本ブログでも常連のソニー・スティットですが、彼の最大の特徴はその多作ぶりです。以前の記事でも書きましたが、モダンジャズ全盛期の50年代後半から60年代前半にかけてスティットが残した作品はなんと50枚を超えます。同時代のマイルスやコルトレーンがメンバーを固定したレギュラーコンボで活動していたのに対し、スティットはレーベルもメンバーもバラバラでとにかく仕事があれば何でも受ける、みたいなスタンスだったようです。今日ご紹介する「ソニー・スティット・アット・ザ・DJラウンジ」は1961年6月にシカゴのマッキーズ・ディスク・ジョッキー・ラウンジと言うクラブで行われたライブの模様をアーゴ・レコードに吹き込んだもの。この頃のスティットはニューヨークを拠点にヴァーヴやルーストに多くの録音を残していますが、アーゴにもちょくちょくアルバムを吹き込んでおり、仕事の依頼があればシカゴに飛んで行ったようです。
メンバーですがスティット以外は全員誰やねん!と言いたくなるような顔ぶれです。まずテナーのジョン・ボード。ググってもほとんど情報が出てきませんでしたが、シカゴを拠点に活動していた黒人テナー奏者のようです。次いでオルガンのエドワード・バスター。彼も情報が少ないですが、一応他にジーン・アモンズとの共演作があります。ドラムのジョー・シェルトンは検索しても全くヒットしませんでしたが、おそらくシカゴの地元ミュージシャンでしょう。当時のスティットはジャズサックス奏者の中では一応大物だったはずですが、それにも関わらずシカゴの小さなクラブで無名の地元ジャズマン達と嬉々として演奏しているあたりにスティットの"呼ばれればどこにでも行きまっせ!"的な仕事のスタンスが伺えます。
さて、スティット以外は未知数のメンバーによる演奏ですが、これが悪くないです。特にスティットとフロントラインを組むジョン・ボードが良いですね。本作でのスティットは2曲を除いてアルトではなくテナーを吹いていますが、ボードとのテナーバトルはジーン・アモンズとの"ボス・テナーズ"と比べても決して劣ってはいないと思います。おそらく当時のアメリカには全米各地に彼のような実力者がいたのでしょうね。2人のテナーの聴き分けは比較的容易でいつもながら音数が多くフレーズをこねくり回すスティットに対し、ボードの方はより太い音色でストレートに吹く感じです。
全6曲。スティットのオリジナルが3曲、スタンダードが3曲と言う構成です。オリジナル曲の方はいかにもスティットらしいバップorブルースですがどの曲もオルガンが入っているのでソウルジャズの空気も濃厚に感じられます。オープニングの"McKie's"はクラブの名前を冠したシンプルなブルース、4曲目”Jay Tee”は出だしがパーカーの"Steeplechase"に似ているバップナンバーで後半に白熱のテナーバトルが繰り広げられます。ラストの”Free Chicken”はアップテンポのノリノリの演奏でジャズと言うよりR&Bですね。
スタンダード曲の方は2曲目”It All Depends On You"はフランク・シナトラが好んで取り上げた歌モノで、この曲ではスティットがアルトを吹きます。軽快なミディアムスインガーでスティットはもちろんのことボードのテナーもよく歌います。3曲目”Blue Moon”はエルヴィスも歌ったロジャース&ハートの定番スタンダードですが、オルガンが入っているのでソウルフルな雰囲気です。5曲目"I'm In The Mood For Love"は後にジェイムズ・ムーディの美しいテナーソロを基に”Moody’s Mood For Love"と言う別のスタンダード曲になりました。ここではスティットとボードがムーディとはまた異なるアプローチでバラードを料理しています。以上、スティットは良くも悪くもいつもながらのプレイですが無名のジョン・ボードやエドワード・バスターの健闘が光る1枚です。
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