『蕎麦がき研究入門』

知らない・映えない・バズらない。なのに昔からある食べ物“蕎麦がき”に今、光を当てます。普通に食卓に上がるその日まで。

チキンナゲットとタイ米

2020-07-30 19:45:00 | その他

毎月28日は「ニワトリの日」でケンタッキーがお買い得なセットを販売するらしく、一昨日初めて買いに行ってみた。細長い箱にはフライドチキンが数個と、ナゲットが入っている。ケンタッキーのナゲットというのは初めて食べたが、なかなか美味しい。


「ニワトリの日」から二日後の今日。今年の夏前半は涼しい日も多く、TwitterTLでは久しぶりにあの平成の記録的な冷夏の話題を目にした。


ナゲットと冷夏。私は中学2年生になる前の春休みを思い出していた。

✳︎

埼玉の祖母の家。祖母が「こんなもんでゴメンね」と謝りながら食卓に上げたのは、冷凍食品のナゲットと細長い粒のご飯だった。


私の両親は、私が小学校低学年の時点で既に修復が困難な関係に陥っていた。苦悩の末に母親は「義母を呼び寄せ同居してもらう」という奇策に打って出た。一般的に嫁にとって義母というのは決して居心地の良い存在ではない筈だが、当時の母はむしろ一緒にいてもらい父の様子を見てもらった方が良いと考えたようだ。後期ビートルズがビリー・プレストンを呼び寄せたようなものだろう。しかし、程なく父親はうちを出てしまい、義母(私にとっての祖母)と母、我々兄弟という奇妙な組み合わせの共同生活が始まった。


私は祖母に猛烈に可愛がられた。いや、「祖母は私を可愛がった」と言った方が正確かもしれない。私はそれを愛情だと理解できなかったから。「何より教育が第一」という考えの持ち主だった祖母は、毎日広告の裏に手書きの問題をみっちり書き込み、学校から帰宅した私はそれを全て解いてからでないと遊びに出られなかった。


また食べるものにも煩く、ポテトチップスなどは絶対に買ってもらえず、甘味といえば蒸した芋などが中心。晩ごはんも出来合いのものは決して食卓に上げず、塩辛でさえも毎回イカを捌いて取り出した肝を和えて作っていた。図工の時間に「ドーナツの絵を描くので見本として一人一個買ってきてください」と言われた時ですら、自分で手作りのドーナツを揚げていた。とにかく私には「本物」を与えたかったようだ。夏場の土曜日。お昼前に学校が終わり帰宅すると、祖母はよく真っ黒な汗をかいていた。祖母は「クーラーをつけるのは贅沢」と考えており、うだるような暑さの室内で白髪染めをしていたのだ。頬に黒い線を作りながら、「すぐにお昼作るからね」とソーメンを茹でる祖母が私は怖かった。


しかし、幼い私は学校から帰ったら一目散に遊びに飛び出したかった。既製品の人工甘味料たっぷりのお菓子が食べたかった。粉雪のような粉糖を纏ったドーナツを持って行きたかった。ソーメンよりカップラーメンが食べたかった。


ある日、読書が好きだった祖母が『温もりの〇〇』というタイトルの本を読んでいた。

「お婆ちゃん、温もりってなーに?」

「この家にないものだよ」


いつになく素っ気なく答える祖母の様子に、私はそれ以上質問を重ねなかった。程なくして、祖母は埼玉の家に戻ることになった。


暑い夏の日。私は友達とマンションの中庭で野球をしていた。


「お婆ちゃん、車に荷物を積み終わったよ。お見送りしなさい」


母親が私を呼びに来たが、私は頑として見送りに行かなかった。幾ら怖いという印象を抱いていたとはいえ、数年間ずっと面倒を見てくれた相手である。あの時、何故見送りに行かなかったのだろう?


