未来を求める人は
今日を走り
未来を待つ人は
今日に座り
未来に進む人は
今日を生き
そして
未来に絶望する人は
今日を失う
Five Spot(Cafe)はかつてニューヨークにあったジャズクラブ
カーティス・フラーの柔らかいトロンボーンで大きな雲の中にいるような厚みのある曲になっています。
Curtis Fuller - Five Spot After Dark
月がこんなにも
手の届きそうな
向かい合って
距離がとても短い
風の梯子を
闇夜に放てば
渡って行けそうな
それほど心も近づけ
眺めていれば
つい言葉もかけて
真空の風の音
一人立つ夜
知り合いの友人が
知り合いの友人に
家を頼んだ
知り合いの友人は
知り合いの不動産屋に
家を頼んだ
知り合いの不動産屋は
知り合いの不動産屋に
家を頼んだ
たくさんの知り合いの知り合いが
たくさんの家をぶら提げて
暗い夜道を行列している
知り合いの友人は
行く先もわからず
いつしかその行列の最後尾で胸を張っている
月の暦で年のはじまり
太陽の暦で春のはじまり
立つは歩くのはじまり
歩けば旅がはじまる
僕の旅のはじまりは定かではないが
突然ここに着いたわけでもない
記憶は
鳥のように羽毛の軽さで飛びはじめ
今や五体の何倍もの荷物を背負ってる
その分筋肉は比例して形を作ってきたが
ここにきて支える骨が軋んできた
終わりが見えてはきたが
まだ終わりではない
思う以上に長い旅の途中かもしれない
そろりといたわりながら
まだずっと先に腰掛けて
最後に見る光景を想像しながら
一歩ずつ踏み出していく
それが今日のはじまり
咲き誇るなら
短い命の花だけでいい
指先ほどの花びらが集まって
幹も枝も隠し
群れとなり
大きな生き物になっていく
白色のあるいは薄紅色の
天に導く龍のようだ
限られたときの中で
命の色を保ったまま
散っていく
地に落ちた桜の花の道
無造作に歩くことはできない
空に
抱えきれないほどの雨を
孕んだ黒く大きな雲が
浮いている
望めば望むほど
望みは
人から離れ
天に舞い上がる
舞い上がった望みは
群れをなし
凝集し
巨大な化け物になる
支えきれなくなった雲から
雨が放たれる
家をながし橋を壊し
容赦なく道を消失させる
積み上げてきた
街が
積み上げてきた望みで
破壊された
これは
望みではなかったはず
そのままであること
それが最大の望みであったはず
雨が
程よく降ってきた
木も草も動物も人も
その恩恵に与る
望ましい雨が
望ましい命をはぐくむ
望ましい望みが
望ましい命を保つ
地中に撒き散らされた種
ひしめき合い摩擦する
地球の不順で
目を出せない
膨張する欲望
生命の本能が軋轢を生み
一つの種が地中を飛び出した
空に弾を撃った
バーン!
芽の息吹く音ではなく
芽が正気で失くなった瞬間である
日々眠り
日々目を覚ます
同じ場所への生還
闇夜伝いに
辿りつく
朝明けの頃
地上すぐの樹木が
高すぎる空を遮る
しなやかに伸びる四肢
取り戻す呼吸
風に木洩れ陽
午後の休息
米を研ぎ
水に眠らせ
成熟を待つ
わずかだが
また生き長らえた
夕べのひととき
異和感のあるあなたの中に入って
どうしてそうなるのか知りたい
お薬がどんどんあなたの中に入っていくけど
お薬はあなたの中で一体何をしているのでしょう
異和感がなくなったとは言えず
ただほんの少し生気がなくなっておとなしくなっただけ
だから
異和感のあるあなたの中に入って
どうしてそうなるのか知りたい
そして
苦しみから少しでも解放して
楽にしてあげたい
どうすれば
異和感のあるあなたの中に入っていけるのでしょう
心が手をつないで
輪になってすわると
どの心も見えるようになる
優しさも敵意も
熱意も怠惰も
みんな手をつなぐんだ
ぐるっと見渡して
みんな自分なのだ