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公文書管理の専門家が問う「森友文書改ざんの根本にある問題」

2018-03-19 | いろいろ

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公文書管理の専門家が問う「森友文書改ざんの根本にある問題」

「異例」「特殊」で片付けてはいけない
 三木 由希子 NPO法人情報公開クリアリングハウス理事長

 なぜここまでの改ざんが行われたのか…

財務省が、森友学園との契約に関連する決裁文書の「書き換え」をしていたことを認め、調査結果を3月12日発表した。

書き換えていたのは、森友学園との契約に際しての決議書(決裁文書)の一部である調書(契約の経緯等を説明したもの)と、書き換えた内容と不整合にならないよう関連する決裁文書の調書だ。

調査結果は全部で80ページあり、昨年2月下旬から4月にかけて書き換えた決裁文書14件の特定と、どの部分を書き換えていたのかがわかる書き換え前と後の対照表が発表された。

調査は職員からの聞き取り、職場のパソコンに残っていたデータの精査、大阪地検の保管する文書の写しの提供を受けるなどで実施し、内容の異なる複数文書を確認したという(時事通信「価格交渉の記述削除=200項目超で改ざん-森友文書問題」2018年3月12日)。

また、改ざん前の決裁文書が存在する可能性は、5日の段階で国土交通省から官邸に報告があり、菅官房長官は6日に報告を受け、安倍首相も承知していたと報じられた(朝日新聞「改ざんの可能性、事前把握認める 菅氏「首相も承知」」2018年3月15日)。

その一方で、8日の時点で財務省は近畿財務局にあるとするコピーを国会に出したが、それは改ざん後の文書だった。

また、安倍首相は改ざんの報告を受けたのは11日と14日の参議院予算委員会で答弁し、改ざん文書の把握の時系列の情報も、刻々と変わっている。

なぜ「改ざん」が行われたのかは、調査結果では示されていない。

結果公表後に、麻生財務大臣が理財局の一部の職員が行ったことと強調し、「佐川の国会答弁に合わせて書き換えたのが事実だ」「最終責任者は(当時)の理財局長の佐川だ」と話したと報じられている(毎日新聞「<森友文書改ざん>麻生氏「最終責任者は当時の佐川局長」」2018年3月12日)。

安倍首相は12日午後の会見で、「なぜこんなことが起きたのか、全容を解明するため調査を進めていく」と述べており、今後、さらに調査することが表明されている。

両方の発言を踏まえると、先に辞任した佐川国税庁長官の理財局長時代の責任であることを軸に、調査が行われることになるのだろう。

このままだと、調査を進める前から、最終責任者が決め打ちされた調査になりそうで、どの程度意味があるか大いに疑問だ。

財務省から独立した調査を行った方が、それなりの理解が得られる調査結果になるのではないかと思うが、残念ながらそうなりそうにもない。

朝日新聞が3月2日に決裁文書の書き換えの可能性を報道してから10日目にして、ようやく財務省が改ざんを認めたわけだが、正直なところ、ここまで多くの文書と箇所で行っていたとは想像していなかった。

国会議員に提示を求められた決裁文書から、具体的な交渉経緯や案件の背景を主に削除しており、これが1年前に公開されていれば、森友学園問題はまったく違った展開になっていただろう。

結局、国会議員に改ざんした文書を提供してごまかしてきたことになる。

また、この1年の間に衆議院選挙もあった。森友学園問題の経緯を具体的に明らかになっていれば、情報を得て判断する機会が私たちにはあったはずだが、それが奪われたことになる。


 改ざん問題と公文書管理法との関係

財務省による決裁文書の改ざんは、やってはならないこととわかっていながらやったわけで、異例の事態だが、「異例」とだけしてしまうと、ひとつの特殊な事例で終わってしまう。

森友学園問題はこの問題として何らか始末をつける必要があるが、普遍的な問題・課題が何かも併せて考える必要があるので、少し整理してみたい。

改ざん問題が明らかになって以来、公文書管理法との関係がたびたび論点として挙がっているが、この法律自体に改ざんを防止するための仕組みが用意されているわけではない。

電子行政文書については、改ざんが容易であるということもあり、情報セキュリティ対策として改ざん防止措置が求められているが、あくまで政府活動によって発生する行政文書を管理するための仕組みだ。