✳︎


数年後。私は中学生になっていた。ブカブカだった学生服がちょうど良いサイズになり、2年生に進級する間近の春休み。


「どこか行きたいところある?」


と母親に聞かれた私は、埼玉の祖母の家に行きたい、と答えた。母親は明らかに嫌な顔をした。祖母の家には別居した父親も住んでいる。今から考えれば両親は既に離婚が成立していたか、成立する間近だった筈である。後年、「そのタイミングであんたをあの人のもとに行かせるのは怖かった」と母親は語ったが、さすがの私もその時点で二人が良くない関係にあることは理解していた。それでも私は祖母の家に行くのを望んだ。

一つには久し振りに父親と釣りがしたかった。父親は釣りの天才で、幼い頃から私は様々な技術や知識を叩き込まれた。そして、どういう訳か祖母に会いたい、という気持ちもあった。最後に別れの挨拶をしなかったことが、ずっと心のどこかに引っ掛かっていた。


母親は「一人で行くこと、帰りは迎えに行くからダラダラしないですぐ帰ること」を条件に渋々許可をした。


埼玉県某町。駅前に車で迎えに来ていた父親は、私を乗せるなりそのまま釣り場に直行した。街道沿いに立ち並ぶ山田うどんを幾つも通り過ぎ、田んぼ沿いの名もなき川に到着する。ヘラブナ釣り用の台座をセッティングして糸を垂らすと、面白いように釣れる。和竿で釣るフナというのは思いの外引きが強く、それほど大きなサイズでなくても本能を刺激する堪らない感触がある。


夕方。サイズの良い数匹を魚籠からバケツに移し、祖母の家に帰る。久し振りに会う祖母は少し小さくなっていたが、昔と同じように「よく釣れたね」と笑顔で出迎えてくれた。ひと目見てもらったら祖母の家の前の用水路に魚を逃すのも昔と同じである。「釣りの後はよく頭を洗わないとミミズが住み着くぞ!」。子供の頃と同じ脅し文句を投げてくる父親。祖母の家の風呂場は少し古くて、中学生になっても怖かった。何もかも変わっていなように思える。


風呂から上がると、三人で食卓を囲む。


「こんなもんでゴメンね」


謝りながら祖母が食卓に上げたのは、冷凍食品のナゲットと細長い粒のご飯だった。前年の冷夏が影響し、年が明けても連日米不足が報道されていた。いわゆる「平成の米騒動」である。どこから手に入れていたのか知らないが、私の家ではずっと国産米が食卓に上がり続けていたので、この時初めて、テレビを賑わしていたタイ米を目にしたのである。


当時「タイ米は不味い」と誰しもが口を揃えて批判していたが、これは国産米と特徴が異なるタイ米をいつものように炊飯器で炊いていたことが原因であると今では分かっている。しかし、当時初めてのタイ米を口にした私は、そもそも全く不味いと思わなかった。というより普段の米との違いすら分からなかった。単純に舌が馬鹿だったのだろう。


それよりも問題はナゲットだ。あの祖母が、まさか冷凍食品を使っているなんて。そのことの方が私には衝撃だった。最近は白髪染めもあまりしていないのだろうか?一緒に住んでいた時よりも、明らかに白いものが目立つようになっている。


「もっとちゃんとしたもの作りたかったんだけど」


しきりに謝る祖母。しかし、正直に言うと、私は手作りの塩辛や小麦粉を炒めて作るカレーより、よっぽどこちらの方が美味しく感じられた。しかし、とてもじゃないが、そんなことは言えない。


外は暗くなり始め、突然雨が降り出した。土壁の古い家は、湿気に満たされた。


それから数日間、食卓にはレトルト食品や冷凍食品が必ず並んだ。深夜、大声でうなされる祖母の寝言で必ず目が覚めた。


最終日。母親が迎えに来た。父親はどこかに出かけてしまっていた。玄関から中に上がらず、祖母に通り一遍の挨拶を済ませる母。中から出てきた私を見て少し安堵したような表情を浮かべた。


