金曜日の昼下がり、地下鉄の中は乗客もまばらだった。
私は連結部近くの、三人がけの席の端に腰掛けていた。
私の向かいの席は、お年寄りや障害を持った方等の「専用席」となっている。
何も考えずボーっとしながら何駅か過ぎて、電車が停まると、親子が乗ってきた。
あいにく、親子二人が並んで座れるシートの空きは無かった。
母親は、私の眼の前の専用席に女の子を座らせると、自分は、私の隣に腰掛けた。親子は通路を挟んで向かい合わせに座る形となった。
女の子を見ると、黒髪だが洋風の顔立ちの可愛い女の子で、ハーフ(現在はダブルと表現するのでしょうか)なのかな?と思った。小学生の低学年位だろうか。
せっかく親子でお出かけなのに、並んで座れないのは悲しいと思い、母親が私の隣に座るやいなや、私は立ち上がろうとした。すると、私の意向を察した母親が「ノー、ノー」と言いながら、立ち上がりかけた私を座らせようと、私の肩と腕を両手でやんわりと押さえた。
言葉が英語だったので、初めてお母さんが外国人だと気付いた。顔を見ずに黒髪だったので、すっかり日本人だと思い込んでいた。
インド系もしくはアジア圏の方で、若く美しく、優しい笑顔だった。
私が降りる駅はまもなくだった。立っていても何の苦にもならない。
私は母親に笑顔で“It's ok”と答えたが、私の腕を押さえた手は、そのままだった。
続けて言うべきは「次で降りますから」と言う言葉だが、出てきた言葉が、「next…next…」これだけ。頭に浮かんだ「次」を英語に変換しただけ。
毎日Duolingoやってるのにー。
主語の“I…”が出てこない。
察しの良い母親は、私が言い淀んでいると、優しく押さえていた手をそっとよけてくれた。
お互いに笑顔で意思疎通。
立ち上がってドアの横に立った。次の駅はまだ降りる駅ではなかったので、ドアが開いてもやり過ごし、その次の駅で降りたのだった。
とっさの一言が出なかった。stationすら出てこなかった。Duolingoを初めて600日を超えているのに。毎日アプリで学んでいても、実践の会話となると焦りもあるのか、「頭が真っ白に」なってしまう。
「英会話」したかったのに、「ええ(良い)会話」したかったのに、「ええっ?!」て驚いて会話もできなかった。
ちょっと、言葉遊び(笑)。
やっぱり、言葉はツールとして日頃会話で使わないと活かせないなあと、身に沁みて感じた出来事だった。
でも、“It's ok”だけでもすんなり出たんだから、オーケーだということにしよう。
「少年老い易く学成り難し」
このことわざ通り、ちゃんと学ばずに高齢者になってしまった。ものの見事に、先人の言う通りに。
もとい、
「老年忘れ易く学成り難し」
それでも、
「継続は力なり」
これを信じて続けるのみだ。
「英語が話せるおばあさん」を目指して!