2020年からのパンデミックにおいて、国境を超えて世界に「蔓延」した言葉はいくつかありますが、“quarantine”という言葉はその代表です。日本語では、空港や港湾などで「検疫」と訳されていて、「植物検疫」、「動物検疫」などのように、以前から使われていました。
英語では、“quarantine”と呼ばれます。フランス語で“quarantaine”、スペイン語で“cuarentena”、ポルトガル語でも同じく“cuarentena”、ドイツ語で“Quarantäne”、デンマーク語で“karantæne”、スウェーデン語でも“karantän”、ロシア語でも“Карантин”(発音はカランティンのような感じ)、マレー語でも“kuarantin”、インドネシアでも“karantina”。これ以外にもいろいろとあるのでしょうが、ほとんど同じような音です。元のルーツはイタリア語の“quarantena”。実はこれはもともと「40日間」を意味する言葉だったのです。
イタリア語で数字の40は“quaranta” (クワランタ)。ほぼ“quarantena”です。これが今、世界中で同じ意味で使われている。なぜ検疫のルーツがイタリアなのか、なぜ40日なのか、ちょっと不思議に思われるかもしれませんが、そのあたりを解説していきたいと思います。
なぜ検疫のルーツがイタリアなのか?
話は14世紀に遡ります。ベニス(ヴェネツィア)は地中海貿易のハブとして栄えます。その前提として、十字軍や、モンゴル帝国、その成果としてのシルクロードを経由しての東西交易などがあるのですが、まさにグローバリゼーションの時代でした。マルコ・ポーロ(1254ー1324)はベニスの商人でしたが、絹や、香辛料などヨーロッパでは珍しかった東洋の産物が船で運び込まれる港がベニスだったのです。
東洋の産物だけでなく、感染症も持ち込まれました。14世紀から数世紀に渡って幾度となく感染拡大を繰り返し、ヨーロッパ全土に蔓延したいわゆる黒死病(ペスト)も、イタリアを経由してヨーロッパ各地に広がりました。
シルクロードを通って、エジプトや、トルコや、地中海東岸から多くの船がベニスに到着するのですが、黒死病の水際対策として取られた対策が40日間の検疫でした。感染の可能性のある船舶は、ベニスの港に入る前に40日間の停泊が義務付けられたのです。
ウィルスの実態もわからず、治療法もわからなかったのですが、40日間検疫をすれば、感染拡大を防げるということは当時の人々も理解をしていて、これが検疫システムとして、徹底して行われることになります。これが、英語の“quarantine”の語源になったのです。
なぜ40日なのか?
検疫のシステムを作ったのは、ベニスだけではありませんでした。今のクロアチアにドブロフニクという風光明媚な都市があります。ここも東洋交易の拠点でした。その昔、ダルマチア国のラグーサ(Ragusa)と呼ばれていたのが今のドブロフニクです。
ラグーサ市内での感染を予防するための水際対策として、陸路で来た旅行者はCavtat(ツァウタット)という町で、船舶は近くのMrkanという島で、30日間の検疫を受け、30日を過ぎて問題なければラグーサの市内に入れるというシステムでした。
ベニスでも同様のシステムで展開され、15世紀には、検疫だけでなく隔離治療する施設が、ラザレット・ヴェッキオという島と、ラザレット・ヌオヴォという島に作られました。
ベニスでは、水際対策を強化するために30日ではなく、40日となるのですが、これにはキリスト教の影響が大きく関わっていると言われています。
40という数字は、聖書の中にたびたび現れるマジックナンバーだったのです。ノアの方舟の話で、雨が降り続くのが40日、イエスキリストが荒野での断食を行う期間が40日と、いろいろと40日が出てきます。また、キリスト教の四旬節(レント)というのがありますが、灰の水曜日からグッドフライデーを経て、イースターまでの期間が40日となっています。おそらくこれらに合わせて40日としたのではないかと言われています。
日本語の「検疫」と“quarantine”の意味の微妙な乖離
日本語では「検疫」と訳されているのですが、「検疫」というとニュアンス的には一時的な検査の感じが強いです。PCR検査とか、検査という行為に重点が置かれているような感じです。隔離という行為はそれほど含まれておらず、隔離が必要な場合は、「ホテル隔離」とか「自主隔離」というふうに使われています。「検疫」という概念は一時的なもので、そこを通過してしまえば後は大丈夫という雰囲気でとらえがちです。
ところが英語の“quarantine”は、もともとの意味に「40日間」という期間が含まれていることからもわかるように、検査だけではなく、隔離という意味も含まれています。いろんな国で行われている“quarantine”はホテルなどの施設に一定期間閉じ込められ、その間に病気が発生するかどうかを見極める、それにより、不用意に感染が広がらないようにするという対策を意味しています。検査と隔離がセットになっている概念なのですね。さらにその単語は名詞でも使われるし、動詞としても使われるので、いろんな使われ方が可能です。
日本で水際の感染予防対策が徹底していないように思えるのは、このへんの言葉の意味の違いによるところがあったのではないかと言う気がしてなりません。日本が“quarantine”を「検疫」ではなく、日本人の好きなカタカナ語の「クォランティーン」としていたら、水際対策の意識も異なり、感染状況も多少違っていたのかもしれないと思ったりもしますが、今更の話ですみません。
英語では、“quarantine”と呼ばれます。フランス語で“quarantaine”、スペイン語で“cuarentena”、ポルトガル語でも同じく“cuarentena”、ドイツ語で“Quarantäne”、デンマーク語で“karantæne”、スウェーデン語でも“karantän”、ロシア語でも“Карантин”(発音はカランティンのような感じ)、マレー語でも“kuarantin”、インドネシアでも“karantina”。これ以外にもいろいろとあるのでしょうが、ほとんど同じような音です。元のルーツはイタリア語の“quarantena”。実はこれはもともと「40日間」を意味する言葉だったのです。
イタリア語で数字の40は“quaranta” (クワランタ)。ほぼ“quarantena”です。これが今、世界中で同じ意味で使われている。なぜ検疫のルーツがイタリアなのか、なぜ40日なのか、ちょっと不思議に思われるかもしれませんが、そのあたりを解説していきたいと思います。
なぜ検疫のルーツがイタリアなのか?
