紫苑の部屋      

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浮舟と夕顔ー中の品物語

2007-06-28 20:48:12 | 源氏物語
宇治十帖は
橋姫物語からはじまりました。
宇治の八の宮の忘れ形見の姉妹、大君と中君です。
八の宮を慕って宇治に通い詰めていた、柏木の遺児、薫君、
現帝の御曹司、匂宮、
この四人が織りなす恋の鞘当て、
各人の意思と実際のなりゆきが少しずつずれていって、
運命が大きく変わっていってしまいます。
中君と匂宮のカップルだけがいちおう成就しますが、
拒絶する女君である大君と薫はプラトニックラブで終わってしまいます。

故大君に完全に振り回され、立ち直れないでいる薫は、
その面影を中君に求めてしまいます。
困ってしまった中君が切り札を示すのです。
それが異母姉妹の「浮舟」です。
大君にそっくりなのですね。
形代としてあてがわれて登場するこの女君、
最初から寄る辺なくさまよう浮き草、です。

東屋の巻で浮舟は初めて声を発します。
若びたる声、と書いています。
でもここで初めて登場というわけではありません。
前の巻の宿木で、
浮舟(とそのお供の一行)が宇治橋のあちら(彼岸)から、こちら(此岸)へ渡ってくる、
という場面があります。
非常に象徴的な、登場の仕方です。
それ以降、中の君と薫の会話の中で語られてきた「浮舟」の存在、
東屋の巻で、浮舟は少しずつスポットライトに浮かび上がるように、
全貌をあらわしてきます。

匂宮に見つかってしまった浮舟が逃れた小さな別宅、
三条の家、…似てますねー、五条あたりの家、夕顔ですね。
浮舟は、大胆になった薫の思い人となります。
そして、後朝(きぬぎぬ)の描写、
 程もなう明けぬる心地するに
 鶏など鳴かで、大路ちかき所に
 おほどれたる(のんびりした)聲して…うち群れてゆくなどぞ、聞ゆる
やっぱり似てます…夕顔の後朝、
 葉月一五夜、隈なき月かげ 
 見ならひ給はぬ(見慣れていない、女の)すまひのさまも珍しきに、あかつき近くなりにける…
 隣の家々あやしき賎の男の聲々、目さまして
高貴な男君たちの耳に聞こえてくる下々の生活の音、中の品の恋人をもつ通の男たちの感慨でしょうか。
夕顔の巻の情景はうつくしい。
薫は、源氏ほど情趣を感じていない、ですよね。
そして、薫は浮舟をさらって抱えるように、宇治に連れ出します。
隠れ家に夕顔を連れ出す光君は、そこでの明けがた、
 鶏の聲などは聞えで… (僧の)翁びたる聲聞ゆる、となります。
不安におののく夕顔の予感は現実のものとなり、六条御息所の生霊に命を落としてしまいますが、
浮舟には違う運命を与えることになるわけですね。

浮舟物語は夕顔が重ねられて構想された、
紫式部が物語を綴っていく真骨頂がここにあるわけですね。
式部がいちばん書きたかったのは、中の品物語、
正編を終えて自分のために書くようになっていったからですね。



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