真実を求めて Go Go

今まで、宇宙についての話題を中心に展開してきましたが、今後は科学全般及び精神世界や歴史についても書き込んでいきます。

「レベル1マルチバース」その2

2014年05月09日 | 宇宙

 ところが、アインシュタインの重力理論は、この直観的理解に疑いを差しはさんだ。もし空間が凸の曲率を持つか、位相幾何学的に特異な形をしているなら、空間は有限でありうる。球形やドーナツ形(1つ穴)、あるいは8の字形(2つ穴)の宇宙なら、体積には限りがあるものの端はない。

 宇宙マイクロ波背景放射の観測によって、こうした可能性を詳しく調べられるようになった。しかしこれまでのところ、結果は否定的である。観測データは空間が無限であるとするモデルを支持しており、有限モデルには厳しい制約条件がつく。

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図4:WMAPによる観測データ

 宇宙に関する観測結果によると、私たちが観測可能な宇宙の外側でも、空間はどこまでも広がっていると考えられる。WMAP(ウィルキンソン宇宙マイク口波非等方性探査機)がマイク口波背景放射のゆらぎを観測した最近のデータでは、最も大きなゆらぎでも角度にして約0.5度にすぎなかった(図4)。

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図5:空間が無限である証拠

 これを幾何学的に解釈すると、 空間は非常に大きいか無限であることを示している(図5左のグラフ)。ただし異論もあり、グラフ左端部分に見える観測データ(黒)と理論値(緑)の不一致が、空間が有限であることの証拠だと考える宇宙論研究者もいる。このほか、WMAPや2dF銀河赤方偏探査(英国とオーストラリアが共同で進める宇宙観測計画)を通じて、宇宙空間は大規模スケールで見るとほぼ均一に物質が分布していることがわかった(図5右のグラフ)。これは、他の宇宙も私たちの宇宙と基本的には似たものであることを意味している。

 上で示したものとは別の可能性として、「空間は無限だが、物質は私たち周辺の限られた領域に閉じ込められている」という考え方がある(島宇宙モデル)。同種の考え方として、広い範囲を見るほど物質の分布はまばらになり、全体としてフラクタルなパターンを描いているとするモデルもある。いずれの場合も、レベル1マルチバースを構成する個々の宇宙は、ほとんどが空っぽで変化のないものになる。

 しかし、銀河の3次元分布やマイクロ波背景放射を調べた最近の観測結果から、大きなスケールで見ると物質は単調・均一に分布しており、10^24mを超えるような構造は明確には存在しないことがわかった。このパターンが続くとすると、私たちの観測可能な宇宙の外側にも惑星や恒星、銀河が満ちあふれていることになる。

 レベル1並行宇宙にいる観測者はいずれも私たちと同じ物理法則を体験するが、その初期条件は異なる。最新の理論によると、ビッグバン初期に物質はある程度の不均一さを持ったまま広がり、その結果さまざまな分布を取るようになった。私たちの宇宙は物質分布がほぼ均一で、初期の密度ゆらぎは10万分の1程度だったとみられるが、宇宙論研究者はこれがごく典型的な宇宙の例だと考えている。

 この考え方によると、「もう1人のあなた」のうち最も近いものは10×10^28乗メートル離れたところにいる。また、私たちが今後100年間に観測する事象は私たちを取り巻く半径100光年の球の中で起きているが、これと同じ球が約10×10^92メートル彼方にもあり、その中心では私たちが観測するのとまったく同じ事柄が観測される。さらに、10の10^118乗メートル先には、私たちの宇宙と完全に同じハッブル体積が存在するだろう。

 以上は極めて控えめな推算で、ハツブル体積の温度が10^8K(Kは絶対温度)を超えないとして、その中に含まれる量子状態の数だけをもとに導き出した結果である。そのような温度のハツブル体積に何個の陽子を詰め込めるかを考えると、答えは10^118個となる。これら粒子の1つひとつが実際に存在するかしないかによって、2の10^118乗通りの配置がありうる。

 そこで、2の10^118乗個のハッブル体積が収まる箱を考えると、すべての可能性はこの箱の中に尽くされることになる。この箱の大きさは概算でざっと10の10^118乗メートルだ(前回ブログの図3参照)。箱の外側では、私たちの宇宙を含め、宇宙が繰り返す。熱力学や量子重力理論によって宇宙の総情報量を見積もった結果からも、ほぼ同じ数字が導かれる。

