新型コロナ特措法改正の問題点-「予防的措置」の位置づけ-
昨日(1月13日)、坂井学官房副長官は政府・与野党連絡協議会に出席し、「新型インフルエンザ等対策特別措置法改正の方向性」を提示し、説明した。
それによれば、政府対策本部長は、緊急事態宣言の前に、「予防的措置」の発出できるようにし、さらに、知事の要請に従わない場合には、知事は命令に返ることができ、その命令に違反した場合には、過料を科することを内容としている。
まず、現行特措法の枠組みを見ておこう。
特措法は第一ステップとして、新型コロナを含む感染症が発生した場合に、内閣に政府対策本部を設置する(15条)。政府対策本部が設置された場合には、都道府県においても知事を本部長とする都道府県対策本部を立ち上げる(22条、23条)。この段階において、知事(都道府県対策本部長)は感染対策のために、個人・法人に対して必要な協力を要請することができる(24条9項)。
第二ステップとして、新型コロナの全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、またはそのおそれがある場合に、政府対策本部は緊急事態宣言を発出する。緊急事態宣言は期間・地域・概要を定めて発出される(32条1項)。
緊急事態宣言の対象となった地域の都道府県知事は、外出自粛、施設の使用制限や催事の停止を要請することができ(45条1項、2項)、施設管理者等が要請に従わない場合は、使用制限または停止を指示することができる(同条3項)。
これに対して、「改正の方向性」では、第一ステップと第二ステップのあいだに「予防的措置」を設けようとするものである。
その「予防的措置」については、「まん延の防止に関する措置を講じなければ『新型インフルエンザ等緊急事態措置』を実施すべき区域となることを回避することが困難である事態として政令で定める事態が発生したと認めるときは、『予防的措置』(仮称)として、措置を実施すべき機関、区域等を公示する。」としている。
対象となった都道府県の知事は、「感染の状況について政令で定める事項を勘案して措置を行うことが必要と認められる業態に限り、施設の営業時間の変更等の措置を要請できる、正当な理由なく要請に応じない場合には命令、命令に違反した場合には過料、要請又は命令を行った場合に感染を防止するため特に必要があると認めるときは公表することができる。」とし、命令を出す場合には「立入検査・報告徴収」ができ、これを拒んだ場合の過料も設けるという。
一方、予防的措置に応じない知事に対し、政府対策本部長は、必要な指示をすることができるとした。
現行法では、緊急事態宣言を出す以前の段階において、知事が取りうる措置は、「当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。」(24条9項)と規定され、「必要な協力の要請」に限られている。
今回の「改正の方向性」は、その間隙により強固な措置をとることができるようにしようというものである。
それを段階的に見ると、次のようになる。
第一段階 該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるとき⇒必要な措置
第二段階 まん延の防止に関する措置を講じなければ『新型インフルエンザ等緊急事態措置』を実施すべき区域となることを回避することが困難である事態として政令で定める事態が発生したと認めるとき⇒予防的措置
第三段階 新型コロナの全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、またはそのおそれがあるとき⇒緊急事態宣言
このように見ると、現行法の「必要な措置」から「緊急事態宣言」へ飛ぶのは少し隔たりがある。その間隙に何らかの措置を認めることは妥当かもしれない。
しかし、「まん延の防止に関する措置を講じなければ」という要件は、わかりづらい。第一段階の「必要な措置」と比較し、「まん延の防止に関する措置」とは何を意味するのであろうか。「必要な措置」に「まん延の防止に関する措置」も含まれているのではないか。まん延を防止しない必要な措置など存在しない。そう考えると、それは、「予防的措置」を導入するために規定した要件にすぎなくなるであろう。つまり、「予防的措置」としての知事の権限、すなわち施設の営業時間の変更等の措置の要請、正当な理由なく要請に応じない場合の命令、命令に違反した場合の過料、特に必要があると認めるときの公表を正当化するための手段とされているのではないか。
このような「予防的措置」の導入は、ただ知事権限を強化するためだけのものであり、反対せざるを得ない。
また、緊急事態宣言下における、同様な知事権限の強化についても同様である。
緊急事態宣言にしろ、予防的措置にしろ、必要なことは、事業者への十分な補償である。営業時間の短縮を要請しながら、それに見合った保証をしなければ、事業者は事業継続のため営業を継続しなければならず、その営業により生計を立てている従業員の生活も保障しなければならない。それらの補償を十分に行うことが先決であり、まずそれをすべきである。
今回の改正提案を自民党と立憲民主党との「ボス交」で済ませようとしているが、このような人々の生活に直結し、罰則を伴う私権の制限を導入しようというものは、広く公開の場での議論が保証されなければならない。秘密裡での交渉は絶対に許してはならない。
