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古賀茂明「佐川国税庁長官擁護でみえる官僚が握る安倍政権の生殺与奪権」

2018-02-04 | いろいろ

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古賀茂明「佐川国税庁長官擁護でみえる官僚が握る安倍政権の生殺与奪権」

 第2次安倍内閣が発足してから5年が経過した。内閣人事局ができて、官邸が官僚人事を握ったこともあり、安倍政権が完全に官僚を意のままに操り、官僚は安倍官邸の意向を「忖度」している……。

 これが多くのマスコミが報じる安倍政権下での政権と官僚の関係である。

 しかし、官僚生活を31年間経験した私の目にはそんなに単純な絵は見えない。そこには、はるかに複雑な力関係がある。官僚は忖度、政権は懐柔の姿勢を見せながら、それらが同時に強烈な脅し合いにもなっている。実は、安倍政権はかなり追い詰められているという見方さえできるのだ。

 官僚(といってもここで言うのはいわゆる国家公務員試験の1種試験に合格したいわゆる「キャリア官僚」のこと)の最大の関心事は北朝鮮問題でも働き方改革でもない。少子高齢化対策でも子育て支援でもない。ずばり言えば、天下りだ。自分の役所の天下りポストが維持できるのか、自らの退職後どんなポストに天下りできるのか。そこがすべての行動の原点になる。もちろん、それ以外にも関心事はあるが、天下り利権がどうなるかの方がはるかにプライオリティーが高い。

 彼らの頭の中は、「日本で一番優秀な俺たちが朝から夜中まで国のために働いてやってるのに、民間のできの悪い奴らよりも給料が安い。だから退官後に天下りで悠々自適の生活が保障されるのは当然のことだ」という考えで凝り固まっている。

 このような官僚たちの思考は、実は政治家も熟知しているし、中には官僚の理論を積極的に擁護する者さえいる。

■官僚利権擁護のシグナルを送る安倍政権

 官僚と政治家のこうした頭の中を前提にして、昨年夏以降バラバラに報じられているニュースを一つの流れとして理解することができる。

 その中で一番大きく報じられたのが商工中金不正融資スキャンダルとその後の民営化の議論だ。これは4大政府系金融機関の一つである商工中金が、危機対応融資という制度を悪用し、あろうことか業績の良い会社の業績を悪く見せかけ、超低利融資を行っていたという信じられないような事件だ。

 この問題を契機として、たびたび延期されていた商工中金の民営化を直ちに実行せよという議論が高まった。しかし、今年1月に出た経産省の有識者会議の結論は、「民営化の最終判断は4年後に先送り」という官僚寄りのものになった。もちろん、経産次官OBの安達健祐社長は更迭されることになり、後任はプリンスホテルの関根正裕常務執行役員となることが決まったが、経産省からの全ての天下りの廃止ということにはならなかった。最大の問題である天下り問題をスルーしたのだ。このため、社長は民間人に譲るものの、副社長またはその他の役員ポストが経産省に割り当てられる可能性が高い。これで4年後には、民営化はしない、あるいは判断をさらに先送りするという結論が出され、さらに、社長ポストも気づいてみたら経産省の次官OBが就いていたということになりそうである。

 実は4大政府系金融機関のうち、商工中金、日本政策金融公庫、国際協力銀行のトップが、第二次安倍政権で、民間人から財務省と経産省の次官級OBの天下りポストとして復活した。(残りの一つ日本政策投資銀行は引き続き民間人が社長を務めている)。小泉改革で天下りから民間登用に代わっていたのに、安倍首相はこれを官僚たちに大政奉還したのだ。その後、2016年に国際協力銀行のトップは再度民間人に戻ったので、財務省OBと民間人の交互登用が原則になるのかとも思われたが、17年12月25日には、政策金融公庫の総裁が元財務次官の細川興一氏から同じく元財務次官の田中一穂氏へと引き継がれ、財務省次官級OBの天下りポストとする路線がはっきりと示された。商工中金不祥事が燃え盛る中だったが、同じ政府系金融機関の日本政策金融公庫について、安倍首相は財務官僚の意に沿う人事を承認したのだ。ただし、残念ながら「忖度マスコミ」はこれをほとんど大きく報じなかった。

