前回のマンガ大賞2009については、当時やたらと忙しかったのでここで触れられませんでしたが(ちなみに2008の時に書いたエントリ→■)、大賞を受賞した「ちはやふる」はオレとしても物凄く納得の行く受賞でした……オレが読み始めたのは二巻が発売されるちょっと前くらいだったと思うんですが、競技かるた(百人一首)という非常に地味なイメージの題材にも関わらず、物凄くアツくてスピーディで、何より”カッコいい”と思わせる作者さんの技量はとんでもないなと感心しきりだった記憶があります
(この作者さんが、何年か前に「スラムダンク」をトレースしていた問題で一時は漫画界を追放されてしまっていた過去があるというのを後で知りましたが、想像を絶する苦労があったでしょうに、よくもまあこんな凄い作品で復帰してくれたものだと感謝の気持ちで一杯です)
惜しくも大賞を獲得出来なかった二位以下の作品についても、東村アキコの「ママはテンパリスト」だけはオレも未読だったんですが、これらのどの作品が大賞を受賞してたとしても全然おかしくなかったと思います~
で、今年のノミネート作品が公式サイトにて発表されました(対象作品は2009年の間に単行本が発売された作品で、刊行数が8巻以内という条件です)
オレとしても是非推奨したい作品がランキングに結構入ってるので、ちょっと書かせてもらいます
●『アイアムアヒーロー』花沢健吾(三巻まで発売中)
ビッグコミックスピリッツ誌上で連載中の本作ですが、このマンガほど、連載をリアルタイムで読んでいて良かったとその幸運に感謝した作品も珍しいんじゃないでしょうか……なにせ途中でいきなり作品の方向性がガラリと変わって(安易なテコ入れとかではなくて全て作者の計算ずくで)しまって、見事に”天地がひっくり返る”ような思いを読者に与えることに成功しましたからねえ
例えネタバレをされていたとしても(コミックスから読み始めたとしても)、この衝撃は一読の価値があるのは間違いないと思いますし、今後の展開がどうなっていくのかサッパリ解らないという意味ではまだまだ新たな楽しみがこの先に待ってそうなのでオススメです
休刊したヤングサンデーから現在はゲッサン誌上に連載が移行している本作ですが、自身や実際の漫画界をモデルにしつつ独自のマンガ創作論を熱血口調で語りきっていた「燃えよペン」「吠えろペン」のシリーズの後継作として、島本和彦が漫画家になる前の時代(80年代)を題材にしている作品です
作者の学生時代の漫画界のトピックと共に、現在ではアニメ界や漫画界の有名人となってる方々が実名で登場しているのも見どころなんですが、まだクリエイターを志していただけの存在だった頃の作者の根拠のない自信と挫折と焦りといった生々しい描写を、身悶えしながら読むのがこのマンガの正しい読み方なのではないでしょうかw
●『宇宙兄弟』小山宙哉(八巻まで発売中)
モーニング誌上で連載中で前回のマンガ大賞でもノミネートされていた本作ですが、選考規則からすると今回がノミネートされる最終期限になっちゃうのかな……作者さんは30歳を過ぎたくらいだそうで、まだ若手といっていいんだと思いますがとにかくこの安定感が凄いですね
先に夢を叶えた弟の後を追って、ちょっと抜けてるようでいて不思議な魅力を持っている兄が宇宙飛行士を目指す物語としては、大体折り返し地点に差し掛かったくらいなのかな?……今よりもう少し未来を舞台にしているとはいえ、相変わらず命の危険が常につきまとう過酷な”宇宙”を目指す人たちのヒューマンドラマがオススメです
●『娚の一生』西炯子(二巻まで発売中)
月刊flowersに連載しているそうですが、こちらは作品名も作者さんも完全に初耳ですね……機会があったら読んでみたいと思います
●『海月姫』東村アキコ(三巻まで発売中)