話は14世紀に遡ります。ベニス(ヴェネツィア)は地中海貿易のハブとして栄えます。その前提として、十字軍や、モンゴル帝国、その成果としてのシルクロードを経由しての東西交易などがあるのですが、まさにグローバリゼーションの時代でした。マルコ・ポーロ(1254ー1324)はベニスの商人でしたが、絹や、香辛料などヨーロッパでは珍しかった東洋の産物が船で運び込まれる港がベニスだったのです。
東洋の産物だけでなく、感染症も持ち込まれました。14世紀から数世紀に渡って幾度となく感染拡大を繰り返し、ヨーロッパ全土に蔓延したいわゆる黒死病(ペスト)も、イタリアを経由してヨーロッパ各地に広がりました。
シルクロードを通って、エジプトや、トルコや、地中海東岸から多くの船がベニスに到着するのですが、黒死病の水際対策として取られた対策が40日間の検疫でした。感染の可能性のある船舶は、ベニスの港に入る前に40日間の停泊が義務付けられたのです。
ウィルスの実態もわからず、治療法もわからなかったのですが、40日間検疫をすれば、感染拡大を防げるということは当時の人々も理解をしていて、これが検疫システムとして、徹底して行われることになります。これが、英語の“quarantine”の語源になったのです。
なぜ40日なのか?
検疫のシステムを作ったのは、ベニスだけではありませんでした。今のクロアチアにドブロフニクという風光明媚な都市があります。ここも東洋交易の拠点でした。その昔、ダルマチア国のラグーサ(Ragusa)と呼ばれていたのが今のドブロフニクです。
ラグーサ市内での感染を予防するための水際対策として、陸路で来た旅行者はCavtat(ツァウタット)という町で、船舶は近くのMrkanという島で、30日間の検疫を受け、30日を過ぎて問題なければラグーサの市内に入れるというシステムでした。
ベニスでも同様のシステムで展開され、15世紀には、検疫だけでなく隔離治療する施設が、ラザレット・ヴェッキオという島と、ラザレット・ヌオヴォという島に作られました。
ベニスでは、水際対策を強化するために30日ではなく、40日となるのですが、これにはキリスト教の影響が大きく関わっていると言われています。
40という数字は、聖書の中にたびたび現れるマジックナンバーだったのです。ノアの方舟の話で、雨が降り続くのが40日、イエスキリストが荒野での断食を行う期間が40日と、いろいろと40日が出てきます。また、キリスト教の四旬節(レント)というのがありますが、灰の水曜日からグッドフライデーを経て、イースターまでの期間が40日となっています。おそらくこれらに合わせて40日としたのではないかと言われています。
日本語の「検疫」と“quarantine”の意味の微妙な乖離
日本語では「検疫」と訳されているのですが、「検疫」というとニュアンス的には一時的な検査の感じが強いです。PCR検査とか、検査という行為に重点が置かれているような感じです。隔離という行為はそれほど含まれておらず、隔離が必要な場合は、「ホテル隔離」とか「自主隔離」というふうに使われています。「検疫」という概念は一時的なもので、そこを通過してしまえば後は大丈夫という雰囲気でとらえがちです。
ところが英語の“quarantine”は、もともとの意味に「40日間」という期間が含まれていることからもわかるように、検査だけではなく、隔離という意味も含まれています。いろんな国で行われている“quarantine”はホテルなどの施設に一定期間閉じ込められ、その間に病気が発生するかどうかを見極める、それにより、不用意に感染が広がらないようにするという対策を意味しています。検査と隔離がセットになっている概念なのですね。さらにその単語は名詞でも使われるし、動詞としても使われるので、いろんな使われ方が可能です。
日本で水際の感染予防対策が徹底していないように思えるのは、このへんの言葉の意味の違いによるところがあったのではないかと言う気がしてなりません。日本が“quarantine”を「検疫」ではなく、日本人の好きなカタカナ語の「クォランティーン」としていたら、水際対策の意識も異なり、感染状況も多少違っていたのかもしれないと思ったりもしますが、今更の話ですみません。