 さらに、ほぼ同時期の12月15日には、これまた官僚たちがほっと胸をなでおろすニュースがあった。

 文科省の前川前次官が退官させられる原因となった、同省の天下り不祥事事件を受けて行われていた、全省庁にわたる点検作業の結果が発表されたのだ。

 当初、「文科省の天下り規制違反摘発は加計学園問題で安倍政権に楯突いた文科省に対する報復だ」という批判があったため、菅義偉官房長官は、全省庁について厳しく点検すると宣言した。

 ご承知のとおり、今も毎年大量の官僚が退職し、ほとんどが天下りしている。本気で調査したら大変なことになるだろうと思っていたが、結果は、違反案件がたったの6件、関与したのは5府省庁だけ。あの財務省はたったの1件で厳重口頭注意のみ、経産省に至っては0件だった。明らかにお手盛りのずさんな調査を官邸が認めてしまったわけだ。

 この件も、新聞には多少載ったが、テレビではほとんど報道されないままスルーされた。

 さらに、時間は少し遡るが、官僚から見て非常に大きな人事があった。昨年夏の内閣改造に伴い、内閣人事局長が政治家の萩生田光一・前官房副長官から官僚出身の杉田和博官房副長官に交代したのだ。これもあまり報じられなかったが、実は、公務員改革の議論の中で最大のテーマとなった問題の一つである。それは官僚の人事の総元締めとして安倍内閣が創設した内閣人事局のトップを政治家にするのか官僚に委ねるのかという問題だ。官僚が握れば、官邸に対する官僚の擁護者となる可能性がある。安倍政権は当初政治家をここに置いた。それが、一転してそのポストを官僚に明け渡したのである。官僚から見れば、少なくとも理不尽な人事に一定の歯止めはかけられるのではないかという期待を抱かせるものである。

■官僚擁護が示す安倍総理の危機感

 官僚の人事といえば、今最大の関心を集めているのが、佐川宣寿国税庁長官の人事だ。財務省理財局長時代に森友学園問題について、最後まで、籠池泰典氏側との交渉の記録はない、あったものは廃棄した、だから何があったか知らない、わからないで貫き通した。このため、昨年夏に理財局長から国税庁長官(長官ポストは局長ポストよりも格が上で月額給与も10万弱高い)に昇進させた人事に対して野党や世論から強い批判を受けた。

 もちろん、安倍首相から見れば、佐川氏の木で鼻をくくったような答弁は自分を守るためのものだから、その行為に対して責任を問うのはとてもできないという気持ちになったのだろう。

 しかし、こういう場合、普通は、燃え盛る世論をなだめるために、佐川氏に将来の処遇(超優良天下りポストの約束)を阿吽の呼吸で伝えたうえで、退官または、少なくとも官房付での待機というような処遇をするものだ。しかし、今回は、よりによって国民から税金を徴収する役所のトップに据えたのである。大きな批判を招くことを覚悟したうえでの決断だ。

 ここまで紹介した諸々のニュースを総合的に見てみると、安倍政権は官僚の利権、とりわけ天下り利権に関しては非常に寛容だということに気づく。天下り調査のずさんさ、商工中金で天下りを禁止しなかったこと、政府系金融機関トップへの天下り復活などは、非常にはっきりとそれを示している。

 天下り以外でも、内閣人事局長ポストを官邸政治家から官僚に大政奉還したことも官僚に甘い政策だ。

 さらに、佐川長官人事は、極めつきの官僚擁護である。

 こうした一連の官僚への懐柔策とも見える政策を連発するのにはもちろんわけがある。それは、今、官僚、なかでも財務省と経産省の官僚に反乱を起こされたら政権の息の根が止まるということを官邸が懸念しているからである。

 例えば、森友学園問題について、財務省が本当のことをしゃべったら、安倍総理夫妻の関与が何らかの形で明らかになるのは避けられない。

 また、加計学園問題でも柳瀬唯夫経済産業審議官(ただの審議官ではなく次官級のポスト)が安倍総理秘書官当時、今治市職員らと官邸で会談したのに、国会答弁では最後まで否定したが、もし、柳瀬氏がその会談を認めるようなことがあれば、これまた官邸の関与が明らかになってしまう。

