

中沢けい

新潮社文庫 514円

2003年初版 2000年作品
『楽隊のうさぎ』 2007.8.21
克久は小学校時代からいじめにあい、できるだけ学校にはいたくないと思っている内気な男の子だ。中学に入った早々、「君、吹奏楽部に入らないか」と声をかけられた。そんなに入りたいとは思わなかったけど、ひょんなきっかけで入部することになってしまった。ここの吹奏楽部は全国大会に出るほどの森勉率いる力のあるクラブだった。50人を越える部員。それぞれのパートに分かれ、朝の練習、放課後の練習、そして夜遅くまでの練習、休日も練習。でも、克久は、先輩や仲間に囲まれ、次第に夢中になっていく。

放課後、学校全体に鳴り響くトランペットの音。校舎の各階で、同じ楽器どうしが集まって練習している光景を何度も見てきた。何が楽しいのだろうと、ふと思うこともあった。でも、それは音をただの雑音にしか思ってなかった自分がそう思っただけ。音の違いがわかる耳や心があれば、長い時間をかけて作り出している音がわかる。音痴な私にはわからないが、この本を読んでいると、まるで自分が音がわかっているような錯覚におちいる。不思議な感覚。青春を謳歌しているようなすがすがしさでいっぱいになる。
克久は本当にいじめられていたのかと疑いたくなる。もしかしたら、自分の力を発揮する場が見つかるかどうかで、同じ人間が180度ちがうのかもしれない。私もそんな場に出会うことができたら、自分が生き生きとしていることに気づくだろうな。
ところで「うさぎ」って何なのだろう。裃を着ておじぎをする「うさぎ」・・
きっと自分をどん底に陥れないピエロのような存在かな。自分の心の中だけだったら、自分を責め過ぎたり、人を恨みすぎたり、自分一人だけで閉じこもったりしてしまう。そうならないための、とぼけたピエロ。少し自分をちゃかすことで、自分を笑って見ることができる。もうひとりの自分かもしれないな。きょとんと止まってこちらを見つめるうさぎは、猛獣でもないし、すばやく逃げてしまう見えないものでもないし、愛嬌があってとぼけている。それが返って自分を前向きにさせてくれているようだ。私の心にもうさぎにいてもらおうかな。