 もっとも、惑星の形成や生物の進化が都合よく起きたとすれば、この数字よりもずっと近いところに「もう1人のあなた」が存在するだろう。私たちの宇宙には生物がすめる惑星が少なくとも10^20 個はあり、地球によく似た惑星もあると考えられるからだ。

 レベル1マルチバースの枠組みは宇宙論の最新理論を検証するのによく利用されている。例えばマイクロ波背景放射の観測結果から「有限で閉じた宇宙」はありえないと結論づけられた例を考えよう。背景放射の分布を図に描くと温度の高い領域と低い領域のスポットができるが、これらの大きさは空間の曲率に依存した特徴を示す。実際に観測されたスポットは宇宙が「閉じた球」であるには小さすぎた。

 ただし、厳密に考えると別の可能性も残る。別のハッブル体積では、こうしたスポットの平均サイズもまちまちに変わるから、私たちの宇宙が例外的である可能性もある。実は閉じた球形なのだが、たまたま異常に小さいスポットしか見られないのかもしれない。宇宙論研究者たちが「99.9%の確度で球形宇宙モデルはありえない」といっているのは、「そのモデルが正しいとすると、私たちが観測したよりも小さなスポットを示す宇宙は1000個に1個以下だ」という意味になる。

 ここからわかるように、私たちは別の宇宙を見ることはできないが、それでもマルチバース理論が正しいかどうかを検証できる。どのような並行宇宙の集合が存在するかを予測し、その確率分布を特定することが重要である。私たちの宇宙は妥当でごくありふれた宇宙であるはずだが、もしそうでないとすると、私たちはマルチバース理論が示す“ありそうもない宇宙”に住んでいることになり、理論そのものが行き詰まってしまう。これは「測度問題」と呼ばれ、非常に厄介な問題となる。


「レベル1マルチバース」その1

2014年05月09日 | 宇宙

 物理学はかつては空想と見なされていたような抽象的な概念をも取り込みながら、その世界を広げてきた。丸い地球、目に見えない電磁場、高速運動における時間の遅れ、量子状態の重ね合わせ、曲がった空間、ブラックホールなどはそうした概念の例である。当然、マルチバースの考え方もその中の一つである。

 マルチバースは、相対論や量子力学といった確固たる理論を基礎にしているうえ、経験主義科学の基本をなす2つの特徴を備えている。つまり、理論に基づいて何かを予測することができ、また、それ自体が誤りだと立証される余地も残している。その発想は、これまで挙げてきたマルチバースのように複雑なものではなく、ある意味で、宇宙の「定義」を見直すようなものだと言える。

 アメリカのマックス・テグマークが提唱する「並行宇宙」の考え方は、「因果関係を持てる空間だけを同じ宇宙だと考えよう」と言っている。すなはち、光の届かない「事象の地平線」より向こうの空間とは因果関係を持つことはできない。そして、その場所は時空がつながっていても、情報や物質をやり取りすることができません。

 宇宙に関する最近の観測結果からさまざまなことが予想され、並行宇宙の考え方もその1つです。観測によると空間は無限に広がっていて、無限の空間のどこかでは、いかにあリそうにもない事柄であっても、可能性のあるものなら現実となる。私たちが望遠鏡を使っても観測できない外側には、 私たちの宇宙とそっくりな別の宇宙空間があり、これが並行宇宙の一つで、この種の並行宇宙までの平均距離を計算することも可能なのです。

 では、現在の宇宙で私たちが因果関係を持てるのはどこまでなのか。テグマークによれば、その領域は差し渡し420億光年程度です。つまり、私たちは420億光年先までの光は見ることができるということになります。

 これを聞いて、違和感を抱いた人もいるでしょう。なぜなら、宇宙の年齢は、138億年であり、私たちが見ることのできる「最古の光」は宇宙の晴れ上がりと同時に直進したCMBですから、それは138億光年先に見えるはずです。しかし、それを考えるときには、宇宙が膨張していることを計算に入れなければなりません。138億年かけて光が飛んでいるあいだに、その空間は広がっているので、距離は伸びている。それを含めて計算すると、138億年前に出た光は、約420億光年先まで遠ざかっていることになるのです。