「帰りの電車、時間分かります?」


母が尋ねると、祖母は引き出しの奥から時刻表を取り出した。


「あ、時に一本来るね」

「なら間に合いますね」


僅かな滞在時間でそそくさと母親は別れを告げた。祖母は門まで見送りに出て、いつまでも私達に手を振っていた。祖母が私の家を去ったあの日、私もキチンと手を振るべきだった。


祖母が見えなくなって、私は


「お婆ちゃん、冷凍食品使ってたよ」


と母に教えた。母は


そう」


と短く答えた。遠くの方に駅が見える。突然一筋の光が真っ暗闇に包まれた新興住宅地を照らし出した。電車が駅に入っていく。祖母から伝えられた時間にはまだ、だいぶ時間がある。どうもかなり古い時刻表を見たらしい。


「まったく!だから田舎は嫌なのよ!」


母親は不機嫌な表情を浮かべそう吐き捨てた。私は(そんな言い方をしたらお婆ちゃんが可愛そうだな)と心の中で思った。

それが祖母に会った最後の日々である。


遂に完成!「蕎麦がき分類図」!

2020-07-25 19:40:00 | アレンジ蕎麦がきレシピ

どうも。蕎麦がき理論家、片手袋研究家の石井です。この写真は私が確立した「片手袋分類図」です。このブログの第2回で
簡単に触れて以降、当たり前のように「片手袋」とか「片手袋研究家」という単語を使ってしまっていますが、途中から読み始めてくださった読者の方々には何のことか意味不明ですよね。純粋に蕎麦がきへの興味から記事を読んで下さっているのに、所々訳の分からない地雷が埋まっているんですから、ご心中お察しいたします。
☆あらためて片手袋の簡単な説明を
これが「片手袋」です。よく道端なんかに落ちている、片方だけの手袋。そして嘘みたいな話ですが、私はそれを15年間、撮影や研究し続けています。その過程で完成したのが、「片手袋の分類法」であり先ほどの「片手袋分類図」です。簡単に説明致しますと、片手袋の分類は3段階を経て行われます。

・第1段階「目的で分ける」
落ちている片手袋が、もともとどんな目的で使用されていたのかで分けます。作業用なのかファッション用なのか、そういった違いで落ちている時期や場所に変化が表れます。

・第2段階「過程で分ける」
ここが一番重要なのですが、片手袋と聞いてみなさんが思い浮かべるのは道端に「落ちている」ものだと思います。それらを私は「放置型」と名付けました。落とし主や通行人に放置されたまま、寂しく忘れ去られているからです。しかし片手袋にはもう1種類あって、それを「介入型」と呼びます。

これが介入型です。これは放置型の片手袋を見つけた誰かが、落とし主が見つけやすいように目立つ場所に移動してあげることで発生するのです。落とし主以外の手が加わっているので、「介入型」です。片手袋は寂しいだけじゃなくて、人の温かみも感じるものなんですね。

・第3段階「状況・場所で分ける」
そして最後、放置型と介入型それぞれに発生しやすい場所や状況によって分けるのです。

以上を踏まえますと、例えばこれは「ファッション防寒類介入型三角コーン系片手袋」と分類できるのです。こういう研究を続けてきたのが私なのですが、もっと詳しいことに関しては昨年末に出版された私の著書、『片手袋研究入門』をぜひご覧になってください。

☆ずっと感じていたプレッシャー
そんな私が何故蕎麦がきの研究を始めたのかというと、「片手袋は誰もが一度は目にしたことがあるのに、誰もちゃんと追求する人がいなかった。蕎麦がきも昔から存在しているのに一度もバズったことがなく、誰もちゃんと向き合ってこなかった食べ物。つまり、片手袋と蕎麦がきは全く一緒!蕎麦がきをきちんと研究するのは私の使命である!」。こういう勘違いが元になっているんですね。でもだったら当然、皆さんはこう思いますよね?

