かわな ますみ / 花冠同人

かわな ますみ の俳句
  ブログ句帳 

俳誌『花冠』No.370(2月号)掲載作品

2024-02-17 18:39:20 | 俳誌「花冠」掲載作品
「降る雪のごとく」
芍薬を深く抱く師の薄き胸
青空へ紐を結びぬ竹簾
窓八枚真横に秋の雲たなびく
揚花火横浜港のリズミカル
にぎやかに母の友らと盆支度
雲も陽も富士へと沈む秋夕焼
口紅の唇埋めずショール巻く
懐炉手に祈り無音の舞台袖
手袋をぬぐや舞台のピアノへと
降る雪のごとく始まる連打音
冬天へ最後の主音届けよと
冬の夜を楽譜とドレス背負い帰る

〈冬田抄〉
降る雪のごとく始まる連打音
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

花冠合同句集『泉』(花冠俳句叢書第31巻)掲載作品

2024-01-04 19:39:39 | 俳誌「花冠」掲載作品
創刊40周年記念 花冠合同句集『泉』(花冠俳句叢書第31巻)
2005年1月~2023年5月投句作品より五十句

「きれいに響く」



残る鴨みずから生みし輪の芯に
ものすべて光らせ来る木の芽風
 親友の出産
生まれきて初めに春の陽を握る
梅ひとつ咲いて朝餉の一時間
病室の嗽のコップに梅を挿す
かららんと蛤ひびく椀の底
高窓に囀あふれ処置室へ
春時雨ときに光の休符入る
ニコライの鐘鳴りやまず花吹雪
高架まで花散りのぼる六本木
きゃべつの葉水に浸ければ飛花の浮く
海苔洗う母の手に清冽な水
音立てて甲斐全山の芽吹きけり



車椅子速めに走り五月来る
新しき風鳴りはじむ樟若葉
 栄光学園ミサ
風薫る丘の上なる男子校
てのひらを新樹の幹に女学生
ラムネ飲むきれいに響くところまで
プールから花のタオルの中に入る
朝蝉の空を鳴らして飛び立てり
夕焼に音大校舎鳴り渡る
夕涼や母に拭かれし背と腋と
その下の海の広さよ遠花火
星涼し父の土産の匂袋
水彩の青の刷られしサンドレス
街へ来ぬ素足にかるきハイヒール



朝顔のつぼみの先に明日の色
秋水を飲めば胸元ことこと鳴る
もう風は爽やかだから出ておいで
小鳥来てわが目の高さそこに置く
白芙蓉の角を曲がるや海一面
刷かれきてここより鰯雲となる
とんぼとんぼ向う山まで透き通る
車椅子とんぼの群へ触れに入る
高架路をカーブしかなかなの森へ
吾が窓に雲一片もなき秋天
秋冷を久しく触れぬ鍵盤に
水のいろ火のいろ街に秋燈



脱稿をこの日と決めし一葉忌
冬晴れて登ることなき山のぞむ
少しずつ父はカトレア咲かせおり
母編みしカーディガン着て母看とる
外套を叩き芝居の雪一枚
除夜の鐘とぎれて貨車の音の過ぐ
初写真大きな富士を真ん中に
雪礫空に返したくて放る
 春に愛猫を亡くし
日向ぼこ猫がそうしていた場所で
五線紙に写譜ペン太く寒灯下
冬満月チェロの弛みし弦巻かむ
冬夕焼一直線に街を射す


川名ますみ 一九七一年生まれ。
句歴  平成十七年水煙入会。平成二十年花冠同人。平成十八年水煙新人賞、平成二十五年花冠賞。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』第369号掲載作品

2023-08-27 16:17:02 | 俳誌「花冠」掲載作品
「囀あふれ」
初御空富士真っ白に晴れ渡り
ベッドより伸ばす左手初明り
春立つ日新しき刃が髪を断つ
菜の花を広場に咲かす五年生
高窓に囀あふれ処置室へ
囀も陽も高窓を零れくる
花曇青の自転車赤のバギー
糊利きし白衣四月の病院に
病牀に今日も長閑という遊び
花冷えや一指を象牙の鍵盤に
ざく切りのリズム弾ける春きゃべつ
車椅子速めに走り五月来る

〈高窓抄〉
高窓に囀あふれ処置室へ
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』一月号(第368号)掲載作品

2023-01-07 22:00:00 | 俳誌「花冠」掲載作品
「水彩の青」
水彩の青の刷られしサンドレス
また晴れし十三回忌青葉風
命日の夕べざくざくきゃべつ切る
街へ来ぬ素足にかるきハイヒール
空蝉のふんばり碧き羽を背負う
剃刀のあたる襟足夏の雲
髪切って胡瓜どっさり冷や汁に
爽やかにコンテスタント調弦す
竜胆のふれれば傾ぐやわらかさ
初時雨しろき天井仰ぎみる
日向ぼこ猫がそうしていた部屋で
からからと笑うヘルパー小春風

 冬日抄
水彩の青の刷られしサンドレス
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』七月号(第367号)掲載作品

