見出し画像

誰も知らない、ものがたり。

短編小説「The Phantom City」 08

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


一つ前の話を読む


 

「マルコ、色々ありがとうね、もう大丈夫だよ」

 ケンとのテレフォンを終えたカヲリは、地上区にでるエレベーターに向かって歩き出しながら、マルコをリリース(開放)するつもりで声を掛けた。

『いえいえ、まだワタクシの役目は終わっていません。お二人の連絡をつないだ以上は、きちんとその場所までご案内したいと思っています!』

 そう言ってカヲリのそばから離れず、一緒にエレベータまで乗り込んできた。

「コーディネートロボットって、結構自由なんだね」カヲリは何だか可笑しくなって言う。

『はい、これは新世界AIロボット法のサービス提供に関する条文にて自律的サポートの拡大的解釈範囲内としてその権利が認められています。我々AIロボットの意向も少しは尊重してもらえる時代になって、ワタクシとしては嬉しい限りです』

「ふーん・・・」何だか難しい話に適当な相づちを打ち、あとは好きにさせてあげることにした。

 せっかくだからと、地上区に出てからの道案内はマルコがしてくれたが、ほんの3分もしないうちに目的の公園に辿り着いた。噴水の前に先に付いたケンがいて、カヲリに気がつき手を振っている。同じように手を振り近づくカヲリ。そのうち、ケンがマルコの姿に気がついて声を上げる。

「あれ、ええと、マルコ?何で君までいるのさ」

『はい、ワタクシはまだコーディネートサービス提供任務の最中なので、どうぞお気遣いなく』

「一体何のコーディネートなのさ、まったく、変なロボットだな」

『そう言うケン、アナタはいつか、私に感謝する日が来るでしょうネ』

 マルコはブーンと音を出してまた二人の周囲をくるりと回った。その様子を見てケンは首をかしげている。

「まあ、いいじゃない、好きにさせてあげてよ」カヲリは笑顔でマルコを見てる。なついた可愛いペットみたいな愛着が沸いていた。

 そして、少し古びたブックカバー付きのハードカバーの本がケンの手に握られているのを目にして、はい、と手の平を上に向けて差し出した。

 ケンは心なしかどぎまぎとした様子で一度マルコの方に目配せをし、それから本をカヲリの手の平の上に載せた。

「何の本だっけ?」そういって本をめくろうとしたカヲリの手の動きを制するように本を上から押さえ、ケンは慌てて付け加える。

「い、いいじゃない、今は。ほら、家に帰ってから確かめてよ」

「なんで?」いいじゃない、と言わんばかりに本をもう一度開こうとするカヲリ。それをまた慌てて押さえるケン。

 その時、マルコの高解像度の視覚カメラはしっかりと捉えていた。本のページの間に何かの紙切れが挟まっていることを。

『紙・・・手紙・・・!ホー、ホー!』

 マルコは興奮したかのように二人の周りを先ほどよりさらに勢いをつけてグルグルと回り出した。

『コレは、アレですね、アレですね!』ブウウウンとドローンのプロペラ音が更に高まる。

「なによマルコまでどうしたの?」

 カヲリが怪訝そうにマルコに尋ねると同時に、ケンの表情は一瞬強ばった。

『カヲリ、いいから今はそのまま受けとって、後でじっくり自宅で本を開けばヨイデハナイデスカ!そうしましょう、そうしましょう!』

 それを聞いてケンは何かほっとしたような顔をし、マルコが何かしら勘づいてフォローしようとしている事をしり、カヲリに見えないようにこっそりと親指を立ててGoodのサインをマルコに送る。

『ほら、よかったでしょう?ワタクシの完璧なコーディネートにご満足いただけましたか?』マルコは周りに憚らず高らかに言い放った。

「?」カヲリだけ状況飲み込めずにいたが、まあいいかと言われたとおりにすることにした。

 カヲリとケンは一言二言交わすと、そのまま別れた。別れ際に「また会おう」というケンの言葉に手で合図をしてカヲリはその場を離れ、コロニーの出口へと歩き出す。

 マルコもようやくコーディネートサービスを解除し、持ち場へ戻る。最後までマルコはこうしつこく言っていた。

『イイですか、カヲリ、本をしっかりと閉じて家に持って帰ってくださいネ!フフフ!』

 

・・・つづく


次の話を読む



主題歌 『The Phantom City』
作詞・作曲 : shishy  

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ものがたり」カテゴリーもっと見る