■『裏庭』 梨木香歩 新潮文庫
《story》
丘のふもとのバーンズ屋敷。戦前には、英国の家族が暮らしていた。そこにはレイチェルとレベッカの姉妹がいた。レベッカは裏庭を自由に行き来出来た。戦争が激しくなり、バーンズ一家は帰国を余儀なくされた。そして数十年という長い年月が流れた。このバーンズ屋敷に庭は、高い塀に囲まれていたものの、通り抜ける場所があり、近所の子ども達の遊び場になっていた。照美と純の双子の姉弟も遊びにでかけたが、弟の純は池に落ち死んでしまう。しかし、不思議と母や父は悲しみを表さず、照美は違和感を感じていた。そんな中、バーンズ屋敷のことを話してくれていた友だちにおじいちゃんが病気になる。照美はそれをきっかけに、バーンズ屋敷に入り込むことになる。屋敷の中にあった鏡。それが裏庭に通じる入り口だった。
■頭の悪い私には難しい内容だった。キーワードは「裏庭」「双子」「きょうだい」だと思った。「裏庭」はあってはならない場所、心傷ついた人が逃げ込む場所、そんな気がした。行きたいと思うとき、それは表の場所(表の庭)から逃げ出したいと思っているとき。最後のエピローグでこんなことが書かれてあった。
「日本ではねえ、マーサ。家庭って、家の庭って書くんだよ。フラット暮らしの庭のない家でも、日本の家庭はそれぞれ、その名の中に庭を持っている。さしずめ、その家の主婦が庭師ってとこかねえ」「なるほどねえ・・・・・。庭は植物一つ一つが造る、生活は家族の一人一人が造るってことですかねえ。深い、重みのあることばです」
照美が求めていたものは「家庭」・・それを取り戻すための旅だったのだと思う。心の傷を癒すだけではだめ。逃げていてはだめ。自分から進んでつかまなくては。照美の冒険と同時に、照美の母もまた、その祖母も似たような傷をかかえていた。続く傷。今のままでは、まだまだこれからも続く。新しい庭造り、それが新しい生きる大地となる。本当は裏庭なんかいらないんだ。真正面から家族が向き合うことで、素晴らしい庭ができるんだ。だからこそ、ファンタジーとはいえ、この異次元の世界はどろどろしたもので、ここから抜け出すことが新しい庭造りにつながっていくのだと思った。