 さらに年末に明るみに出たPEZYコンピューティング社の助成金詐取事件でも閣僚や安倍総理周辺との関係が取りざたされていて、ここでも経産省の出方が事件解明の一つのカギとなっている。

 つまり、財務省と経産省の官僚は、安倍政権の生殺与奪の権を握っていると言っても良いのだ。

 官僚たちは、自分たちがそういう立場にいることは百も承知。

 表向きは最大限安倍政権の意向を忖度して「ポチ」ぶりを発揮するが、裏では、「協力しますから、我々の利権はよろしく」という意図を阿吽の呼吸で伝えている。もちろん、そこには、「いざとなったら政権を倒すこともできるんですよ」という脅しの意味も込められているのだ。安倍政権もそれがわかっているということを形で示すためにこれまでできることはかなりやってきたということではないだろうか。

 一方の安倍政権も、単に官僚にやられっぱなしというわけではない。そもそも天下りポストの維持は、安倍政権にとっては痛くもかゆくもない。マスコミさえ抑えて大騒ぎにしなければ自民党は誰も損しない、ノーコストなのである。そして、官僚たちに利権を守ってやるということをわかりやすく示すことには、「いうことを聞かなければ、本気でお前たちの利権潰しをするぞ」ということを見せつける効果もある。そして、文科省の事件のように、時として、それがブラフではないということを示す。

 そのあたり、相当緻密な計算を官邸は行っているはずだ。

■佐川国税庁官人事「適材適所」発言の危険度

 以上見てきた限りでは、政官の取引がうまく成立し、大きな問題も起きずに5年が経過したように見える。

 しかし、ここへ来て、非常に大きな問題が起きた。財務省と籠池泰典氏側との交渉記録そのものではないが、交渉についての財務省内での関係部局同士のやり取りがわかる記録が開示されたのである。財務省は、これをよりによって国会開会前の19日に公表した。官邸からは、直ちに、「官僚が反乱を起こそうとしている」という情報が流れたようだ。「報道ステーション」の後藤謙次コメンテーターもさっそくその情報拡散に協力していた。

 しかし、それは官邸が苦しくなると使う常とう手段だ。

 実態としては、地検の捜査も入り、財務省も安倍政権のことだけを考えている余裕はない。森友事件に関与しなかった官僚から見れば証拠隠滅の罪に問われるのはもちろん、あとで、あった資料をないと言った責任を問われるのはまっぴらごめんだろう。文科省の「怪文書事件」の記憶もまだ生々しい。検察に押収された資料をないと言って嘘をつくことは無理だという判断をする官僚の声を無視できなくなったのかもしれない。

 これは、ある意味、官邸と財務省の呼吸に乱れが生じていることを示している。
 
 官邸としては、佐川長官の人事を簡単に撤回するわけにはいかない。そんなことをしたら財務省の逆鱗に触れる可能性がある。したがって、安倍総理も菅官房長官も、とりあえず、この人事を「適材適所」と強弁せざるを得なかった。

 しかし、これは大変な判断ミスだった可能性がある。時はまさに確定申告時期と重なる。国税当局に対する中小企業や庶民の風当たりが一番強まる時だ。書類を隠し、廃棄したことが評価されて昇進した国税のトップが、納税者に細かい記録の提出を求めることがいかにわかりやすい批判材料となるのか、それを官邸は過小評価した可能性がある。

 昨年6月に文科省の「総理のご意向」文書を「怪文書」と切って捨てたことを会見で何度も追及されて、菅官房長官が醜態をさらし、支持率低下の大きな原因になった局面に非常によく似ている。

 官僚を守らざるを得ない安倍政権が、このまま「適材適所」で正面突破を図るのか、どこかで折れて佐川長官の更迭に動くのか。その時財務省とどう折り合うのか。

 ここでカギを握るのが、「望月砲」の炸裂があるかどうかだ。昨年6月に「忖度記者クラブ」のタブーを破って菅長官を追い詰めた東京新聞の望月衣塑子記者やこれに呼応する骨のある記者たちが、今回も「適材適所」についてしつこく追及し、それをテレビが大きく報じれば、国民の怒りが一気に爆発する可能性は十分にある。

 その時、安倍政権が財務省との関係を考えながらどう対応するのか、しばらくは目が離せない状況が続くのではないだろうか。
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