2022-07-18 00:00:00 | 俳誌「花冠」掲載作品
「初写真」
冬至の日猫より伸びる長き影
花いっぱい編まれしショール軽々と
冬ざれの夕日にミルクティーのいろ
葉の陰の実もつややかに藪柑子
初写真大きな富士を真ん中に
隣家より鉢の菫と蒸かしいも
紅梅の莟ふくらむほど淡き
葉牡丹の茎立のさき軽き色
初花に静かや丘の動物園
散るさくら地下駐車場まで染むる
きゃべつの葉水に浸ければ飛花の浮く
花びらを巻いて届きし春きゃべつ

 辛夷抄
きゃべつの葉水に浸ければ飛花の浮く

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』一月号(第366号)掲載作品

2022-01-08 18:12:51 | 俳誌「花冠」掲載作品
「秋の日」
キッチンに母娘の小声梅雨の月
大小のつぼみいきいき日々草
日々草今日咲くつぼみやわらかに
青空へけさ鷺草の二羽となり
肘くっと持ち上げ西瓜切りし母
桔梗の莟にわれめ入りし朝
天高しショパンコンクール始まる
ワルシャワに灯火親しむノクターン
宝石のひかりの葡萄をジューサーへ
水遣れば土の吸う音秋日和
秋の日に尾を燦めかせ猫過ぎる
秋雲の刷かれし先の青ばかり

 秋雲抄
秋雲の刷かれし先の青ばかり
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』第365号掲載作品

2021-07-06 22:00:00 | 俳誌「花冠」掲載作品
「風光る」
土鍋炊く静かなリズム寒灯下
寒灯土鍋くつくつ音立つる
話しつつ韮雑炊の灰汁すくう
葉のうらにましろき莟シクラメン
菜の花の下にサフラン五つ六つ
さくらさくらさくら人なき公園
その先のひかりを透かす花曇
春陰に小動物を照らす小屋
うつむきし紫蘭のつぼみ紅ほのか
額の花昏るるごとくに藍深む
紫陽花の重たき毬は紫紺色
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』八月号(第364号)掲載作品

2015-07-30 10:00:00 | 俳誌「花冠」掲載作品
「少女のマフラー」
掛け出して少女のマフラー夕空へ
寒晴の雲を讃えつ通院路
青天に銀杏裸木枝払われ
夕映えを梅の蕾も受けとめる
残雪の凹凸に影松林
桜の芽越してまっすぐ陽の来たる
信号の向こう大きく辛夷咲く
花李オフィスの朝に影ひろく
木の芽雨土の匂いの来ておりぬ
風光る部屋のみどりの色新た

 正子先生「選後に」より
筋肉のひかり夏服から伸びる
夏服の袖から出た腕が目に眩しく映る。それが「筋肉のひかり」だ。「夏服から伸びる」の表現から、むしろ女性のしなやかな腕を想像する。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』四月号掲載作品

2015-04-16 21:12:43 | 俳誌「花冠」掲載作品
「鰯雲」
高架路を幾たびまたぐ鰯雲
月食を同窓会に秋の暮
店先の白木槿散り弁当屋
新しき街の秋気に仮装して
高熱と医師の静けさ窓の秋
厨房に無言のひらめ暮の秋
鮃そぎ明日立冬の静かさに

 菜花抄
寒晴の雲を讃えつ通院路

 正子先生「選後に」より
寒晴の雲を讃えつ通院路
 寒晴の青空に浮かぶ雲の美しさは、通院とは言え、久しぶりの外出の身に、「讃える」ほどの美しさだった。そんな雲を見た嬉しさ、心のはずみが伝わってくる。

 花冠月間最優秀作品
 十二月賞
★手袋の手で鹿を描く幼子ら
 動物園で鹿の絵を描いているのだろう。手が冷たいので、手袋をはめたまま絵を描く光景はほほえましい。幼い絵にも愛らしさが加わったことであろう。
(高橋正子先生選評)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』一月号掲載作品

2014-12-12 20:00:00 | 俳誌「花冠」掲載作品
「桔梗一輪」
赤味さす眉月七月の街に
到来の菜を香らせ夏座敷
花槐咲きしばかりの碧き白
高架路をカーブしかなかなの森へ
隙間なく里芋積まれ届きたり
曼珠沙華遺しお壕の草苅らる
父のブランデーグラスに桔梗一輪

 正子先生「選後に」より
 新しき街の秋気に仮装して
 「新しき街」は実際に新しく開発された街としたい。「仮装」して歩く人たちは、日本にも広まってきたハロウィンを楽しむ人たちなのだろう。日常から離れ秋気に「仮装」して歩くのも現実世界の中の新しい世界だ。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』十月号掲載作品

2014-09-14 20:00:00 | 俳誌「花冠」掲載作品
「花辛夷」
花ふぶき車に触るる音うれし
花の塵はなれし枝の影を載す
横浜の小径まがれば花辛夷
菜の花の向こうの富士を見降せり
てのひらを新樹の幹に女学生
あす立夏山椒の苗を植えつけぬ
汁椀にますます蒼し山椒の芽
山法師樹下にランチを広げたり
迷い来て寺に泰山木の花
桐の花母と校歌を歌い継ぐ

