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口からホラ吹いて空を飛ぶ。

 twitter:shirukozenzai 

夏目友人帳 8巻

2009-07-28 | 漫画
人は生まれ育った地を「故郷」、と書き、「ふるさと」、と言う。
その言葉の底にあるのは郷愁であったり、心の拠り所であったり、はたまた誇りであるのかもしれない。
その言葉が口に上る時それは対象が現在より過去、むしろ子供の頃が主になりやすい。
言葉そのものが時間を司り、しかも「今」のリアルタイム性より「昔」の遡及性にその効果は現われやすいのだ。


少年、夏目貴志は幼少からの境遇と、常人とは少々異なる「見え方」を持つ事が原因で生活の場を点々と盥回しにされてきた。
彼の両親、生まれた地、祖母レイコとの関係といった事情はまだ語られていない。
しかし彼の言動を見る限りにおいて、「生まれた地」についてはどれ程の感慨も無いであろう事は想像に難くない。


さて、では再び考えてみたい。
「故郷」とは、「ふるさと」とは何であろうか。

「先祖伝来の土地」と拘る者もいる。
「第二の故郷」などと嘯く者もいる。
反対に「根無し草」「風来坊」などといった、何処へも定着しない者もいる。
その言葉にそれだけの価値が有るならば、それ等を隔てる物とは一体なんだと言うのだろうか。

それは恐らく、「認識」の問題なのだ。
自分自身と、他人との認識のズレ。それは個々人により差が有るのは当然で、コミュニケーションを取る事で共有し、その差を修正していく。
子供であるならば尚更で、同世代の友達にしろ大人達にしろ周囲と密接な関係を築く事がその子供、ひいてはコミュニティ全体の認識を形成する事に繋がる。
それは土地、風土への帰属意識にも関わる事で、「時間」という要素が加わる事でゆっくりと積み重なり文字通り「重みが増す」のだ。


夏目少年にとって不幸だったのは、彼の認識を共有できる者がいないばかりか、理解しようと試みる者も、寛容である者もいなかった事だ。
それは人間も妖怪も、である。
かつて夏目少年を限りなく人間の女性に近い姿でいたわった妖怪がいたが、それは少年の認識を混乱させ、むしろ少年を傷つける結果となった。
彼女(仮としてだが)が悪い訳ではない。「人間として」彼を癒してあげたい、というのは理解できる。
だが「人」と「人に在らざる者」の認識の違いに彼女が思い至れなかった、というのが結局は彼を傷つけてしまう結果となったのだ。

この8巻で語られるのはその夏目少年と「半歩だけ」認識を共有できる友人達と、更に少年そのものを許容してくれる周囲の人々の話である。

「帰りたい場所が出来たんだ」

夏目少年は幼少よりの長い間「漂流者」であった。
自らの意思が伴う「放浪」ではない。
少年を押し流す力は周囲の「無理解」とそれに伴う「恐怖」だ。少年もそれに抗おうと試みるも、非力な子供ではどうにも出来ず、結局心を閉ざし自らを守るので精一杯であった。
そんな少年をようやく助け出す人が現われる。藤原夫妻だ。
親戚の中でも遠縁、というのが幸いしたのかもしれない。
「未知のもの」に対して比較的寛容な印象を受ける土地柄、風土、というのもあるかもしれない。
いや、何より少年にとってそれまでの「対人運」があまりにも悪すぎた。
流された地がどれだけ肥沃であろうと凍りついていては、芽を出す事は叶うまい。
少年にとって、ようやく根を下ろせる暖かな土地に流れ着く事が出来たのだ。
今はまだ川の中州で不安定な状態なのかもしれない。
根を伸ばそうにも周りを見ながらおっかなびっくり伸ばしている状態なのかもしれない。
だがそのうち水も引き、暖かな大地と太陽の下で落ち着く事が出来るであろう。


生まれ育った地、が全てではない。
「故郷」とは、つまりはそういう場所なのではないだろうか。








あ、ニャンコ先生がいつもよりちゃんと用心棒してたのが良かったです。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大きく根をはれよ~~ (mina)
2009-07-28 19:32:34
しるこさんの夏目感想キタ!
相変わらずよい文章を書かれますね…
見習いたいんだけど、私の場合は「萌え」が先に来ちゃってさ、何かハアハアした感想出てこんのよ。
とりあえず「田沼はオレの嫁」ってことで!
(夏目の婿だから嫁婿なんだけどな!)
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褒めても何も出ないぞ (汁粉善哉)
2009-07-28 21:32:49
褒められれば素直に嬉しいが、基本的に「何書くか」さえ決めて、後はそれをネチネチ書けばいいのよ。
だからハアハアした記事でも別に良いのよ。
愛があれば。
しかし難産だった。このノリはマジ消耗する。

なんか向こうで宣伝してくれたみたいでありがと~。
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