 テグマークは、この420億光年の幅を持つ空間が「私たちの宇宙」だと考えました。それより遠い場所は、空間的にはつながっているものの、因果関係を持つことができないのだから「別の宇宙」と考えてよいのではないかと言うのです。

 宇宙の広がりに思いを馳せたとき、誰しも一度は「その外側には何があるのだろう」と考えたことがあるでしょう。テグマークに言わせれば、私たちの宇宙は420億光年先までで、その「外側」には同じような宇宙がたくさんあります。また、それだけではなく、テグマークの仮説が何よりもユニークなのは、その因果関係を持てない無数の宇宙の中に、「この宇宙」とまったく同じ宇宙があるのではないかと考えたところです。

 このような並行宇宙は物理的に信頼のおける考え方であり、未確認の理論まで考慮に入れると、 私たちの宇宙とはまったく特性が異なる宇宙や、物理法則が異なる宇宙も存在しうるというのです。こうした宇宙を想定することで、私たちの宇宙そのものが持つさまざまな謎や時間の本質、私たちが物理的世界をなぜ理解可能なのかといった根本的な問題に答えることもできるかも知れません。

 並行宇宙のタイプには、これまでに次のような4タイプもの異なる並行宇宙が提唱されています。
レベル1:私たちの宇宙の外側に
レベル2:インフレーションが生む無数の泡宇宙
レベル3:量子の多重世界
レベル4:数理的構造そのものが宇宙


●レベル1::私たちの宇宙の外側に

 先に触れたように「別のあなた」が住む宇宙が数多く存在する。これら宇宙の集合体が「レベル1マルチバース」で、最も異論の少ないタイプである。

 「レベル1マルチバース」の並行宇宙のうち最も単純なのが、私たちから遠すぎるためにまだ見ることのできない空間領域があるという考え方である。現在、私たちが見ることが可能な最も遠い場所は約4×10^26m、約420億光年離れた場所で、この距離はビッグバン以降に光が移動した距離に相当する(138億光年よりも大きいのは宇宙膨張の効果によって距離が引き伸ばされるため)。
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図1:ハッブル体積
ハッブル体積とは、宇宙膨張の後退速度が光速未満となる宇宙の体積である。ハッブル体積に含まれる3次元の宇宙の大規模構造を示す。この尺度では、数多くの超銀河団は微粒子のように見える。おとめ座超銀河団(天の川のある超銀河団)は、ハッブル体積の中心にあるが、小さすぎて見えない。

 観測可能な宇宙は「ハッブル体積」や「地平線内体積」などとも呼ばれるが、単に宇宙といえば普通はこのことである。同様に「もう1人のあなた」が住んでいる惑星にも、それを中心として球状に広がる宇宙がある。これが最も簡単な「並行宇宙」の例だ。それぞれの宇宙はもっと大きな「マルチバース(多宇宙)」の一部にすぎない。

 レベル1の並行宇宙はどれも基本的には私たちの宇宙と同じだが、初期の物質配置の違いによって差が生じる。

 現在は見えなくても、別の視点に移動すると見えるものなら、私たちはその存在を受け入れられる。水平線の向こうから姿を現す船が一例で、この場合はただ待っているだけで見えてくる。「宇宙の地平線」の彼方にある物体も、これに似た状況だ。観測可能な宇宙は1年間に1光年の割合で広がっている。より遠いところから発した光が届くようになるからだ。宇宙地平線の外側には無限が広がっており、私たちに観測されるのを待っている。

 あなたは「別のあなた」が視野に入るよりもずっと前に死んでしまうだろうが、観測可能な宇宙は時とともに広がり、さらに宇宙自体が膨張を続けるとすれば、どんどん遠くのものが見えるようになる。原理的には、あなたの子孫たちが非常に高性能の望遠鏡を使って「別のあなた」を観測できる時が来るだろう。

 そして、“そっくり宇宙”までの距離は、下の図2・3のようにあらわされる。
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図2:模擬的な宇宙の例

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図3:私たちの宇宙に当てはめると?

 レベル1マルチバースの存在はむしろ当然だといえる。そもそも、空間が有限だなどと、どうして考えられようか。「空間ここにて終わり――段差に注意」と書いた看板がどこかに立っているとでもいうのだろうか。だとしたら、その先には何があるというのか。