 蜻蛉抄
てのひらを新樹の幹に女学生

 正子先生「選後に」より
てのひらを新樹の幹に女学生
 女学生と新樹がまぶしい。女学生の柔らかなてのひらが、傷つくのもいとわないのだろうか、新樹の幹に触れている。

 一句鑑賞
中庭に木槿の白を散らしたり
 花木を植えて四季を感じられる閑静な中庭に真っ白な木槿が散っている。散っている木槿に静かによせて来る初秋の風情と涼しさを感じます。(康水さま)
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』四月号掲載作品

2014-03-17 20:00:00 | 俳誌「花冠」掲載作品
「雪一枚」
外套を叩き芝居の雪一枚
お元日寝衣寝具をまっさらに
凧揚の空に続く多摩川の空
ドアマンの手は冬晴を指しており
路地曲がり銀杏落葉の一色に
鰯雲ほどけ大きな青空へ
俎板に骨断つ音の冷やかに
裏返す鮃の白さ冬近し
風一陣過ぎ富士山に秋のいろ
野分中ときに閑かな音の来ぬ

 早梅抄
外套を叩き芝居の雪一枚

 正子先生「選後に」より
外套を叩き芝居の雪一枚
 外套を叩き軽く外出の埃を払うと、芝居のときに振りまかれた雪の一片がはらりと舞い落ちた。芝居の雪が作者のコートに降ったわけだ。 観客も芝居の中に取り込まれた格好で、さぞやよい舞台であったろう。

 高橋正子俳句鑑賞
立春のピアノの弦のすべてが鳴る  正子
 ピアノの鍵盤がすべて押されるのは、調律時くらいでしょうか。でも、その弦がいちどきに「すべて鳴る」瞬間があります。ピアニストも、倍音を聴き、弾かない弦を共鳴させるべく心を砕きますから、そのように響いたら嬉しいことでしょう。澄んだ陽と程よく乾いた空気の内に、弦の全てを鳴らすピアノ。こよなく明るい立春です。(ますみ)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』一月号掲載作品

2013-12-19 21:10:11 | 俳誌「花冠」掲載作品
「梨の荷」
秋風に洗濯物のやさしい色
秋澄みぬ橋の向こうの船までも
まるまると両の掌に茄子包まるる
梨の荷を積みトラックの走りゆく
吹き抜けをつらぬくほどに七夕竹
夕暮れの空澄みゆきて遠花火
白木槿その門口を掃きいたり

 帰燕抄
梨の荷を積みトラックの走りゆく
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』九月号(創刊三十周年記念号)

2013-09-10 20:00:00 | 俳誌「花冠」掲載作品
「スープ炊く」
花槐メトロ出口に降りそそぐ
堂々と咲きのぼるいろ立葵
新じゃがとバター香らせスープ炊く
獣医へと曲がりし角に額の花
額の花朝日に影を濃く映す
青梅雨を語るひと日よ伯父の来て
青あらし世界の回る音がする

花冠合同句集より
 自選十句「一葉忌」
雪礫空に返したくて放る
残る鴨みずから生みし輪の芯に
ものすべて光らせ来たる木の芽風
ラムネ飲むきれいに響くところまで
プールから花のタオルの中に入る
とんぼとんぼ向う山まで透き通る
刷かれきてここより鰯雲となる
水のいろ火のいろ街に秋燈
脱稿をこの日と決めし一葉忌
音立てて甲斐全山の芽吹きけり

 俳句と私
音大在学中に病を得ました。演奏はもとより多くの表現が困難となり、最短の詩とよばれる俳句へ心惹かれました。外出、会話、筆記のままならない私にとって、よすがはインターネット。検索で最初に辿り着いたこの句座が、行く手と重なったこと、奇跡のようです。おかげ様で私は俳句を、音楽に於いて目指した一直線のまま、変わらず進む世界と捉えております。花冠に出会い皆さまと勉強させて頂き、幸せに存じます。
コメント (1)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俳誌『花冠』八月号掲載作品

2013-07-12 20:33:32 | 俳誌「花冠」掲載作品
「夏蜜柑」
はつ夏や少年ピアノを弾き止まず
白ワインそそぎ煮詰める夏蜜柑
けさ晴れて沿道万緑となりぬ
緑蔭の先は明るき聖橋
葉桜の影を踏みおり仰ぎおり
梅雨に入る今年は忌日より早く
きらめきは白露草の蕊の碧

 夏潮抄
はつ夏や少年ピアノを弾き止まず

 正子先生「選後に」より
はつ夏や少年ピアノを弾き止まず
 ピアノの音とはつ夏が「少年」の初々しさを美しく仕上げている。少年の意志によってひき続けられるピアノ。「弾き止まず」に、ピアノ線のような強さがある。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする