真実を求めて Go Go

今まで、宇宙についての話題を中心に展開してきましたが、今後は科学全般及び精神世界や歴史についても書き込んでいきます。

「レベル3マルチバース」

2014年05月12日 | 宇宙

 レベル1と2のマルチバースは天文学者も手が届かないような遠く離れた並行宇宙だった。これに対し、レベル3のマルチバースは私たちのすぐそばにある。そしてそれは、量子力学の「多世界解釈」から生じるマルチ世界である。多世界解釈では、ランダムな量子過程によって宇宙が複数のコピーに分岐し、そのいずれもが現実になりうると考える。

 20世紀初め、量子力学の理論は物理学に革命を起こした。古典的なニュートン力学の法則に従わない原子の世界を説明することに成功したのだ。しかし一方では、量子力学の意味するところをめぐって激論が持ち上がった。

 量子力学では粒子の位置や速度といった古典的な事柄に基づいて宇宙の状態を記述するのではなく、波動関数と呼ぶ数学的実体を使って記述する。シュレーディンガー方程式によると、この状態は数学用語で「ユニタリー変換」と呼ぶ様式に従って変化を続ける。これは、ヒルベルト空間という無限次元の抽象的な空間の中で、波動関数が回転するということだ。量子力学的世界は本来がランダムで不確定であると説明されることが多いが、波動関数の変化はランダムでも不確定でもなく、決定論的なものだ。

 1920年代の物理学者たちは、対象が観測されると同時に波動関数が古典的な確定状態へ「収縮」すると仮定した(コペンハーゲン解釈)。これによって観測の問題にはうまく説明がついたが、量子力学に本質的な不確定さがつきまとうことはかわらない。

 その後、1957年にプリンストン大学のエヴェレットは、量子論によれば古典的実体はさまざまな実体の重ね合わせへと分岐していくが、観測者にとってはこの分岐がわずかなランダムさとなって確率的に見えるにすぎない。その確率が、かつての収縮仮説から導かれる結果とぴったり一致する。こうした古典的世界の重ね合わせがレベル3マルチバース(量子の多重世界)でる。

 エヴェレットの多世界解釈は論理的にも最も明解な解釈であるが、専門家にも難解なものとされてきた。しかし、理論を考察するうえで2つの視点があると考えれば理解しやすい。1つは数式を使って研究する物理学者の視点あり、これは鳥が上空から全景を見渡すようなもので、「外部からの眺め」といえる。もう1つは数式が記述する世界の中にいる観測者が見る「内部からの眺め」である。鳥とは違って、自分自身が風景の中にいる蛙の立場に例えられる。

 鳥の視点から見たレベル3マルチバースは単純で、ただ1つの波動関数が見えるだけである。この波動関数が時とともに穏やかに、しかも決定論的に変化していく。分裂したり併存したりはしない。波動関数の変化によって記述される抽象的な量子世界は、その内部に古典物理学では記述できない多くの量子現象を含むのことはもちろん、古典的な事象の系列をたくさん含んでいる。そして、どんな事象が起きるのかという“物語の筋”が分裂と融合を繰り返す。

 一方、蛙の視点からは、こうした全体像のごく一部しか認識できない。自分がいるレベル1宇宙が見えるだけである。レベル3並行宇宙にいる自分のコピーは、「量子デコヒーレンス」という過程のせいで見えなくなってしまう。量子デコヒーレンスとは、量子系の干渉が環境との相互作用によって失われる現象で、波動関数がユニタリー性を保ちつつ収縮する過程と同じである。

 観測者が何らかの判断を下す時には、脳の中で量子効果が働いて結果の重ね合わせ状態が生じる。例えば「この記事を読み続ける」と「読むのをやめる」との重ね合わせだ。ある人が何かを決定するという行為を鳥の視点から眺めると、その人が複数に分裂して見える。記事を読み続ける人と、読むのをやめてしまう人に分かれて見えるのだ。しかし当事者は蛙の視点に立っているので、分裂したもう1人の自分の存在には気がつかず、単なる不確定さとして感じる。読み続けるかどうかは、確率の問題となる。

 以上の話は奇妙に思えるかもしれないが、これとまったく同じ状況がレベル1マルチバースの中でも生じる。あなたはこの記事を読み続けると決めてくれたわけだが、遠く離れた銀河にいる「もう1人のあなた」は最初の段落を読んだだけで放り出した。レベル1とレベル3の違いは、「もう1人のあなた」がどこにいるかという点だけである。レベル1の場合は、古き良き3次元空間のどこかにいる。レベル3の場合は、無限次元のヒルベルト空間の中、量子論的に分岐した世界にいる。

 レベル3の存在には1つの重大な前提がある。波動関数の時間的変化がユニタリーであるという仮定だ。これまでの実験では、ユニタリー性に反する例は見つかっていない。過去数十年、C60分子や長さ数kmの光ファイバーなど、大きな系でもユニタリー性が確認されてきた。ユニタリー性の問題はデコヒーレンスの発見をきっかけに理論研究も盛んになっている。

 量子重力論の理論家たちはユニタリー性を疑問視してきた。ブラックホールの蒸発に伴う情報の破壊は非ユニタリーな過程になるからだ。ブラックホールの事象の地平線近傍で生じる真空のゆらぎのためにブラックホールは黒体放射エネルギーを周りに放出し、しだいに質量を失ってついには消滅する(蒸発)。これに伴い、ブラックホール内に落下した情報も消失してしまうことになる。この情報の消失を避けようという理論的試みも進められている。

 しかし最近、ひも理論の研究で画期的な進展があり、「AdS/CFTコレスポンデンス」(負の宇宙定数を持つ反ド・ジッター時空(Ads)と、コンフォーマル変換に対して不変な場の理論(CFT)は相互に対応がつき、同等である)と呼ばれる考え方によって、量子重力もユニタリーであることが示された。だとすると、ブラックホールが情報を破壊することはなく、単にどこか別の場所へ転送しているにすぎない。

 物理現象がユニタリーなら、ビッグバン初期に量子ゆらぎがどのように働いたかという標準的な描像を改めねばならない。そうした量子ゆらぎからは無秩序な初期条件は生まれない。むしろ、考えうるすべての初期条件の量子的重ね合わせが生じ、そうした初期条件が同時に併存した。その後、これらがデコヒーレンスによって分岐を起こし、古典的に振る舞うようになった。


 量子力学の考え方によると、膨大な数の並行宇宙が存在する。ただし、「それがどこに存在するか」という点については、 解釈を拡張する必要がある。私たちが実感できる通常の空間ではなく、考えうるすべての状態を含む抽象的な領域の中に存在すると考えるのである。世界が取リうるすべての状態、量子力学的な意味での状態)の1つひとつが、異なる宇宙に対応すると考えられるだろう。こうした並行宇宙の存在は、波動の干渉や量子計算といった実験を通じて垣間見ることができる。

 あるハッブル体積(レベル3)の中での量子分岐への結果の振り分けは、ある量子分岐(レベル1)の中にあるさまざまなハッブル体積への結果の振り分けとまったく同じである。下の図は、「量子のサイコロ」によって表現した、「エルゴード性」と「時間の本質」を描いたものである。また、量子ゆらぎが持つこの特性は統計力学用語で「エルゴード性」と呼ばれる。

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図:レベル3マルチバース
エルゴード性:エルゴード性の原理によると、量子並行宇宙はもっと平凡なタイプの並行宇宙と等価である。1つの量子宇宙はやがて状態が確定した複数の宇宙に分岐する(左)。しかし、こうして新たに生まれた宇宙は、どこか別の空間(右、図ではレベル1マルチバース)にもとから存在していた並行宇宙と変わらない。さまざまな事象がどんな順序で起きるのかを体現したものが並行宇宙だと考えるのがホイントである。この考え方はどんなタイブの並行宇宙にも当てはまる。
時間の本質:普通、時間は変化を記述するための手段と考えられることが多し、物質はある瞬間にある配置を取り、次の瞬間には別の配置になるという具合である(左)、しかし並行宇宙の概念では別の見方ができる。考えうる物質配列が一連の並行宇宙の中にすべて含まれているなら(右)、時間とはこれらの宇宙に順番をつけるやり方にすぎない。個々の宇宙は静的なもので、変化は幻想ということになる。もっとも、この幻想は興味深いものではあるが。

 同じ理屈がレベル2にも当てはまる。対称性の破れによって生じる結果は唯一のものではなく、すべての結果の重ね合わせとなり、これが速やかに分岐する。だから、もし物理定数や時空の次元などがレベル3に生じる量子分岐の間で異なるなら、レベル2並行宇宙の間でも同様に異なるだろう。

 言い換えると、レベル3マルチバースはレベル1やレベル2となんら変わらない。同じ多数の宇宙が、より見分けにくい形で現れているだけである。別の量子分岐の中で、同じ“物語の筋”が何度も何度も繰り返される。このように考えると、エヴェレットの理論に関して巻き起こった議論も、比較的議論の少ないマルチバース(レベル1と2)の考え方によってあっけなく終息するように思える。

