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誰も知らない、ものがたり。

短編小説「The Phantom City」 07

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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 褒められたケンは照れくさそうに笑う。そして、カヲリの出で立ちを改めて見ながら聞いた。

「カヲリは、今も外の街に住んでるの?」

「うん、そうだよ」

 何のてらいも無く返したカヲリの言葉を聞いて、ケンの瞳が少しだけ揺れた。

「・・・そうか、あ、いや、別にそれは自由で良いと、俺は思っているよ。でもさ、コロニーに住みたいとは、ちっとも思わないかい?」

「うーん、どうかな、今はまだいいかな」

 少し曖昧な返事。コロニーの生活に馴染んだ人に対して、あまりその事自体を否定するような言い回しはしないようにしている。コロニーの住人が外に住む人間に対しても同じような気遣いが自然と行われる。本音を声に出せない両者の溝は深まるばかりだ。その反応を見て、ケンはすぐ話をとりやめた。

「ああ、わるい、別に気にしないでくれ。そうか、まだ、買物中だよねきっと。ああ、そうだ、買物終わったらどうしてもカヲリに渡したいモノがあるんだ。コロニー内だったらどこからでも大丈夫だから、マルコを通して連絡してくれないか」

「渡したいもの?わたしに?」カヲリは首をかしげた。隣でマルコは二人のやりとりをじっと聞いている。

 ケンはそのマルコをチラリと見て、慌ててたように付け加える。

「・・・あのさ、ほら、ずっと昔に借りていた本があるだろ。それを返さなきゃって、ずっと気にしてたんだ」

「本?そんなことあったけ?」カヲリはまったく思い当たらない。

「そうだよ、カヲリはもう忘れてると思うけど。だから、とにかく連絡して!マルコもよろしく頼むよ!」

 マルコはAIだからそのような感情を持つとは思えなかったが、心なしかカヲリ側を保護するような毅然としたトーンでそれに答えた。

『残念ながら、その本の件はさすがに私のメモリの範囲外ですので、事実は判りませんが、とにかくケンさんはカヲリからの連絡がとても欲しいのは判りました。もしカヲリがそれでよければ、つないで差し上げましょう』

「なんだよ、偉そうに」ケンは若干ふて腐れたように眉をしかめながらマルコに言った。

「ふふふ、OKわかった。連絡するから、じゃあ、あとでね」

 「ありがとう、きっとだよ!じゃ、後で」ケンは安堵すると何やら慌てぎみに、やってきた方向に逆戻りするように足早に去って行った。

 

『・・・ナルホド』マルコはそのケンの様子を見て何やら察しをつけたように言った。そして、クルリとカヲリに向かって聞く。

『先に聞いておきますけど、カヲリには現在お付き合いされている恋人はいますか?』

「え?・・・いないけど」

『ホー、ホー!』マルコは忙しくカヲリの周りを回った。

 

 それから小一時間ほど、マルコを伴って衣料や生活雑貨の供給エリアで一通り目的の買物を済ませた。すると、マルコは今度は急かすようにして『ではケンに連絡を入れましょう!』と言ってきたので、テレフォンでつなぐ。

 マルコの顔を映し出していたモニター部分に、無事連絡をもらえたことにほっとした表情を浮かべたケンが現れる。テレフォンで少しだけ話をしてから、早速二人は地上区の公園の噴水の前で落ち合うことにした。

 

・・・つづく


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主題歌 『The Phantom City』
作詞・作曲 : shishy  

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