「おいおい、じゃあさっさと蕎麦がきの分類図を見せろや!分類図もないのに研究なんて言えないし、片手袋と蕎麦がきが一緒だなんてよく言えたもんだな!ふざけんな、この豚!縄跳び膝ぶっ壊し野郎!」

ってね。あ、私、コロナ自粛で異常に太ってしまい、現在一生懸命縄跳びを頑張ってるんですが、自分の体が重すぎて膝がぶっ壊れてるんですよ。この罵倒を飛ばした人、随分私について詳しいですね。蕎麦がきに分類図が存在していないことは私もずっと気にしていました。でもなかなか「何を基準に各段階分けていくか?」が思いつかず、作成に着手できないままでした。

☆ようやくイメージが降ってきた!
でも、前回の「トマト蕎麦がき」を作ったことで、何か物足りないと感じていた選別基準に大事な要素が加わり、ようやく全体の構成が浮かんできました。そうなったら片手袋の経験もあったので、完成はあっという間でしたよ。まだまだ手直しが必要だし、デザイン能力が皆無なのでその辺ブラッシュアップしていきたいですが、今日はとりあえずのβ版を公開&ご説明致します。

こちらが「蕎麦がき分類図」です。片手袋の分類は3段階でしたが、こちらは4段階。順を追ってご説明致します。

第1段階「蕎麦粉」
蕎麦がきは「蕎麦粉と水」だけで作るシンプル極まりない料理。故に工夫の入り込む余地は材料の段階ではあまり多くありません。しかしこのブログで色々なレシピにトライしてみた結果、蕎麦粉自体にも手を加えることが可能になりました。

例えば蕎麦粉だけじゃなくて砂糖を加えてみる。あるいは粉チーズなんかを混ぜちゃう。


まだ試してはいませんが、二八蕎麦みたいに小麦粉を加えたり、白玉粉を混ぜたり、まだまだ実験は出来そうです。あるいは今までのレシピは全て二番粉を使用していましたが、三番粉で作ってみるのもありかもしれません。

第2段階「水分」
ここを前回のトマト蕎麦がきで思いついたんですよね。「蕎麦がきを作るとき、蕎麦粉に加えるのは水」という固定概念。これを覆せたのも、ブログを始めて良かった点です。

牛乳やトマトジュースでも蕎麦がきはできるし、何より美味しい!ここもまだまだ実験のし甲斐がありますよね。例えばカルピス原液で蕎麦がき作ったらどうなっちゃうんだろう…?

第3段階「味の方向性」
ちょっと漠然としてますが、これも重要だと思ってます。私は基本的に蕎麦がきは主食的なものだと思っていましたが、リモート蕎麦がきを経て「スイーツ的な可能性にも満ちてるんじゃない?」と気づきました。その結果、最近ではむしろ甘いレシピの方が増えてるかもしれません。便宜上「おかず系」「おやつ系」という分け方をしてみました。


第4段階「調理法」
最後に、どう調理するか?ここが一番工夫のし甲斐もあるし、可能性は無限大です。色々実験してみて何より驚いたのは、「蕎麦粉の味や個性の強さ」。

唐辛子ベースの辛いスープにぶっ込んでも、蕎麦がきの味が死なないんですよね。だから、むしろまだまだ全然無茶がたりてない気がしてます。今のところ「素(そのまま)・焼く・煮る・揚げる」しか入れてませんが、「蒸す」なんてのも良いですよね。

これで分類の完成です。作ってみて思ったのは「片手袋の分類図とはやや違うな」ということ。これは分類図というよりはチャートに近くて、上から順番に選択肢を決めていけば新しいレシピの作成もしやすくなりそう。あと「そうか、おやつ系のレシピで揚げるやつはまだ作ってないんだな」とか、これまでの実験に足りてない部分も分かりやすい。実際、分類図を作りながら既に幾つか試してみたいアイディアが浮かんできましたよ。「蕎麦がき作ってみたい!」って人に向けた手引書としても機能しそう。これをプリントしたクリアファイルとか良いかもな。

さあ、ようやく「片手袋研究家」に続いて「蕎麦がき研究家」を名乗っても良さそうな雰囲気が漂ってきました。だからどうか皆さん、私のことを「膝ぶっ壊れ豚野郎!」なんて罵らないで!

是非是非、皆さんも「蕎麦がき分類図」を活用してくださいね!

基本の蕎麦がき〜トマト蕎麦がき〜

2020-07-17 19:31:00 | アレンジ蕎麦がきレシピ
今回はちょっと番外編。というか前回気付いたことを再検証してみたいと思います

前回「蕎麦がきのトマトソース煮込み」を作りましたが、その際、「トマトソースなら蕎麦がきもトマト風味にするか」と軽い思いつきでやってみました。

具体的には蕎麦粉を水で溶いていたのを、トマトジュースでやってみたのです。このトマト蕎麦がきをトマトソースに投入する前に味見してみたら、これだけですごく美味しかったのです!なので今回は、基本の蕎麦がきのバリエーションの一つに加えるべく、このトマト蕎麦がきを改めてちゃんと作ってみます。

トマト蕎麦がき(2人前)
(材料)
蕎麦粉・・・・75g
トマトジュース(有塩)・・・150ml
パルメザンチーズ・・・・小さじ2
シュレッドチーズ・・・・ひとつまみ
塩、胡椒・・・少々


①蕎麦粉にトマトジュースを加え、よく混ぜる
②塩・胡椒、パルメザン、シュレッドチーズを順次投入し、よく混ぜる




③チーズが焦げないよう、普段よりやや弱火(とはいえ中火くらい)で掻いていく。

※今回はシュレッドチーズも入っているので焦げないよう、掻く手を休めず回し続けましょう。特に鍋肌を意識して大きく混ぜるのが大事です
④完成!

うん、やっぱりこれだけで食べてもすごく美味しい!チーズが入ってるのでただでさえモッチリした食感の蕎麦がきが、モッチリモチモチモチ!くらいに大変身!トマトジュースにチーズまで入れても、蕎麦粉の味が消えてないのも凄い。やはり蕎麦粉って相当個性の強い食材なんですね。ちょっと塩分を強めにしたら、本当にこれだけで十分、一品として成立する料理ですよ。

本当はもっとチーズ感を出したかったのでシュレッドチーズ100%にしたかったんですが、なんか焦げそうな気がして。そこでシュレッドチーズは程々にして、パルメザンを加えました。粉チーズなら火にかける前の段階である程度水分に溶け込むので、火加減さえ気をつければ焦がす可能性は低いと思います。チーズの種類は今後、モッツァレラとか色々試してみても良いですね。

今回はさらに、幾つか味付けを試してみました。

①オリーブオイル+塩

やっぱりイタリアンを想起させる見た目なので、シンプルにオリーブオイルから試してみました。案の定、バッチシです。最初から最後までトマト蕎麦がきだけで食べるのは飽きる、という人は用意しておいたら完璧だと思います。

②バター
個人的にはこれが一番美味かった!ただ、私はバターが異常に好きなバター野郎なので、ちょっとバイアスがあるかもしれません。

③タバスコ

まあ、これも合いますよね。普通にいけますよ。

④アヒージョ


ちょうどこの日の晩ご飯がアヒージョだったのでかけてみました。まあ、オリーブオイルと塩が合うんだから当然いけます。最初からアヒージョに投入して煮込んでみたらどうなるんだろう?それも美味しいかもしれない。油を吸いすぎちゃうかな?

