掲げられるアルバムです。ただ、ジャズに詳しい人ならおそらく「ゲッツはウェストコースト・ジャズちゃうんちゃう?」と疑問を抱くことでしょう。実際、ゲッツは東部ペンシルヴァニア出身でキャリアの多くを東海岸で過ごしており、ジャンル的にもウェストコースト派とは区別されるのが一般的です。ただ、50年代の半ばは西海岸録音が何枚かあり、1955年8月15日録音の本作をはじめ、翌1956年11月録音の「ザ・スティーマー」、1957年8月録音の「アウォード・ウィナー」と傑作揃いで、個人的には"ゲッツの西海岸3部作"と勝手に名付けています。
さて、上記の3枚全てで共演しているのがルー・レヴィ(ピアノ)とリロイ・ヴィネガー(ベース)。前者は白人、後者は黒人ですが両名とも全盛期のウェストコースト・ジャズの屋台骨を支えた名手です。本作にはさらに西海岸を代表する名トランペッター、コンテ・カンドリも参加しています。レヴィ、ヴィネガー、カンドリの3人はこのまさに翌日に名盤「ウェスト・コースト・ウェイラーズ」を吹き込んでおり、息もピッタリです。なお、ドラムは3部作の残り2作はスタン・リーヴィですが、本作はシェリー・マンが務めています。どちらにせよ豪華メンバーであることに変わりはありません。
肝心の内容ですが、タイトルとは関係なく特にウェストコースト・ジャズ風ではなく、いつもながらのゲッツ・サウンドが繰り広げられます。あえて言うなら、ワンホーンが多いゲッツ作品にしてはトランペットが加わっているのがいつもと違う点でしょうか?その影響もあるのかディジー・ガレスピー”A Night In Tunisia"とマイルス・デイヴィス”Four”と言ったトランぺッターの定番曲を2曲取り上げています。特に後者の"Four"は前年の1954年にマイルスの「ブルー・ヘイズ」でお披露目されたばかり。翌1956年にマイルスが再び名盤「ワーキン」で再演してモダンジャズの古典の仲間入りしますが、いち早くカバーしたゲッツの慧眼ぶりに驚かされます。白人クールジャズの筆頭格だったゲッツですが黒人ハードバップにも関心が強かったのでしょうね。演奏の方もマイルスのバージョンとはまた違う魅力があり、ゲッツのまろやかなテナー→カンドリの小気味良いトランペット→ルー・レヴィの軽快なソロと続く名演です。
その他4曲は全て歌モノスタンダード。オープニングの哀愁漂うバラード”East Of The Sun”、ジミー・ヴァン・ヒューゼンのメランコリックな曲をミディアムテンポで料理した”Suddenly It’s Spring"、ガーシュウィン「ポーギー&ベス」の”Summertime”と続きますが、何と言っても最後の”S-H-I-N-E”が出色の出来です。この曲はフォード・ダブニーと言う良く知らない作曲家が書いた曲で、ルイ・アームストロングやエラ・フィッツジェラルドの歌唱バージョンをyoutubeで聴くこともできますが、正直それらを聴いても特に印象に残る曲ではありません。ところがひとたびゲッツの手にかかるや名曲に早変わり。ゲッツは冒頭に少しだけ原曲のメロディを吹き、そこからは超高速テンポでアドリブを繰り広げるのですが、即興で次から次へと魅力的なフレーズが泉のように湧き出してくる様は圧巻の一言。まさに天才としか言いようがないですね。その後を受けるコンテ・カンドリの元気いっぱいのトランペット→ルー・レヴィの力強いピアノソロも素晴らしく、そのままゲッツとカンドリのソロ交換からカンドリの切れ味鋭いトランペットで締めくくり。聴き終わった後に思わずブラボー!と拍手したくなる最高の演奏です!
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