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東京ドーム周辺で開催「ミサイル避難訓練」の隠された狙い
政府はなぜ威力や恐怖を伝えないのか 弁護士 大前治
北朝鮮の弾道ミサイル発射を想定した避難訓練が各地で実施されている。頭を抱えてしゃがみこむ訓練の様子も報道され話題となった。
1月22日には東京ドーム周辺でも避難訓練が行われる(東京都「弾道ミサイルを想定した住民避難訓練の実施について」)。
この訓練に意味はあるのか。無意味というだけでなく国民を統制する危険な動きではないだろうか。思考停止にならずに考えてみよう。
■ 「近くで爆発が起きたらテレビを見よう」?
内閣府が作成した冊子「武力攻撃やテロなどから身を守るために」(2017年10月改訂版)には、身の回りで爆発が起きたときの対応法を次のように説いている。
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とっさに姿勢を低くする、テーブルの下に隠れる、警察や消防の指示に従って落ち着いて行動する、テレビやラジオで行政機関からの情報収集に努める、というのが内閣官房の指示である。
遠くではなく「身の回り」での爆発が起きたとき、悠長にテレビを見ていられるだろうか。
文章だけでなく表紙にも挿絵にも緊張感がない冊子からは、爆発の威力や怖さが伝わってこない。
■ 「核爆発が起きたら、目で見ないでね」?
この冊子には核爆発への対処法も書かれている。閃光や火球が発生した場合には目で見ないように、口と鼻をハンカチで覆って爆発地点から遠く離れましょう、と指示している。
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あまりに非現実的な対処法に驚く。
核ミサイルは落下場所が予告されない。瞬時に爆発して閃光を発し、大量の熱線・爆風・放射線によって都市を破壊する。
「あっ、核爆発だ。見ないようにしよう」と思う暇などない。政府は国民に不可能なことを指示している。
本来、災害対策の前に、火災・洪水・地震・津波など各種災害の威力や被害実態を周知することが重要である。それによって対策の必要性が理解され、日頃の備えを促すことができるからである。
それは弾道ミサイルや核攻撃への対策でも同じはずである。
一瞬で都市を火の海にする核爆発の威力や放射線の悪影響を国民に理解させ、中途半端な対策では安全を守れないことを国民に知らせなければならない。
現状のミサイル訓練は、それとは真逆である。
ミサイル技術の専門家による破壊力のシミュレーションもなく、建築の専門家による対ミサイル防護建造物の検討もない。ただ逃げましょう、避けましょうと言っているだけである。
これでは、迫りくる危険から国民の安全を守るために政府が本気を出しているとは評価できない。
イギリスの国際戦略研究所(IISS)は、東京が核攻撃を受けると瞬時に数十万人が死亡すると算出し、アメリカの研究機関の運営サイト「38North」には死者69万7千人、負傷者247万4千人の被害が生じるという予測が掲載されている。
こうした予測を、日本政府は何一つ公表していない。
■ なぜミサイル攻撃の実相を知らせないのか
国民にミサイルの威力を分からせるには、イラク戦争での米軍の空爆映像を見せればよい。
核攻撃の威力を分からせるには、広島・長崎の被害映像を示すとともに長期にわたる放射線被害を知らせればよい。
そうした被害を受ける危険が、安倍政権の外交施策のもとで生じているのだと、正々堂々と言えばよい。
なぜ政府は、ミサイル攻撃への危機感を煽るばかりで、いま迫っている具体的な被害像を示さないのか。理由を考えてみたい。
一瞬で大量の死傷者が生じるという被害予測を示したら、それに対応できる救急体制が整っていないことが明らかになり、市民の不安は増大するであろう。
ミサイル攻撃から身を守るのは容易ではないと分かったら、「北朝鮮を挑発するな、ミサイルを撃たせないため対話の努力をせよ」という政府批判が巻き起こるであろう。
政府の失政によって危機が生じたのだから、国家予算で防空シェルターを建設せよ、防護資材や防空施設を提供せよ、被害者には補償せよ、という批判も巻き起こるだろう。
核兵器への理解を広めるために放射線の危険を知らせることは、脱原発の世論を喚起したり、原発再稼働の政府方針への支障を生じたりするだろう。
核兵器の非人間性を知らせることは、アメリカを含むすべての国に核廃絶を求める世論を高めるとともに、国連で核兵器禁止条約に賛成しなかった安倍政権への疑問を強めるだろう。
このように、被害予測をリアルに国民へ知らせることは、政府にとって都合が悪いものであると分かる。
本当にミサイル危機が迫っていて、この方法で国民の生命を守れると考えるならば、安倍政権は避難訓練の有効性を客観的根拠や科学的データを示して国民に理解させるべきである。
それができないのであれば、避難訓練は国民を思考停止させるだけで、百害あって一利なしである。