 レベル3マルチバースが意味するところは深遠で、物理学者たちはその意味を探り始めたばかりである。例えば“物語の筋”が分裂するなら、「宇宙の数は時とともに指数関数的に増えていくのか」という疑問がある。意外なことに、答えは「ノー」である。

 鳥の視点からは、もちろん1つの量子宇宙が見える。蛙の視点からは、その瞬間に区別可能な宇宙の数が問題になる。惑星の位置が異なっている宇宙や、あなたが誰か別の人と結婚しているような宇宙などである。量子レベルでは、温度が10^8K以下なら10の10^118乗個の宇宙が存在する。これは膨大な数ではあるが、有限である。

 蛙の視点では、波動関数の変化はこれら10の10^118乗個の状態の1つから別の1つへと移る果てしない流転に相当する。いま、あなたは宇宙Aにいて、この文を読んでいる。しかし、次の瞬間には別の宇宙Bに移り、いま現在は宇宙Aにいた場合とは別のこの文を読んでいる。宇宙Aも宇宙Bも同一の観測者を含んでいるのだが、宇宙Bにいる観測者のほうが少しだけ記憶が多い。

 存在しうるすべての状態があらゆる瞬間ごとに存在し、時間の経過はそれを観察することによって実感されるのかもしれない。この考え方はイーガンが1994年に著したSF小説『順列都市』に見られるほか、英オックスフオード大学の物理学者ドイチュや独立の物理学者バーバーらが発展させたものである。このように、並行宇宙の考え方は時間の本質を理解するうえでも不可欠となるだろう。


「レベル2マルチバース」その2

2014年05月12日 | 宇宙

 さて、次はさまざまなレベル1マルチバースが集まった無限集合を下の図1に示す。個々のレベル1マルチバースを比較すると、時空の次元や物理定数の値が異なっている場合もある。

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図1:レベル2マルチバース
インフレーション理論からは、レベル1よりもやや精巧な別種の並行宇宙の存在が浮かび上がってくる。私たちのレベル1マルチバース(私たちの宇宙とそれに隣接する空間領域)は泡のようなもので、これがより大きな、ほとんど空っぽの空間に埋め込まれているという考え方である。空間の中には別の泡があり、私たちの泡とは切リ離されている。雲の中の水滴のようなイメージである。こうした核ができる際、それぞれの泡では量子場が異なるため、他の泡とは異なった特性が生まれる。

 また最近注日のインフレーション理論の改良版の一つで、もともと空間は真空のエネルギーの高い状態にあり、いたるところでこの真空のエネルギーがカオティックに転げ落ちることで多くの宇宙が作られるとした「カオス的永久インフレーション理論」は、こうしたマルチバースの存在を予言している。

 この理論は、落下の遅い場所の空間はインフレーションを続けてどんどん体積も増えるので、全空間の真空のエネルギーが落下して消えることはない。したがって、大きな空間スケールで見ればインフレーションは永遠に続き、そこから常に新たな宇宙が作られ続けるとする理論である。これらマルチバースの集合体が「レベル2マルチバース」を形作ることになる。

 インフレーション理論はビッグバン理論を拡張したもので、宇宙がなぜこんなにも大きく、均一で平坦なのかなど、ビッグバン理論では未解決だった問題に決着をつける考え方である。宇宙誕生の際に空間が急激に広がったとすると、こうした問題に一挙に説明がつく。空間の急拡大は素粒子の理論などから予言され、これを支持する証拠も得られている。

 「カオス的永久」という形容は、非常に大きなスケールで生じる出来事を指している。空間は全体として永久に膨張を続けるが、その中のいくつかの領域は拡大をやめ、個別に「泡」のような構造を作る。発酵して膨らんだパン生地の中に気泡ができるのに似ている(図2参照)。こうして無数の泡ができ、それぞれがレベル1マルチバースの“タネ”になる。泡の大きさは無限で、物質によって満たされている。物質はインフレーションの原動力となったエネルギー場によって生じたものである。

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図2:泡の生成
ある種の量子(インフラトン)の場が空間の急激な膨張を引き起こす。空間の中では、ランダムなゆらぎが存在し、この量子場はなかなか消えずに残る。しかし、ある領域では量子場が弱まり、膨張が緩やかになる。こうした領域が泡になる。

 これらの泡は、地球から光の速度で旅しても永久にたどり着けないという意味で、“無限の彼方”にある。泡と泡の間の空間が急速に広がり、私たちがいかに速く旅しようとも追いつかないからだ。私たちの子孫も、他のレベル2マルチバースに住む「もう1人の自分」を見ることはできない。また同様の理由で、レベル1マルチバースでも膨張が加速しているなら、「もう1人の自分」を見ることはやはり不可能になるだろう(最近の観測結果は宇宙膨張の加速を裏付けている)。

