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ポジティブな私 ポジ人

命がけの食事

散歩の帰り、時折小さな精進川を欄干から見下ろす。30年ほど前と比べると、川幅が随分と狭くなった。

その細い緩やかに蛇行した流れに、時々白いゴミ袋がいくつか留まっていることがある。川幅が狭いので数個のゴミ袋が流れを堰き止めているように見えるけれど、川は思ったより深さがあるようで、水の流れはとどまることなく流れている。
欄干に差し掛かるたび眺め、時折ゴミ袋が無くなっているところを見ると、ご近所の奇特な方が、ゴミ袋を取り除いている様子。頭が下がる思いだ。

先日また欄干から精進川を見下ろすと、ゴミ袋の滞っていた同じ場所に、その日は緑色のボール状のものが大量にたまっていた。何だ?あれは。じっくり見てみると、それは果肉の付いたオニグルミの実だった。川沿いに生えたオニグルミの木から落ちた実が川の流れに乗り、ここに溜まったのだと思われた。

最近カラスが路上に居ることが多い。何をしているのか見てみると、緑色の果肉付きのクルミを転がしている。
果肉が付いていなければ、容易に車のタイヤがクルミの固い殻をとらえて、踏み潰して通り過ぎるのだろうが、果肉付きだと弾力があるので、なかなか思うように車のタイヤがクルミをとらえられないらしい。道路脇でカラスが緑のクルミをくちばしで転がしながら「おかしいなあ。こんなはずじゃないんだがなあ」と困惑している様な感じが伝わった。

それでもたまに上手くいくらしく、路上に頭を横に倒し、くちばしでこそげ取るように食べる様子が見られる。
信号で途切れた車の流れの狭間をかいくぐって食べては、車が流れ出すとピョンピョンと軽く跳んで身を交わす。カラスの食事は命がけである。

2ヶ月ほど前、夫と買い物に行った帰りのこと。
「猫かなぁ」と夫が言う。何の事かと夫の視線の先を見ると、道路の中央あたり。恐ろしいことに、そこにはカラスの亡骸があった。何台もの車に轢かれ続けたらしく、翼の形はわかるものの完全に平らだ。無惨な姿であった。

そんな光景を目にし、ふと「カロ」という名の猫の物語を思い出した。学校で国語の授業で習った物語だ。
物語のあらすじは、カロという名の飼い猫が不幸にも路上で轢かれ、その亡骸が交通量の多い道路上で、原形がわからないほどペラペラになるまでを傍観する男の物語だ。
作者の名前も覚えていない。中学の時の教科書だったように感じていたが、ネット上で調べてみると、高校2年の教科書に載っているとどなたかが書いていた。
梅崎春生の作品「輪唱」の中の一遍「猫の話」ということだった。
私と同世代の方の中には、ピンと来る方もいらっしゃるかも知れない。

子供の頃から、日常ではよくある動物の輪禍による死ではあるけれど、ペラペラの皮のかけらになるまでの物語は、悲しく虚しい強烈な記憶として残った。
今だったら、もっと文学として深く味わうことができるかも知れない。その傍観する男の微妙な心情が読みどころだろうか。

この話はやはり多くの人に強烈な記憶として残ったらしく、2022年中公文庫から「カロや 愛猫作品集」として新たに編まれた本が出ていた。

カロと同じ目に遭遇してしまった哀れなカラス。その後も、多くのカラスは文字通り危ない橋を渡りながら、クルミを食べている。

日曜日、ジョギングのため外へ出るといつになく人通りが多く、警察官も配備されていた。札幌マラソン開催の日だった事を思い出した。
午前8時すぎ、いつものコースを走った。
そこはマラソンのコースに指定されていたが、開催までにまだ時間があるため、立ち入りが許されていた様だ。
コースの両脇には所々テントなども大会のために設営されていて、多くの運営スタッフが打ち合わせなどをして慌ただしい様子だった。

コース上にクルミの割れた果肉があった。コース上のゴミ。取り除かなくていいのかな…とちらりと思った。
クルミは緑の果肉のみが割れて散らばり、本体の固いクルミの殻が無い。恐らくこれは、一枚上手の利口なカラスが、上空から実を落とし、ここで果肉を取り除き、殻の固い中身は路上の車に踏ませようと、交通量の多い道路へ向かったのではと想像された。

自然界の食物の確保はかように大変であることを、カラスの行動を通して痛感する。
それにしてもオニグルミ、カラスが命を懸けて食べるほどの魅惑の味。罪深い木の実であることよ。






コメント一覧

ポジ人
@donmac-life ドンマックさんこんにちは
カロの結末は手帳くらいの皮一枚になって、それを見た飼い主が、そこで初めて慟哭するのではなかったかと記憶していますが…間違っていたらごめんなさい
donmac-life
こんにちは。
カラスっていつも悪役だけど頑張って知恵を出して一生懸命に生きてるんですねぇ。近所のカラスとも目が合うけど、今度は優しく見てあげよう。
カロが気になります。そんな話が教科書に載っていたなんて、結末は如何に?
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