目的としているのは、行政文書を通じて政府が説明責任を果たすということ。行政文書が発生したら、それがそのまま残っているのが当たり前というのが、この制度の前提になっている。

この関係をもう少しかみ砕くと、行政文書は政府活動の結果発生するものなので、政府活動の質が悪かったり、適切性や合理性に欠けたり、一般に理解を得られないようなものであると、その影響が避けられない。

それが、なるべく記録しないようにしたり、短期間で廃棄しようとしたり、行政文書として保存せず個人メモとしたり、過剰に非公開にしたり隠ぺいしたりと、行政文書の質や管理や公開を通じて顕在化するという関係になる。

森友学園問題では、契約内容の妥当性が経緯から疑われれば、文書改ざんを引き起こす原因になる。

そのため、情報公開法や公文書管理法にも問題があるが、それだけで解決しようとするのは無理がある。

政府活動の質や健全性を高める、適正性を確保し、政府が信頼されるための努力をすることが、遠回りのようで、政府の説明責任が行政文書によって果たされるためには必要になってくる。

ちなみに、よく日本の公文書管理法と比較されるアメリカの記録管理法体系では、日本でいう国立公文書館と内閣府を合わせた権限を持つ、国立公文書記録管理局(NARA)の権限が強力であることや規模が大きいことが指摘されているが、NARAが政府活動そのものを監督するわけではない。

例えば、各連邦政府機関には総括監察官がおり、独立的な監察機能を担い、NARAも必要に応じて連携している。

また、公益通報者保護法、不正請求防止法のような仕組みや、議会による連邦政府機関の活動の監視、予算管理局による活動管理、強力な証拠開示手続など、記録管理とは別に政府活動の質や適正性、不正防止、問題の是正のための仕組みや責任が問われる仕組みがある。加えて、分厚い市民社会組織がある。

だから問題がないというわけではなく、問題はあるが、政府活動の質を高め適正化を図り、責任を課す仕組みの中で、記録管理がより機能させられる一面があるだろう。

日本は、こうした政府活動の質を高める、適正化を図る、問題を是正するための仕組みや機能がぜい弱であり、ほとんどないと言ってもよい。

森友学園問題で改ざんしたのも、もとをただせば貸付・売却契約に無理をしているから、あるいは一般に理解されないものであったからと考えると、決裁文書の扱いでその問題が顕在化したので、むしろ国有地処分の適正性を確保しないと、同じことが起こり得る構造が残る。

決裁文書は、組織としての意思決定を行った証拠文書であるにもかかわらず、改ざんを行ったと思われる背景を制度面から推測すると、決裁文書の調書を廃棄ではなく改ざんとしたのは、ある種の「つじつま合わせ」という一面があるとみることもできる。

財務省文書取扱規則は決裁文書について、「起案の趣旨、事案の概要及び起案に至るまでの経過を明らかにした要旨説明を案文の前に記載するとともに、重要と認められる部分又は問題点があるときは、要旨説明の中その他の適当な場所に明記する。」(13条3号)と定め、「決裁文書は、関係資料を一括し、容易に分離しないようとじる。」(13条7号)ともしている。

この種の規則は公文書管理法制定前からあるもので、以前から決裁文書には事案の概要と経過をつけ、一括して管理していることになっている。

この事案の概要や経過を説明したものが、今回改ざんされた調書だ。規則で定められているので、調書を取り除くことはできないので、廃棄ではなく改ざんしたとも言えるだろう。


 決裁文書は修正できないのか

では、決裁文書は修正できないのかという質問もこの間、何度も受けてきた。

基本的には、組織として意思決定を終えているのでできないだろう。

可能性があるとすれば、例えば、経緯に誤字脱字など軽微な間違いがあったような場合は、紙文書であれば後から手書きで修正が施される程度のことはあるかもしれない。

また、電子決裁のシステムがあるが、そこで決裁してシステム的に管理されると、修正は簡単ではないはずだし、履歴が残る。

重要な点に間違いがあれば、決裁のやり直しで、新たに起案がされて決裁を行わなければならないだろう。そうならないために、複数の職員が決裁手続では内容を確認し、確認後に押印していくことになる。

情報公開請求で公開される決裁文書には、担当者の起案内容に上司が手書きで修正が入れられているものもある。多くの手が入ると起案文書が見にくくなるので、こういう場合は清書をする手続が規則上設けられていたりする。