Kiss誌上に連載されているそうで、オレの場合は「ひまわりっ」があまりにも面白かった流れで近所のレンタル屋で見かけた本作を借りてハマッたんですが、作者の東村アキコは一昨年の「ひまわりっ」、昨年の「ママはテンパリスト」、そして今年の「海月姫」と三年連続でノミネートされてるんですな……いやはや、この勢いは作者さんのセンスがまさに時代と見事に合致しているってことなんですかねえ
中身は昔ながらの少女マンガのパターンに、腐女子やらオタクやら女装男子やらのキャラクター要素を融合させてる展開なので、ちょっと取っつきにくい男性読者がいるかもしれないなあという危惧がちょっとだけあるかな…
…ちなみに恥ずかしながら本作を読むまで、海月をくらげと読むのだとは思いもしてなくて、”かいげつひめ”と読みながら一巻をレンタルしていたことは秘密ですw
●『高校球児 ザワさん』三島衛里子(三巻まで発売中)
ビッグコミックスピリッツ誌上で連載中の本作ですが、毎回十ページにも満たない短さと、野球マンガにも関わらず特に試合や練習の描写が中心というわけでもないばかりか、ストーリーやオチといった要素すら存在しない回も珍しくない~というのが面白い特徴です
なんと表現したらいいのか……とある高校の硬式野球部にマネージャーやスコアラーといった立場ではなくて、選手として正式に在籍している一人の女子部員を視点の中心に据えた短編集といったカンジでしょうか(ザワさんを本作の主人公と表現するのはちょっと違う気もします)
最近、作者さんがあだち充と対談をしていましたが、あのあだち作品の”空気感”のみに特化してる~といった風でもあるので、セリフや目に見える情報に頼らない感情の機微みたいなのを読み取るのが好きな方には非常にオススメです
●『テルマエ・ロマエ』ヤマザキマリ(一巻が発売中)
コミックビーム誌上で不定期に連載中だそうですが、こちらもオレは全く知りません……でも軽く調べてみると、”古代ローマで公衆浴場を専門に設計している建築技師が、現代の日本にタイムスリップしてきて日本の銭湯に衝撃を受ける~”という、なんだかギャグなのかシリアスなのか意味不明すぎる設定wが非常に興味をそそられるので機会があったら読んでみたいと思います
週刊少年ジャンプ誌上で連載中の本作ですが、「デスノート」のコンビの新作ということで単行本を最初から買ってます
漫画家を志す二人の若者による立身出世物語なんですが、劇中に登場するのは実際の「少年ジャンプ」に限りなく近い雑誌とその編集部を舞台にしているので、漫画家や編集者の苦労といった裏事情にも興味があるマンガ好きには見逃せない作品です
基本的には主人公たちの成長要素という少年マンガらしさがメインではあるんですが、編集部において如何にしてジャンプという業界No.1雑誌が日々創られているのかという内幕をこれでもかと大暴露している部分と、漫画家の現場から見たクリエイター論の生々しさから目が離せません
●『虫と歌 市川春子短編集』市川春子
月刊アフタヌーン誌上に掲載されていた四季賞の大賞を受賞した作品や、その後の読切短編を集めた短篇集のようです(オレは雑誌の方は読んでますが単行本は持っていません)
マンガという表現媒体に対して、如何にして自由に発想を広げるかという挑戦を続けてるイメージの強いアフタヌーンにおいて、そういった事情を踏まえた多くの新人たちの中でもさらに群を抜いて先鋭的な表現を目指している感があるといった印象がこの作者さんにはありますね
イブニング誌上で連載中の本作ですが、いやー、これはオレみたいな非モテおっさん読者にとっては読んでて非常にキツいマンガです(汗)……でもどうしても目が離せないんです
ハッキリ言って、オレみたいなのが語れる要素がこの作品にはありません……何を書いても愚痴みたいな表現にしかなりようがないからです(苦笑)
でもきっとモテや非モテに関わらず、男と女という存在である限り、万人に通用する心理描写がこの作品には満載なんだと思いますのでオススメしたいです(…ただもし読者側の心が何らかの事情によりヘコみ中だったりすると、マジでそのままどん底にまで突き落とされる危険性が高い~~それくらい破壊力のある作品だ~~っていうことだけは忠告しておきますw)
