—2010 11 12 二人の場所—
医者に言われたとおり、3日間の入院を終えた蒼空は、学校の屋上にいた。
少し、いつもより早く家を出て、ゆっくりと歩いてきたのだ。
それでも時間が余ってしまい、教室にはやはり居づらいため、こうして今屋上にいる。
校門を生徒がくぐり抜けてくる。
この中に、自分の苦しみを分かるヤツなどきっと居ない。
両親を亡くした。
母は、刑務所に入っているはずだった。だが…。1年前のニュースでやっていた。警察官が、母を…相川瑠衣を殺したと。
母はもう、この世にいないと。
ずっと目を背けてきていた事実だ。
目を背けていないと、自分はきっと死んでしまう。
それに、今死んだら、虐められたのが原因で自殺と思われるかもしれない。そんな情けない話はない。
きっと今日は母が殺人者だと言うことが全校中に知れ渡っている。陰湿ないじめが始まる。
…あれは……。あの女だ。病院で会った…鈴木加奈…。
一人で、誰とも話さずに歩いてくる。俯きもせず、只まっすぐ前を向いて歩いてくる。
急いで屋上を飛び出す。階段を駆け下り、昇降口に向かう。
自分の靴が無くなっていた。
バカバカしいと思う。
高校生にもなって、どれだけ暇なんだ。
上履きのまま昇降口を出る。
まわりの視線が痛い。
「あ、今日登校してる。」「えっ死んだんじゃなかったの?」「幽霊かもよ~」
そんな言葉を無視して、前から歩いてくる鈴木加奈のもとに向かう。
まっすぐ前を見ているようなのに、商店場ボーッとしていそうな目だ。
「鈴木加奈さん」
声を掛けると、初めて気が付きましたとばかりに、キョトンと目を丸くする。
「あぁ、屋上の…」
どうやら俺は、『屋上の人』になっているらしい。苦笑を漏らしながら、この前の礼を言う。
「いえ、べつに…」言葉を濁す加奈に、そう言えばと思う。そう言えば、加奈もきっと、俺の母が殺人者だと言うことを知っている。これほど噂をねたましく思ったことはない。
噂で言うよりも…。どうせなら自分の口から言いたい。
「あの、俺の母親、人殺しなんです。相川瑠衣っていって…父も俺が幼い頃に死んだんで…」
両親共に、もう死んでいる。殆ど初対面に近い彼女に言ってどうなるというのだろう。
「へぇ。」
短い答え。他人のことなどどうでも良いというような…。やはり、似ている。
沈黙。いつの間にか、彼女の視線は、蒼空から外れていた。
だからといって、特別どこかを見ているわけでもなさそうだ。
「…相川蒼空と話してる人誰だろう…?」「見たことない顔だよね…」
いつの間にか二人は多くの視線に囲まれていた。それに気が付き、申し訳なく思う。自分と居ることによって、注目を浴びさせてしまった。ごめん、とあやまり、それじゃぁ、とその場を立ち去ろうとしたとき。
「…屋上…。あの場所、いいよね。一人になれて。」
呟くような加奈の声が耳に届いた。え、と聞き返す頃には、蒼空を見ていなかった。
昼休み。蒼空が屋上に行くと、鈴木加奈がフェンスにもたれ、空を見上げていた。
「一人になれる場所なのに…二人になっちゃったね…」
そっとそこに近づくと、蒼空に視線を向けないまま彼女は口を開いた。
苦笑混じりに言う加奈に、蒼空はそっと微笑んだ。
ふぅん。なんか二人、良い感じになってきてしまっていますが!?
させねぇよ。学校に蒼空君のファンが居るんだよ。二人をくっつける訳にはいかねぇんだ。
ごめんなさい。これを書いているときの消しカスの気持ちです。