今回、「トマト蕎麦がき」にたどり着けたことは、今後の『蕎麦がき研究入門』にとって大きな収穫となりました。だって蕎麦がきって基本的には、蕎麦粉と水だけで作る工程も味もシンプルな料理じゃないですか?なので今まではそこにどういう味付けを施すかを追求してきたわけです。しかし、まさか「水」の部分に工夫のしがいがあるとは。

考えてみればこれまでも、「蕎麦がきのパンケーキ風」「ミルク蕎麦がきぜんざい」のときは無意識のうちに牛乳で溶いていたりしたんですよね。この「蕎麦がき革命期」を迎えた今、「蕎麦がき研究」というからには取り組まなければならない、と思っていたあることにも着手できそうです。

まだまだやるべきことはたくさんあるぞ!

蕎麦がきアレンジレシピ〜蕎麦がきのトマトソース煮込み〜

2020-07-10 21:02:00 | アレンジ蕎麦がきレシピ

どうも。蕎麦がきトマトマン、片手袋研究家の石井です。この写真は私が調理師学校の卒業制作で提出した和食のコースです。テーマは「円・丸・球」。コースを構成する際には季節感、素材、味の組み合わせなどを考慮していくと思いますが、私は「形で考えられないかな?」と思ったのです。当時、私は球体というものに凄く惹かれていたので、このような提案をしました。勿論、お金を頂く料理屋では無茶な行為ですけど、卒業制作はある意味実験の場。同級生達もそれぞれ、創意工夫に溢れた料理を提出していて楽しかったです。

☆調理師学校で知った「学ぶ楽しさ
私は大学を卒業した後、働きながら夜間の調理師学校に通い調理師免許を所得しました。

今考えてみれば大学生の時ですら「学ぶ」ということに真摯になれず、「あんなに恵まれた環境だったのに、もっとちゃんとやっておけば…」と後悔しきり。もう遅いんですけどね。私が「知りたい・学びたい・やってみたいを追求してみる楽しさ」を心の底から実感したのは、その夜間の調理師学校だったと思います。

昼間部と違って夜間部は、自分の意思で入学を決意した方が殆ど。昼間は銀行で偉い立場にいるのに、夜は20代の助手の先生に頭を下げてる定年間近の男性、60代後半でおにぎり屋開店を決意した女性、なんかが集まってるので、座学も調理実習も真剣そのもの。

おまけに食べることが根っから好きな人達が集まってますから、日本各地の珍味を食べる会を開いたり、食関係のフェアに皆で行ったり、本当に楽しかったです。「学ぶ、ということに真剣な場と人」に恵まれたからこそ、私自身もその熱に反応してあらゆることを吸収出来た1年半でした。

☆伝説の一言
とはいえ、夜間部でも恐らく気が進まないまま入学してきたような若い子も僅かにいて。その中の1人、N君が授業中に発した一言を私はいまだに忘れられません。

N君は競馬が大好きで、休み時間はずっと競馬新聞を読んでいました。で、調理実習はともかく、座学の時は1番前の席にもかかわらず寝るか隠れて競馬新聞を読んでおりました。そんな態度を見兼ねたんでしょうね。ある日、栄養学の先生がN君を叩き起こしてこう聞きました。

「ほら、あなた!起きなさい!ビタミンAが豊富に含まれる緑黄色野菜、一つ答えなさい!
「んあ?」
「寝ぼけてんじゃないの!色がついた野菜よ。一つくらいあるでしょ?あなたが大好きなお馬さんの好物!」
「…飼い葉ですか?」

私、一連のやり取りを聞いていて、椅子から転げ落ちそうになりました。寝起きに急に馬が好きな野菜を聞かれて、「飼い葉」と答えたN君。彼の興味はたまたま料理には向いていませんでしたが、何かに熱中するという点においては称賛に値するのではないでしょうか?

