負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

「知の崩壊」とかいって、いつの間にか世の中すっかり溶けてしまった。
「知」の復権に知的中高年よ、立ち上がれ!

「神性」が示される山を求める旅はフランスにもあった

2005年06月02日 | 詞花日暦
「至高点」という思想が、このような
風変りな冒険小説の形で開花した
――澁澤龍彦(仏文学者)

 ルネ・ドーマルといえば、仏文学の専門家が知っている程度で、日本語に訳されるなど稀代のこと。まして文学離れの現代人が読むことは想像だにできない。『類推の山』を書いた彼は、二十世紀初頭、シュルレアリスム運動の影響下に生き、一九四四年、三十六歳で死んだ。
 物語は、登山家、画家、言語学者、詩人など総勢八名が「類推の山」を目指し、海を渡る旅。ここでいう山は、天と地を結び、永遠の世界に通じ、「神性が人間に掲示される」通路。日本の補陀落渡海にきわめて類似している。そういえば、作中でインドの須弥山に言及しいている。
 作者は類似した山に旧約聖書のシナイ山、新約聖書のゴルゴタの丘などをあげるが、いまは力を失った平凡なものになっている。彼が求めるのは、まだ誰も知らない「宇宙が未知の眺望をもってその頂から見渡せる類推の山」である。旅の結末は書かずにおこう。山での神秘な体験はギリシャ以来のもの、近代人が技術や実用主義で見失ったものだという。