だからこそ、今回の改ざん問題は、常識的にはあり得ないことが起こっているというほかない。

決裁文書の改ざんは、もっぱら情報を削除したものだ。

貸付や売却契約に至るまでの国会議員からの陳情、契約相手方の森友学園からの働きかけ、小学校の認可前からの交渉になった理由、土地の所有者である国土交通省とのやり取りなどの経緯、特例的な契約であることが調書から消えている。

決定したことはわかるが、多くの具体的な経緯が削除されており、なぜこのような契約になったのかという本来の背景がほとんどわからなくなった。

公文書管理法は、国会での法案修正で、意思決定だけでなく、意思決定の「過程」を合理的に跡付け検証できるよう文書の作成を義務づける規定になった。決定の結果だけでなく、その経緯が重要だからだ。

これを筆者なりに解釈すると、どのような経緯であったかは、決定の意味合いや意義、位置づけ、解釈に影響するので重要だということになる。

改ざんは、森友学園への貸付や売却契約の意味合いや位置づけを歪め、政府にとって都合のよいものに作り替えたことになる。


 プロセスを検証する必要性

ただ、今回は改ざんという極端な形で表れているため、ある意味わかりやすく顕在化しているが、政府にとって都合のよいように行政文書が作られることは、珍しいことではない。

政策決定の際に、決定の妥当性や正当性を示す資料や経緯は行政文書として比較的長期残されるが、異論や他の選択肢、決定とは異なる方向性を示すデータなどは、短期で廃棄されたり、決定過程の一連の文書として管理して残されないことは珍しくもない。

何を残して残さないかという点では、常に情報が操作的に扱われる可能性はある。

どのようにプロセスが記録されるべきか、ということを試行錯誤しないと、例えば改ざんしないで済むように内容の薄い調書をつくる、というような形骸化、形式化を招くことになる。

今回の改ざん問題では、誰が改ざんしたのかと、誰が指示したのか、そもそも指示があったのかが今後の一つの焦点になるだろう。

誰かに焦点化すると、それは近畿財務局の職員になるだろうし、指示をしたとすると理財局の誰かということになるだろう。

しかし、改ざんは、当時の佐川理財局長や安倍首相の答弁とつじつまを合わせるために行われたとする報道もある。

前述の通り、麻生財務大臣は佐川氏の責任と決め打ちをしているようだが、昨年問題が表面化した際、財務省は契約経緯の詳細な調査をしようとせず、森友学園側から記録や情報などが出てくると、その範囲だけ確認して答弁をすることを繰り返してきた。

少なくとも佐川氏が国会でそのような答弁を繰り返してきたのは、独断ではなく政治的にそれを良しとしてきたからに他ならない。

佐川氏や近畿財務局、理財局の職員にも問題はあることは間違いないが、職員にのみ責任を取らせるような結果になったら、それは政治が行政に守られている、あるいは政治が行政を盾にして保身を図っていることになる。

それは本末転倒だ。調査を指示しなかったことも、答弁内容を良しとしてきたことも、政治的責任の範囲だろう。

また、刑事罰に該当するのかという焦点もある。筆者は刑法に専門的知見があるわけではないが、刑法の規定を見る限り、虚偽公文書作成等罪に該当する可能性は、完全に否定できないと思う。

刑法156条は、「公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。」と定めていて、「行使の目的」には、虚偽の文書を真正のものと他人に認識させ、認識させ得る状態に置くことを指すようなので、該当するようにも読める。

しかし、今回の改ざんは情報を削除していて、文書に虚偽を記載したわけではないので、これをどう判断するのかという問題になるだろう。

ただ、刑事罰に該当するかどうかにのみ焦点化すると、刑事罰に当たるか否かという狭い範囲で問題が追及されることになる。

刑事罰該当性はそれで追及されるべきだが、検察は犯罪か否かの捜査をして該当すれば起訴などするが、それ以上のことをするわけではない。

政府は犯罪行為や違法でなければ何をしてもよいというものではなく、政府活動には適切性や正当性、妥当性が問われるからこそ、説明責任が求められている。

この視点からも森友学園問題と、その問題の発端である国有地処分の仕組みの適切性など、プロセスそのものを検証する必要があるし、そのプロセスが適切性を欠いていることが文書改ざんを引き起こしたのであれば、その問題を解決する必要がある。


 決裁文書ではわからないこと

ところで、今回の文書改ざんで削除された内容を見ると、特別に新しい事実が含まれているわけではない。

すでに、森友学園側から出ていたこと、昨年3月に明らかにされた鴻池参議院議員事務所の陳情整理報告書、大阪府の文書、今年1月になって一部が公開され、2月に追加で公開された近畿財務局内での法律相談書などからわかっていたことが多い。

国会議員の名前や首相夫人の名前も削除されているが、これも新しい事実とまでは言えない。はたして大きなリスクを抱えてまで改ざんをしなければならないことだったのだろうか。

削除された箇所を通して、森友学園への国有地貸付・売却案件が政治案件であるという前提で処理が進められていたことは、よくわかる。

2015年5月に貸付契約が締結されているが、それに先立ち2月の段階の特例承認の決裁文書の調書には、冒頭の事案の概要に「※本件は、平成25年8月、鴻池祥肇議員(参・自・兵庫)から近畿局への陳情案件」と書かれている。

鴻池議員陳情案件だという認識であったことは示され、複数の国会議員からの陳情、籠池氏が日本会議大阪代表・運営委員をはじめ諸団体に関与し、日本会議の説明の中で麻生財務大臣が特別顧問、安倍首相が副会長に就任していること、森友学園への国会議員の来訪状況がまとめられている。

資料からは、鴻池議員陳情案件として契約処理しているが、森友学園の背景から現政権と直結しているという認識を持っていたことまでは理解ができる。

それではどこでどういう力が働いたのかまでは、今回出てきた決裁文書だけではわからない。

特に、最終段階で大幅な値引きをして売却するに至る部分は、森友学園側が損害賠償の可能性を出して交渉していたことがわかる記述が中心だ。

毎日新聞によると、約8億円の値引きの根拠となった地中の埋設物を実際より深くあると見せかける報告書を作成したと、業者が大阪地検に証言していることがわかったという。

森友学園や近畿財務局側から促されたとも記事にあり(毎日新聞「森友「ごみ報告書は虚偽」 業者が証言「書かされた」」2018年3月16日)、徐々に何が起こっていたのかがわかるような情報が順次明らかにされつつある。

言い換えると、改ざん文書でも全貌がわからないわけだから、財務省が1年未満の保存期間であるから廃棄済だとする交渉記録が核心に迫る記録であるということになるだろう。

これについても、先般自殺が報じられた近畿財務局の職員が残したメモに、「資料は残しているはずでないことはありえない」と書かれていたと報じられており(NHK「「森友」 自殺した職員がメモ 「自分1人の責任にされてしまう」」2018年3月15日)、まだ先のある話になりそうだ。

ただ、改ざんされた決裁文書の調書に「※本件は、平成25年8月、鴻池祥肇議員(参・自・兵庫)から近畿局への陳情案件」と書かれているのを見ると、国有地処分には同様に政治家案件があるのではないかと思われる。

森友学園が特例、特殊とするとその範囲の議論に終わるが、この問題はもとは国有地の処分プロセスが適当かどうかという問題も含んでいることは、前述の通りだ。

国有地処分には同様の政治家案件が相当あるとすると、森友学園問題の特殊性にだけ焦点が当たっている限りは、それ以外の案件に延焼しないで済むので好都合ということもあり得るのではないだろうか。

現在、財務省の財政制度審議会国有財産分科会で、公共随契を中心とする国有財産の管理処分手続等の見直しを検討している。1月19日の会議を最後に開催されていないが、こちらも注目していく必要がある。




特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス理事長。専修大学非常勤講師。横浜市立大学文理学部国際関係課程卒。大学在学中より情報公開法を求める市民運動にかかわり、その後事務局スタッフに。1999年7月の組織改称・改編にともなうNPO法人情報公開クリアリングハウスの設立とともに室長となり、2007年4月から理事、2011年5月から理事長。情報公開・個人情報保護制度やその関連制度に関する調査研究、政策提案、意見表明、情報公開制度の活用を行うとともに、市民の制度利用のサポート、行政、議員に対しても情報提供や政策立案への協力などを行う。共著に『高校生からわかる政治の仕組み 議員の仕事』(トランスビュー)、『社会の見える化をどう実現するか―福島原発事故を教訓に』(専修大学出版)などがある。





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