昨日(1月13日)、坂井学官房副長官は政府・与野党連絡協議会に出席し、「新型インフルエンザ等対策特別措置法改正の方向性」を提示し、説明した。
それによれば、政府対策本部長は、緊急事態宣言の前に、「予防的措置」の発出できるようにし、さらに、知事の要請に従わない場合には、知事は命令に返ることができ、その命令に違反した場合には、過料を科することを内容としている。
まず、現行特措法の枠組みを見ておこう。
特措法は第一ステップとして、新型コロナを含む感染症が発生した場合に、内閣に政府対策本部を設置する(15条)。政府対策本部が設置された場合には、都道府県においても知事を本部長とする都道府県対策本部を立ち上げる(22条、23条)。この段階において、知事(都道府県対策本部長)は感染対策のために、個人・法人に対して必要な協力を要請することができる(24条9項)。
第二ステップとして、新型コロナの全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、またはそのおそれがある場合に、政府対策本部は緊急事態宣言を発出する。緊急事態宣言は期間・地域・概要を定めて発出される(32条1項)。
緊急事態宣言の対象となった地域の都道府県知事は、外出自粛、施設の使用制限や催事の停止を要請することができ(45条1項、2項)、施設管理者等が要請に従わない場合は、使用制限または停止を指示することができる(同条3項)。
これに対して、「改正の方向性」では、第一ステップと第二ステップのあいだに「予防的措置」を設けようとするものである。
その「予防的措置」については、「まん延の防止に関する措置を講じなければ『新型インフルエンザ等緊急事態措置』を実施すべき区域となることを回避することが困難である事態として政令で定める事態が発生したと認めるときは、『予防的措置』(仮称)として、措置を実施すべき機関、区域等を公示する。」としている。
対象となった都道府県の知事は、「感染の状況について政令で定める事項を勘案して措置を行うことが必要と認められる業態に限り、施設の営業時間の変更等の措置を要請できる、正当な理由なく要請に応じない場合には命令、命令に違反した場合には過料、要請又は命令を行った場合に感染を防止するため特に必要があると認めるときは公表することができる。」とし、命令を出す場合には「立入検査・報告徴収」ができ、これを拒んだ場合の過料も設けるという。
一方、予防的措置に応じない知事に対し、政府対策本部長は、必要な指示をすることができるとした。
現行法では、緊急事態宣言を出す以前の段階において、知事が取りうる措置は、「当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。」(24条9項)と規定され、「必要な協力の要請」に限られている。
今回の「改正の方向性」は、その間隙により強固な措置をとることができるようにしようというものである。
それを段階的に見ると、次のようになる。
第一段階 該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるとき⇒必要な措置
第二段階 まん延の防止に関する措置を講じなければ『新型インフルエンザ等緊急事態措置』を実施すべき区域となることを回避することが困難である事態として政令で定める事態が発生したと認めるとき⇒予防的措置
第三段階 新型コロナの全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、またはそのおそれがあるとき⇒緊急事態宣言
このように見ると、現行法の「必要な措置」から「緊急事態宣言」へ飛ぶのは少し隔たりがある。その間隙に何らかの措置を認めることは妥当かもしれない。
しかし、「まん延の防止に関する措置を講じなければ」という要件は、わかりづらい。第一段階の「必要な措置」と比較し、「まん延の防止に関する措置」とは何を意味するのであろうか。「必要な措置」に「まん延の防止に関する措置」も含まれているのではないか。まん延を防止しない必要な措置など存在しない。そう考えると、それは、「予防的措置」を導入するために規定した要件にすぎなくなるであろう。つまり、「予防的措置」としての知事の権限、すなわち施設の営業時間の変更等の措置の要請、正当な理由なく要請に応じない場合の命令、命令に違反した場合の過料、特に必要があると認めるときの公表を正当化するための手段とされているのではないか。
このような「予防的措置」の導入は、ただ知事権限を強化するためだけのものであり、反対せざるを得ない。
また、緊急事態宣言下における、同様な知事権限の強化についても同様である。
緊急事態宣言にしろ、予防的措置にしろ、必要なことは、事業者への十分な補償である。営業時間の短縮を要請しながら、それに見合った保証をしなければ、事業者は事業継続のため営業を継続しなければならず、その営業により生計を立てている従業員の生活も保障しなければならない。それらの補償を十分に行うことが先決であり、まずそれをすべきである。
今回の改正提案を自民党と立憲民主党との「ボス交」で済ませようとしているが、このような人々の生活に直結し、罰則を伴う私権の制限を導入しようというものは、広く公開の場での議論が保証されなければならない。秘密裡での交渉は絶対に許してはならない。