本日はソニー・スティットとオスカー・ピーターソンと言うヴァーヴ・レコードのスタープレイヤー同士の共演盤をご紹介します。スティットについては本ブログでも何度も取り上げている通り、50年代から60年代にかけて驚異的なペースでリーダー作を発表しており、うちヴァーヴ・レコードにも10枚を超える作品を残しています。ただ、それを上回るペースで活動していたのがオスカー・ピーターソン。50年代から60年代にかけてはヴァーヴの専属で同レーベルに吹き込んだリーダー作は何と50枚(!)近く。さらに、同レーベルのハウスピアニストとしてレスター・ヤング、ロイ・エルドリッジ、ハリー・エディソン、エラ・フィッツジェラルド、ルイ・アームストロング、アニタ・オデイ、ベン・ウェブスター、コールマン・ホーキンス、バディ・デフランコ、スタン・ゲッツら大物たちの作品にピアニストとして参加しています。
となるとスティットとピーターソン・トリオの共演作がない方がむしろ不自然と言うもの。最初に共演したのは1957年7月のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルで、この時はロイ・エルドリッジやドラムのジョー・ジョーンズ(フィリーではなくパパの方)も一緒に演奏しています。同年10月には再びエルドリッジ、白人ドラマーのスタン・リーヴィも加えた「オンリー・ザ・ブルース」を発表します。なお、この時のトリオはピーターソン、レイ・ブラウン(ベース)、ハーブ・エリス(ギター)から成るトリオでした。その後、1959年にハーブ・エリスの代わりにエド・シグペン(ドラム)が加入。同年5月18日に「フランク・シナトラの肖像」で新生トリオのスタートを切りますが、その同日に録音されたのが本作です。時間的にどっちが先だったのかまではわかりませんが、アルバム1枚分の収録を終えた後に、もう1枚レコーディングするわけですから、当時のピーターソン・トリオがいかに心身ともに充実していたのかがわかります。
全8曲。スタンダード、ビバップ、スイング、自作曲が程よくブレンドされた構成です。演奏についてはあえて多くを語るまでもないですね。音数の多い独特のテロテロフレーズで吹きまくるスティットに、抜群のテクニックとドライブ感で弾きまくるピーターソン。この2人の組み合わせで退屈な演奏になるはずがありません。特に素晴らしいのがオープニングトラックの"I Can't Give You Anything But Love"。ジミー・マクヒュー作の魅力的なスタンダード曲をスティットが歌心たっぷりにアルトで歌い上げ、ピーターソン→レイ・ブラウンのソロが続きます。2曲目のチャーリー・パーカー”Au Privave"も素晴らしいです。ノリノリで吹きまくるスティットも最高ですが、驚異的な速弾きでそれに応えるピーターソンが圧巻です。パーカーの曲は他にも5曲目”Scrapple From The Apple”もありますが、こちらも同じようなハードドライビングな演奏。スティットは後年に「スティット・プレイズ・バード」でも両曲を取り上げていますが、そこでのジョン・ルイスの演奏と比べるとピーターソンのテクニックがいかに凄いかがわかります。他では定番スタンダード"I'll Remember April"もスティット→ピーターソンと華麗なソロをリレーします。
もちろん全てノリ一辺倒と言う訳ではなく”The Gypsy”ではロマンチックなバラードをムードたっぷりに料理。後半3曲ではスティットは楽器をテナーに持ち替え、ややブルージーに迫ります。6曲目"Moten Swing"と8曲目"Easy Does It"はどちらもベイシー楽団のレパートリーで、これらの曲ではピーターソンも派手な速弾きは見せず、スティットのブルージーなテナーをうまく引き立てます。唯一のオリジナルである7曲目”Blues For Pres, Sweets, Ben And All The Other Funky Ones”はタイトルの通りPres=レスター・ヤング、Sweets=ハリー・エディソン、Ben=ベン・ウェブスターとスティットが偉大な先人達に敬意を表したブルースで、スティットはもちろんピーターソンもブルースフィーリングたっぷりのソロを聴かせます。
なお、CDにはボーナストラックとして"I Didn't Know What Time It Was""I Remember You""I Know That You Know"とスタンダードが3曲収録されていますが、こちらは1957年に録音されたもので、上述の「オンリー・ザ・ブルース」セッションの余り曲。なのでドラムはエド・シグペンではなくスタン・リーヴィで、さらにギターのハーブ・エリスが加わっています。内容は正直言って可もなく不可もなくといったところで、オリジナルLPの8曲だけ聴けば良いかもしれません。
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