かわな ますみ / 花冠同人

かわな ますみ の俳句
  ブログ句帳 

花冠合同句集『泉』(花冠俳句叢書第31巻)掲載作品

2024-01-04 19:39:39 | 俳誌「花冠」掲載作品
創刊40周年記念 花冠合同句集『泉』(花冠俳句叢書第31巻)
2005年1月~2023年5月投句作品より五十句

「きれいに響く」



残る鴨みずから生みし輪の芯に
ものすべて光らせ来る木の芽風
 親友の出産
生まれきて初めに春の陽を握る
梅ひとつ咲いて朝餉の一時間
病室の嗽のコップに梅を挿す
かららんと蛤ひびく椀の底
高窓に囀あふれ処置室へ
春時雨ときに光の休符入る
ニコライの鐘鳴りやまず花吹雪
高架まで花散りのぼる六本木
きゃべつの葉水に浸ければ飛花の浮く
海苔洗う母の手に清冽な水
音立てて甲斐全山の芽吹きけり



車椅子速めに走り五月来る
新しき風鳴りはじむ樟若葉
 栄光学園ミサ
風薫る丘の上なる男子校
てのひらを新樹の幹に女学生
ラムネ飲むきれいに響くところまで
プールから花のタオルの中に入る
朝蝉の空を鳴らして飛び立てり
夕焼に音大校舎鳴り渡る
夕涼や母に拭かれし背と腋と
その下の海の広さよ遠花火
星涼し父の土産の匂袋
水彩の青の刷られしサンドレス
街へ来ぬ素足にかるきハイヒール



朝顔のつぼみの先に明日の色
秋水を飲めば胸元ことこと鳴る
もう風は爽やかだから出ておいで
小鳥来てわが目の高さそこに置く
白芙蓉の角を曲がるや海一面
刷かれきてここより鰯雲となる
とんぼとんぼ向う山まで透き通る
車椅子とんぼの群へ触れに入る
高架路をカーブしかなかなの森へ
吾が窓に雲一片もなき秋天
秋冷を久しく触れぬ鍵盤に
水のいろ火のいろ街に秋燈



脱稿をこの日と決めし一葉忌
冬晴れて登ることなき山のぞむ
少しずつ父はカトレア咲かせおり
母編みしカーディガン着て母看とる
外套を叩き芝居の雪一枚
除夜の鐘とぎれて貨車の音の過ぐ
初写真大きな富士を真ん中に
雪礫空に返したくて放る
 春に愛猫を亡くし
日向ぼこ猫がそうしていた場所で
五線紙に写譜ペン太く寒灯下
冬満月チェロの弛みし弦巻かむ
冬夕焼一直線に街を射す


川名ますみ 一九七一年生まれ。
句歴  平成十七年水煙入会。平成二十年花冠同人。平成十八年水煙新人賞、平成二十五年花冠賞。
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