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紫苑の部屋      

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秋好中宮の願いー鈴虫の巻

2007-10-10 10:31:40 | 源氏物語
源氏は冷泉院に対面した後、
秋好中宮をたずねます。
冷泉院と静かな暮らしをしている中宮、
子のいない宮です。
御息所から財産を受け継いでいる、それも大きなバックとなっていた。
六条院は、その所有していた六条邸が元になっているもの、
中宮は、源氏にとってもっとも頼りになる、
源氏の世界を支えた中枢だった。
また、源氏亡き後を托せる唯一の人、でもあった、
なにしろ明石の上と同じ年ですから。

しかし、秋好中宮は出家を強く望みます。
 物の怪として現れた御息所の死霊、
うわさを耳にして、源氏に切迫した心情をうったえます。
 死しても人から疎まれる御息所、 
 先立たれた悲しみばかりの自分は不甲斐ない、
 その業火をさますべく、出家したい
高貴な中宮として座していた女性が、
このように苦悩する人間として、成長深化する姿をはじめて見せる場面となっている。

源氏は心を動かされ、真摯に中宮に向かい、
 出家して母を救うというのは、驕りであること、
 妃の位を捨てたのではこの世にうらみをのこす、
 それよりみずからの勤行に精進せよ、
と諭します。
冷泉院のこと、後のこと、托せるのはこの中宮だけなのですから、
どうしても出家してほしくない。

ところで、御息所の霊が、物語の終局まで引っ張ってきたこと、
あはれ、との感慨におちます。
でも、一般には恐ろしい般若、のイメージ、
とてもかわいそうな女性なんですよね、
冥界を彷徨わなくてはいけなくなった宿命を与えられて…。
源氏がよくなかったのに。

御息所の霊は、源氏だけに正体がわかるようになっている。
葵の上のときも源氏ひとりのときに生霊となって現れた。
若菜下でも、源氏が悪口を口にしたために紫の上に取り憑いた。
今度は人の目に触れたために、噂となってしまった。
源氏は御息所を避けつづけてきたのが、よくなかったのです。
正面から受けとめることができなかった、この源氏の弱さが元凶なんですね。

秋好中宮が娘として真剣に悩むのはもっともなことです。
平安期、母と子は冥界ではめぐりあうことはない、
住む世界が異なる、
と思われていたという。
ひとりの女として執心が残ってしまった御息所も、
中宮と源氏とのこの語り合いで鎮魂できたのでしょうか、
これまでの大円陣の物語の世界が終焉を向かえている、
そして、それぞれの主人公が固執していた思いから解き放たれていく、
そういう役割を、この鈴虫の巻がはたしているのです。


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