紫苑の部屋      

観劇・絵画と音楽・源氏物語      
について語ります        

映画「クロワッサンで朝食を」

2013-08-30 00:11:02 | 映画
(おしゃれをして年下のかつての恋人に逢いに向かうのです↖が、冷たくされてしまう)


原題は、UNE ESTONIENNE A PARIS パリのエストニア人、
なのですが、こういう映画のタイトル、日本は本当に抜群のセンスですね。
このタイトルだけで、
おしゃれで軽妙なパリの朝の風景をイメージしちゃいますからね。

若くて美しいヘプバーン、ならぬ、
85歳になるフランスの個性派名優ジャンヌ・モローが
向こう張って、どこまで迫るのか、
なんてあまり期待もせず、
どんなおばあちゃんになっているのか、
もそれほど期待もしなかった、のですが、
いやいや、恐れ入りました!
おしゃれなパリジェンヌ、たとえ老醜さらけ出したとしても、
やっぱりパリジェンヌ健在なり、です。

役柄上の孤独な老女というより、
モローその人の暮らしぶりそのものを見るような気がしてきます。
現にシャネルファッションは、すべて私物だそうですし、
部屋の調度もそれと知られたものが飾られていたようですし、
日本の私たちもよく知っている、ティーカップのウェッジウッド、
イヴ・サンローランのカーテン、バーバリのコート、
こてこてのブランド品オンパレードなのです。

そんなことはどうでもいいようなものですが、
エストニアからのお上りさんの家政婦が、
孤独でわがままで富裕な老婦人の心の扉を次第にひらかせていく、
ひと言でいえば、ただそれだけなのに、
なにがいいんだろう、

エストニアという遠い国が、
ロシア帝政から独立したとたんに、ソ連に占領され
民族としてのアイデンティティが疎外されてきた、長ーい長ーい苦難の歴史がある、ことを
さりげなく、感じさせる、

そういうことって、実感させられること、皆無ですものね。

パリに住むエストニア人の社会、
彼らだけのつながりのなかで生きて年老いていまに至っている、
そういうところで、見せている。

エストニア人の監督が母親のことをモデルにしている、
それが、リアリティをもってせまってくるのでしょう。

映画の冒頭、
雪に閉ざされた小さな町を50代とおぼしき女性が一人、
雪道を闊歩する、どこか陰鬱で苛立っている、、
別れた夫がまわりをうろつく、
介護する母親の存在、
それらのうっとうしさ、
やがて母親がぽっくり逝って、
パリに家政婦の職を紹介される。
彼女が国を離れる決心をさせたのは、
昔のテープ録音した名曲のシャンソン、それを聴いてかつて憧れたパリを想う、

そして、好意でしたことが、老婦人のもっとも触れられたくない過去を暴く形になってしまった
ことに耐えきれなくて、国に帰ろうとする、
その時にとどまる決意をさせたものも、魅惑のパリの街でした。↓
結局、この映画はパリの賛歌、なんです。
観客の私たちも、永遠の憧れのパリ、になんの異存もないのでした。



←ジャンヌ・モロー78歳
シネスイッチ銀座2013/08/20


最新の画像もっと見る

コメントを投稿