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さて、以上がマンガ大賞2010へとノミネートされた十作品です
個人的な心情としては、今回でラストチャンスということもありますし、対象読者として老若男女の万人向けといっていい一番の作品は「宇宙兄弟」ですかねえ…
で、それはそれでいいとして、オレとしては絶対にノミネートされるだろうなと思ってた作品が2009年に発売されてまして、おそらく選に漏れた候補の中に間違いなくリストアップされていると思うんですが、ここで挙げさせてもらいます
漫画アクション誌上にて連載されていたんだそうですが、いやー、もうこの作品を評する言葉がどうしても見つからなくて、今さらながら自分の語彙の少なさと表現力の貧弱さに落ち込むばかりなんですが…orz
泣いた~とか、涙が止まらなかった~なんていう表現では生ぬるくて、読んでて本気で嗚咽をあげてしまい、一人っきりの部屋で読んでたのが良かったのやら悪かったのやら大変複雑な心境に陥ったということだけ書いておきます…
村上たかしといえば、一昔前のヤングジャンプでの「ナマケモノが見てた」といったギャグ物のイメージしかオレは持っていなかったんですが、実際、作者さんにとっては本作が初のストーリー物だったんだそうです(詳しくは作者あとがきを参照してください)
ここでこの作品のタイトルに初めて触れた~といった人のためにも内容については一切触れませんが、マンガ大賞云々とは関係なく、是非とも一読をオススメしたい作品です!
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…久しぶりに「星守る犬」のことに思いを馳せてなんだかしんみりとしてしまったので、マンガ大賞は別として、オレが去年単行本を買って良かったと思った作品を軽く紹介して終りとしたいと思います~
「エマ」の作者さんによる新作です……すっかりおっさんになったオレとしては、今さら年上好き~とか言ってると非常におかしな事になってしまうんですが(苦笑)、これはマザコンとはちょっと違う、男の”甘え”願望をひたすらくすぐられる素晴らしいこだわりに満ちた作品だと、勝手に断言してしまいますw
お台場に建造された原子力発電所が大地震によって崩壊し、東京が放射能にまみれた死の都市と化している未来を舞台にしたアクション物です……正直、SF作品と呼ぶにはあまりにも荒唐無稽を絵に描いたようなムチャクチャなマンガなんですが、とにかく満ち溢れている怒涛のエネルギーに押し切られてしまいます
まだ新人なのにも関わらず、たった一人で(アシスタント無しで)週刊連載をこなしている作者自身のパワーを体感できること請け合いです
路上格闘をとことん突き詰めた「ホーリーランド」の作者による新作です
「バトルロワイヤル」を髣髴とさせる設定のサバイバルアクションですが、前作よりも遥かにエグい描写が満載で、間違いなく読者を選ぶ作品だと思います(汗)……でも面白い!
溶接って面白い!職人って凄い!奥さんかわいい!w
開始当初は、「寄生獣」のパクリ?…みたいな感覚で読んでたんですが、二巻の後半あたりから全く先が予想できない展開になって来ました
クリエイター魂を刺激されまくりというか、”人を楽しませるモノづくり”のワクワク感みたいなのを補充させてもらってます……マジですw
手塚治虫という神様に真っ向勝負を挑んで、見事に一本勝ちを勝ち取ったというカンジでしたね
元の「鉄腕アトム」から大きく逸脱したかのようにみせて、最後には見事に原点に着地させた手腕にはため息が出るほどでした
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以上です!ここまで長々とお付き合い、ありがとうございました!!
マンガ大賞ノミネート作品はもちろん、もし機会があればオレが挙げてみた作品も読んでみて下さいヽ(=´▽`=)ノ