 レベル2マルチバースはレベル1よりもずっと多様だ。それぞれの泡は初期条件が異なるだけでなく、常識的には不変に思える自然の本質までもが異なっている。

 現代の物理学では、時空の次元や基本粒子の性質、数々の物理定数などが物理法則に組み込まれているのではなく、「対称性の破れ」と呼ばれる過程の結果として生じたと考えるのが一般的である。例えば私たちの宇宙にはかつて9つの空間次元があり、それらは対等の関係にあったと考えられている。宇宙のごく初期に、うち3つの次元が宇宙とともに膨張し、いま私たちが見ているような3次元空間になった。残り6つの次元は現在では観測できない。これらがドーナツ形の位相構造として極微の世界にとどまっているか、9次元空間中の3次元の膜(ブレーン)にすべての物質が閉じ込められてしまったかのどちらかだ。

 このように、複数な次元の間に存在していた本来の対称性が破れた。カオス的インフレーションを引き起こした量子ゆらぎが原因で対称性が破れたのだが、このゆらぎが泡によって異なったとすれば、対称性の破れ方も異なった可能性がある。ある泡では空間が4次元となり、別の泡は3世代ではなく2世代のクォークしか含まず、またあるものは私たちの宇宙よりも大きな宇宙定数を持っているのかもしれない。

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図3:レベル2マルチバースが存在する証拠?
宇宙論研究者たちは私たちの宇宙の特性を精査した結果、レベル2マルチバースが存在すると推論している。根拠となる特性とは、自然界に働く力の強さ(上の左図)や観測される時空次元(上の右図)などである。これらは私たちの宇宙が誕生したときにランダムな過程によって確立したが、結果的には私たち生命が存在しうる値になっている。これはとリもなおさず私たちの宇宙とは異なる値をもつ別の宇宙の存在を示唆している。

 レベル2マルチバースの誕生をめぐっては、もう1つ別のシナリオも考えられる。個々の宇宙が生まれ、そして滅びていく循環過程によるという考え方である。スタインハートとテュロックが提唱するモデルによると、私たちの宇宙と文字通り平行な3次元のブレーンがもう1つあり、より高次元の世界の中でこれらが隔てられているにすぎないというものである。

 この並行宇宙は私たちの宇宙と相互作用しているので、実は別物とはいえない。しかし、これらブレーン宇宙の集合は1つのマルチバースといえ、おそらくカオス的インフレーションからできる宇宙と同様な多様性を備えているだろう。一方、ペリメター理論物理学研究所のスモーリン はこうしたブレーンではなく、ブラックホールを通じて新たな宇宙が発生し、やはり多様な特質を備えたレベル2マルチバースができるという考え方を提唱している。

 マルチバースの考え方が信頼を得るにつれて、物理現象の確率をどう計算するかという厄介な問題が無視できなくなってきた。この問題はレベル1マルチバースではまだ何とかしようがあるが、レベル2ではかなり深刻になり、レベル3、レベル4となると手がつけられなくなる。

 多数の観測者が互いに連結していない宇宙に分かれている場合、観測者たちに順番をつける自明な方法はない。ある統計的な重みづけ(数学では「測度」と呼ぶ)によって、 多数の宇宙から抽出するしかない。

 例えばタフツ大学のビレンキンらはレベル2マルチバースについてさまざまな宇宙論的パラメーターの確率分布を予測した。多数の宇宙が異なる膨張をし、その体積に比例して可能性が増えると考え、体積の大きな宇宙には統計的に大きな重みを与えた。しかし、無限に大きい宇宙が他よリ2倍の膨張をしたとしても、2 ×∞=∞だから、どちらが大きいかに客観的な意味はない。

 さらに、トーラス型の宇宙は体積は有限でも果てはないから、外の視点から見ても内から見ても、無限の体積を持つ周期的な宇宙と同じである。となると、小さな体積の宇宙に対する統計的重みを減らして本当にいいのだろうか? また、レベル2ではなくレベル1マルチバースを考えても、10の10^118乗メートルを超えるとハッブル体積の繰り返しが始まる(周期的ではなく、ランダムにではあるが)。

 私たちの宇宙は比較的単純で基本的な数理構造だと考えられるのだから、基本的な対称性の高い宇宙には大きな重みを付けるべきではないのか? さもないと私たちは偶然にも特別な宇宙に住んでいることになってしまう。測度を正しく把握するのはそう単純ではなさそうである。

 今の物理学者にできることは、選択効果を考慮に入れながら、何が観測されうるかの確率分布を計算することだけである。その計算結果は、私たちの存在と矛盾するような突飛なものではなく、ありふれたものであるはず?