102年の人生論~おトキさんのメッセージ~

2010年06月29日 17時41分37秒 | Weblog
 昨夜、遅番二人のスタッフの内、引き継ぎ担当者から夜勤者へ利用者さんの一日を連絡してたときのことです。
私は引き継ぎ担当ではなかったので、パジャマに更衣を済ませ、リビングで主にテレビを観て過ごしている利用者さんに20時のお茶を飲んで頂いたり、(飲み込みに介護が必要な方、ご自分で飲める方など様々ですが)ゴミ出しと戸締りへ行ったり、ホールの外と内を行ったり来たりしていました。
 私にとっては間もなく勤務終了。バタバタしながらも、精神的には少し、ほっとする手前でもあります。
すべてが終わって帰宅するまでは、(やれやれ・・・)とまでは行きませんが、少しだけ心にゆとりが生まれる、そんな時間帯であったことは確かです。
 
 そんな時、ソファに座っていた利用者さんの内の一人が首をポリポリ掻きむしっていました。
 「あら? 由美子さん、(仮名)痒いんですか?」
と、言いながら首筋を見てみると、真っ赤になっています。
首だけではなく、ボタンをそっと外して奥を覗いてみると、その先も。
発疹があるわけでもなく、一日中雨で蒸し暑かったので、手でかいている、そんな感じでした。
 「薬をぬっておこうか」
由美子さんは毎朝、首筋に塗り薬をぬっていますので、その薬をいつもより広範囲に ぬりました。
薬をすり込むように念入りにぬったので、気持ちが良いのか由美子さんは目を閉じ、あごを突き出すようにしています。
ただ、塗り終わると再びポリポリとかき始めてしまいます。
また、赤くなる…の繰り返し。
 「由美子さん、かゆいだろうけれど、かきむしるのは良くないから、パジャマの上から軽くトントンと叩く程度がいよ。ほら!」
由美子さんは目を開け、私をじーーっと見つめています。
痛い、痒い、気分がすぐれない、など、自分で訴えることが出来る利用者さんもいますが、由美子さんはそうではありません。
体調の変化や異変は、スタッフが気が付いてあげる意外にないのです。
そういう利用者さんの方が多いのではありますがー。
由美子さんと会話しながらも、他の利用者さんにも気を配ってはいます。
誰だって自宅へ帰りたいのは普通のことなので、「帰宅願望」といういい方は、本当はどうかと思われるものの、それ以外、表現のしようがなく、使用してはいますが、とりわけ夜になると「帰りたい」と訴えられる利用者さんもいます。
どう対応したらいいのか、ときに迷います。
「荷物をまとめなきゃ」
「娘が迎えにくる」
「今電話したら、きっと、ばあさんが家に居ると思う」
いい方は変わっても、利用者さんの根本にあるのは、「自分の家へ帰りたい」ということだと分かっているから。
由美子さんと会話しながら塗り薬をぬっていた私は背後に視線を感じて振り返ると、おトキさんが じーーっと見ていました。
あの真剣な目は、いわゆる帰宅願望を現わす時の目です。
一瞬、どきっとしました。
でも、おトキさんはが膝元をさすっている事に気が付いた私は、「どうしましたか?」と聞きながらも、ほぼ同時におトキさんの膝に触れました。
 「膝がどうかしましたか?」
と、言葉を続けて聞きながら。
 「ちょっと冷えるねぇ」
という答えが返ってきました。
思わずクーラーを見上げます。
スタッフは動き回っているので、汗だくですが、利用者さんにとっては寒い、ということがあるため、冷房は入れても27度設定。(これは我が家と同じ)
除湿のみ、ということもこの時期、多いです。
ちょうど、パジャマが夏用に衣替えしたこともあり、深夜に向けて、ちょっと肌寒く感じるのでしょう。
 「何か掛け布団のようなものがないか、探してきますね」
冬に使用していたミニ掛け布団はすでに片付けられ、おトキさんの部屋には置いてありませんでした。
ご家族さんが来られたとき、持って帰られたのかなぁと思いながら、そうだ! バスタオルを…と思い立ちました。
バスタオルの中でもふわふわの物を選び、おトキさんの元へ。
 「これはどうでしょう?」
と、二つ折にしてバスタオルを膝にかけて差し上げると、おトキさんは感心したように言いました。
 「いいもの、見つけてきたねぇ」
 「これはおトキさんのですよ」
 「ふふふっ」
と、二人で笑顔。
その後の会話は、いつも夜になると「帰りたい」と訴えられることが多い、どちらかというと気が弱くなってしまっている おトキさんとは違っていました。
かなりしっかりとされ、話す言葉の一つひとつが、私の疲れた身体と心の両方に響き渡り、まるで心の師匠のようでした。

由美子さんと私の一部始終を じーーーっと観察していた おトキさんに私の目が向かったとき。
その おトキさんの膝掛けを探しにおトキさんの視界から消えた私がバスタオルと共に (これしか無かったんだけど…)と思いながら急いで戻った時。

明治、大正、昭和、平成と、102年の歳月をそれこそ必死に、そして一生懸命に生きてきた おトキさんの人生論をどうしても私に伝えておかなければ! と思ったのですね。

次回、昨夜、おトキさんが必死になって私に訴えかけて下さった『人生102年の人生論』をなるべくおトキさんの言葉の通り、再現致します。

長くなりそうなので、一旦、ここまでで。

すず

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。