先日マイルス・デイヴィス「ディグ」のところでビバップからハードバップへの移り変わりについて書きましたが、マイルスやアート・ブレイキー、ホレス・シルヴァーと並んでソニー・ロリンズもハードバップ誕生に寄与したことは間違いのないところです。1949年に19歳でレコーディング・デビューしたロリンズですが、その後マイルスの「ディグ」や「バグス・グルーヴ」等ハードバップ黎明期の代表的セッションにサイドマンとして参加します。自身のリーダー作としては1953年に発表したプレスティッジ盤「ソニー・ロリンズ・ウィズ・ザ・モダン・ジャズ・カルテット」はまだビバップ色が強く、収録曲も2~3分程度だったのに対し、翌1954年に同じくプレスティッジに吹き込んだ本作「ムーヴィング・アウト」は全曲4分以上、各人のアドリブも格段に充実しておりまさに”ハードバップ”と呼んで良い内容です。(まあ、「ディグ」のところでも述べたようにビバップとハードバップの区別は多分に感覚的なものではあるのですが・・・)
メンバーはセッション毎に分かれており、1曲目から4曲目が1954年8月18日のセッションでロリンズ(テナー)、ケニー・ドーハム(トランペット)、エルモ・ホープ(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、アート・ブレイキー(ドラム)から成るクインテット。5曲目の1曲のみが同年10月25日のセッションでセロニアス・モンク(ピアノ)、トミー・ポッター(ベース)、アート・テイラー(ドラム)から成るカルテットです。後者は「セロニアス・モンク・アンド・ソニー・ロリンズ」と言う別のアルバムのために録音されたセッションからなぜか1曲だけ切り離されたものです。(この当時のプレステティッジではよくこのような継ぎはぎが行われています)
アルバムはまずタイトルトラックの"Moving Out"で始まります。これぞハードバップ!と言いたくなる力強いバップチューンで、ロリンズ→ドーハム→エルモ・ホープの順でドライブ感溢れるソロをリレーします。続く"Swingin' For Bumsy"も同じような曲調ですね。ロリンズのパワフルなテナーは期待通りですが、ケニー・ドーハムが意外とブリリアントなトランペットを聴かせてくれます。一般的には”いぶし銀”的なイメージの強いドーハムですが、録音時点ではギリギリ20代(29歳11ヶ月)。まだまだ血気盛んだったのでしょう。個人的に好きなピアニストであるエルモ・ホープの溌剌としたピアノソロも素晴らしいですね。
3曲目"Silk 'N' Satin"は一転してロマンチックなバラード。まるで歌モノスタンダードのような美しいメロディを持った曲でロリンズの作曲センスが光ります。この曲はドーハムは伴奏のみでロリンズのダンディズム溢れるバラードプレイが全面的にフィーチャーされます。4曲目”Solid"は後にグラント・グリーンらもカバーしたファンキーなバップ曲。何かの曲に似ていると思うのですが思い出せません。これもロリンズ→ドーハム→エルモの順で力強いソロを取ります。ラストはピアノがセロニアス・モンクに代わりスタンダードのバラード"More Than You Know"を演奏します。モンクと言えば個性的な演奏が持ち味で聴く方も身構えますが、意外とオーソドックスな演奏で拍子抜けします。前半のロリンズのソロの伴奏のあたりはモンクらしい音数の少ない独特のピアノですが、自身のソロの出番になるとトツトツとした弾き方ながらも普通にメロディを弾いています。実はこの曲と同じセッションの「セロニアス・モンク・アンド・ソニー・ロリンズ」でも”The Way You Look Tonight”ではメロディアスなピアノを弾いており、スタンダード曲だと意外と普通なのかも?ロリンズは翌年に「ワーク・タイム」、続く1956年には「ソニー・ロリンズ・プラス4」「テナー・マッドネス」そして「サキソフォン・コロッサス」と歴史に残る名盤を立て続けに発表。黄金期を迎えます。
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