サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

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産業公害、都市生活型公害、地球環境問題への緩和と適応

2014年07月13日 | 気候変動適応

 法政大学社会学部での環境政策論の講義で、気候変動への緩和策とともに、適応策を教えてみた。

 

 その最後に、産業公害、都市生活公害、地球環境問題の構図を示し、次のようなまとめを解説した。

 

1. 産業公害は、企業が地域環境に環境負荷を与え、地域環境の悪化を介して、地域住民が健康被害を受けるという構図である。加害者が企業であり、被害者は地域住民である。これに対して、都市生活型公害は、不特定多数の消費者・生活者が加害者となり、地域環境を悪化させ、同時に環境悪化の影響を受ける被害者となる。つまり、加害者と被害者が区別されない同一主体である。都市生活型公害は、企業への規制や指導という手法が有効な産業公害よりも、発生源が不特定多数という点で対策が難しい面もあるが、それでも技術や行動の普及を促すポリシーミックスによって、一定の改善を得てきた。

 

2. 地球環境問題(気候変動)は、都市生活型公害の延長上にあるが、加害者は現在世代あるいは先進国であり、被害者は将来世代、開発途上国が中心となる。不特定多数の消費者・加害者が環境負荷の発生源という点で、都市生活型公害と一致するが、「被害者と加害者の時間及び空間的なずれ」がある点で異なる。この点が、気候変動の問題への対策を難しくしてきた。つまり、対策の効果が自己に還元されるかどうか、不確実性が高く、対策の有効性さらには正当性を確保しにくいのである。

 

3. しかし、気候変動への対策が遅れがちになってきた現在、温室効果ガスの大気中の濃度が上昇し、気候変動は将来ではなく現在、開発途上国だけでなく、インフラ等の整備されている先進国においてさえ、深刻な問題として顕在化してきている。このため、気候変動の問題は、都市生活型公害と同じく、加害者と被害者が同一な問題となってきている。

 

4. 3のような状況において、気候変動問題においても、自らが被害者であることが目に見えてくることで、環境負荷の削減対策である緩和策の受容性が高まる。ここで重要なことは、都市生活型公害(例えば、湖沼の水質汚濁)と同様に、自らが発生させる環境負荷が、いかに自らが大事にしている身の回りの環境を悪化させるかを明らかにして、消費者・生活者に伝えることである。現在だけでなく、将来影響についての予測結果の共有も重要である。この環境悪化の影響の見える化・自分ごと化が、まだまだ十分に実施されておらず、政策努力がさらに必要である。

 

5. 一方、緩和(環境負荷の削減という加害への対策)と適応(環境悪化の影響への被害への対策)という観点でみると、産業公害や都市生活型公害では緩和策が中心であり、適応策が強く推進されてきたことはない(昔の北九州の児童向けの教科書で、「公害に打ち勝つ強い体をつくろう」と記されたことがあり、それは強引な適応策ともいえるが)。しかし、気候変動では、緩和策の推進とともに、適応策を進めざるを得なくなっている。

 

6. つまり、気候変動の問題は、産業公害や都市生活公害と同様に、環境を媒介とした加害者と被害者がいる環境問題であるが、緩和策だけでなく、適応策を検討せざるを得なくなっている点で、これまでの環境問題の対策とは大きく異なる。適応策というこれまで実施したことがない環境政策担当は、まったく不慣れな適応という対策をとることに、違和感を感じ、ためらいを持っているのが現状である。

 

 以上が構図の変遷の解説である。

 

 では、どうしたらいいのか。環境政策のこれまでの枠組みを変えて、環境部局で適応策を扱うようにしていくのか、それとも適応策は別ものとして環境部局はあまりかかわらないようにするのか。環境部局としての領域の足元を見直すような議論も必要である。

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