☆どうしても慣れなかった工程
調理実習は「和食・中華・西洋」の三部門に分かれており、日替わりで世界中の様々な料理を作りました。

肉まんを皮から作ったり、「開口笑」なんて聞いたこともないようなお菓子を作ったり。勿論、昨今世間を賑わせてる「ポテサラ問題」じゃありませんが、別にコンビニやスーパーで売ってる惣菜で済ませることは決して悪いことなんかじゃないし、むしろ時間配分が難しい現代人なら積極的に取り入れていくべき。ただ、調理師を目指していた私としては、普段だったら一から作ろうなんて絶対に思わないものを作ってみる経験は非常に役に立ちました。

しかし、卒業までどうしても馴染めない工程がありまして。それは中華だったら、きゅうりの中心部の種の部分、西洋だとトマトのゼリー質の部分を料理によっては使わず処分すること。食感の悪さと水っぽくなるのを防ぐ為に、プロの味を追求するなら使わない、と頭では理解しても、最後まで心は拒否してましたね。

だからトマトを豪快に煮込む料理なんかは安心しますよ。そこまで細かいことを気にせず、丸ごと鍋にブッ込めますからね。

蕎麦がきのトマトソース煮込み(2人前)
(材料)
☆トマト蕎麦がき
蕎麦粉・・・50g
トマトジュース(有塩)・・・100ml
パルメザンチーズ・・・少々
塩、胡椒・・・少々

☆トマトソース
トマトホール缶・・・1個
トマトジュース・・・少々
玉ねぎみじん切り・・・半個
エリンギ・・・1本
ウインナー・・・5本
一口モッツァレラチーズ・・・1袋
バジル・・・少々
ニンニク・・・少々


①トマトソースを先に作る。フライパンにオリーブオイルとニンニクを入れ、ニンニクの香りが出るまで炒める。そこにみじん切りの玉ねぎを入れ、軽く色が付くまで炒める。

②ウィンナーとエリンギを投入。


③トマトホール缶を全て投入。具材と和えたらトマトジュースを少量入れて弱火で少し煮込む。火を止めて一旦置いておく。



④次にトマト蕎麦がきを作る。蕎麦粉に水の代わりにトマトジュースを入れる。ある程度かき混ぜたら塩、胡椒、パルメザンチーズを加えて再びよく混ぜる。




⑤ニョッキ風蕎麦がきの時のように一口大に丸めて、作っておいたトマトソースに投入。ソースを和えながら少し炒める。



⑥皿に盛り付けてからモッツァレラチーズを入れ、パルメザンとルッコラをまぶして完成!



ゴルゴンゾーラチーズのソースで和えた時にめちゃくちゃ美味かったんで、ニョッキとして使うのは美味しくなると事前位予想できてました。そして、案の定今回のトマトソースもすごく美味しかったです!ただ、重要なのはそこじゃありませんでした。

最近、妻に言われてたんですよ。「“研究”の割に実験が少なくて、置きにいってるんじゃないか?」って。だから今回のメインテーマはトマトソースではなくて、「水以外のもので蕎麦粉を溶いて蕎麦がきを作ったらどうなるか?」ってことでした。本当に今までやったことがない実験だったので。

当初はトマトジュースだけを入れるつもりだったのですが、ソースを煮込んで待ってるうちに何となく思いつきで塩、胡椒、挙げ句の果てにパルメザンチーズまで投入してしまいまして。

そうして出来た「トマト蕎麦がき」。

トマトソースに投入する前に、これだけをちょっと味見してみたんですが…。あのですね、これ、ソースに入れる為の一素材として素通りして良い代物ではありませんでした!これだけでメチャンコ美味かったんです!特にパルメザンを入れたのが効いていて、チーズパンのような濃厚さがありました。なんていうか、それこそ未来のタピオカとかチーズハットクになり得るようなポテンシャルを感じたというか…。なので、次回はちょっとこのトマト蕎麦がきをもう一度、きちんと作ってみたいと思います。

しかし改めて言いますが、今回の「蕎麦がきのトマトソース煮込み」はかなり美味しかったです。自信を持ってお勧めいたします!

それではまた次回。