こうしたなか、2017年10月に内閣が実施した「外交に関する世論調査」では、北朝鮮について関心があることとして「ミサイル問題」を挙げた人は83.0%と、前年より11.5ポイント増えている。
何となく不安で、漠然とした関心が高まっているが、対処法が分からない。そんな国民の思いに応えるだけの情勢分析や対処方法を示すのが日本政府の責務ではないだろうか。
「国難だ」といって選挙に利用するばかりの安倍政権に危うさを感じる。
■ 国民を怖がらせない防空訓練
日本政府は、過去にも似たことをした。
第二次世界大戦でアメリカに宣戦布告する前、空爆に対する訓練(防空訓練)の実施方法を説いた「宣伝要領」は次のようにいう。
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防空訓練が戦争への恐怖を生み出してしまっては逆効果である。18年前に起きた関東大震災のような大きい被害は生じないと安心させて訓練を実施するのが政府方針であった。疑問を抱かせないよう政府を信頼させることも重要方針として明記された。
政府の防空啓発ポスターも、空襲の恐怖を受け付けるより「落ち着け」と呼びかけている。
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こうした方針のもとで、爆弾は怖くない、空襲の火災は簡単に消火できる、といった安全神話が流布された。関東大震災に匹敵する東京大空襲で10万人が死亡したのは、この3年半後である。
日本政府による情報操作や避難政策が被害を拡大したことは、過去の記事(「空襲から絶対逃げるな」――トンデモ防空法が絶望的惨状をもたらした)で触れたとおりである。
■ 「自発的な行動」を指示する恐ろしさ
上記の「宣伝要領」には、もう一つ注目してほしい点がある。
国民に「自発的」な行動を求めている点である。人々の自由が制限された戦時体制下でも、防空活動は命令や強制ではなく「自発的」にするものとされたのである。
政府や軍部の指導に背くことはできない時代であった。「自発的」とは名ばかりで、政府方針を忖度して防空活動に従事する以外に選択肢はなかった。
それでも「自発的」であることに意味はある。強制とか拒否できるとかいう考えを排して、「国民は国家の一員として、当然に国家に協力するものである」という風潮の確立に資するからである。
自発的に行動するか否かは、法律の問題ではなく、精神や道徳の問題となる。これに反する者は異端者であり非国民とされる。戦時中の国民にとっては法の裁きよりも恐ろしい重圧となる。国民全体が参加する総力戦体制は、こうして可能になった。
現在の法律も「自発的」であることに重きを置く。武力攻撃に対する訓練や避難について定める「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」の第4条は、以下のように定めている。
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強制してはいけないと明記している点は、戦前戦中とは大きく異なる。
しかし、この法律に基づいて防空訓練に「自発的に」協力せよというキャンペーンが展開されると、「こんな訓練が役に立つのか」と疑問を述べることもできない空気が社会に充満しそうで怖い。
近時の避難訓練でも、「行政の指示に従うこと」が繰り返し強調されている。パニックや混乱防止の名目で、統制への従順さが試されている。
戦争協力を強制されるのは恐ろしい。しかし、もっと恐ろしいのは、強制されていないのに多くの国民が自発的に避難訓練に参加して一斉にしゃがみ込む姿である。
今なら間に合う。避難訓練への参加は拒否できるし、おかしいと思うことはおかしいと言える。
怖くない戦争が日常に入り込み、気付いたときには戦争が怖くても逃げられなくなった。それが過去の教訓である(過去記事を参照)。二度と同じ過ちを繰り返さないために、私たちは疑問をもつことを止めてはいけない。
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出版社: 合同出版
発行:2016-11-03
ISBN-10: 4772612823
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1970年京都市生まれ。大阪大学法学部卒業。鉄道会社勤務を経て2002年に弁護士登録(大阪弁護士会)。自衛隊イラク派遣違憲訴訟、大阪市思想調査アンケート国賠訴訟の弁護団に参加。2015年6月より日本弁護士連合会立法対策センター事務局次長、2016年6月より青年法律家協会大阪支部議長。大阪空襲訴訟では戦時中の国策を解明。取材調査や国立公文書館での資料収集を行う。著書に『検証 防空法』(共著)、 『大阪空襲訴訟は何を残したのか』(共著)、『逃げるな、火を消せ――戦時下 トンデモ 防空法』など。
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